第14話
多くの月日が流れた。
それからも私は二人を眺めながら花園を育て、同じ毎日を続けていた。
見つめる先にある二人の生活には、大きな進展はないが、いつも穏やかで幸福な時間が流れており、私もそれを自分の慰めに感じていた。
いいえ、本当にそうなの。あの二人から幸せのお裾分けを貰っているような気がする。
最近では、心にずっとあった絵も言われぬ焦りを感じることもなくなった。こんなにも日常を穏やかに感じることは久しいことだった。
大きな変化があったとすれば、耳元の声が恫喝に近い言葉を吐き散らして、私への敵対心隠さずに罵倒するようになったことだろうか。
私はそれを飄々と聞き流して、花々に囲まれながら祈りを捧げ続けていた。
あれから一歩も進むこともなく、その場に留まり続けている。
私は自分の新しい生活を築き始めていた。
そして、ずっと同じ場所に留まっていると気づくことがあった。
時おり、迷い人が訪れるようになったのだ。
どうやら彼らは私と同じように蜃気楼の幻を見て、それぞれの願いに誘い込まれて、砂漠に迷い込んでしまったらしい。
私のいるこの場所が、広大な砂漠のどの位置にあるのかは想像もつかないが、迷い込む人々は東西南北どこからもやって来ていた。
私は自分と同じ境遇にある彼らを哀れに思って、必ず引き止めて、自分の花園で休ませることにしていた。
そして、不思議なのだが–––––。
彼らは私の花園で休むと、自我を取り戻し、囚われていた幻から解放されてゆくようだった。
酷く暴れる者もあったが、花園にいると徐々に小康していった。
私は正気に戻った迷い人と、しばらく祈りを共にしながら過ごして、いずれか彼らが完全に回復して、花園から離れて、故郷に帰ろうという時に、決まって一輪の花を抜き取り、彼らに渡すのようにしていた。
無事に故郷に帰れるように願ってのことだったが、花は役割を了承したかのように仄かに光って、実際に迷い人たちを導いて故郷に帰して行ってくれた。
そうして長い月日が経ち、私の幻に(あの二人の間に)、大きな変化が訪れようとしているのを確認する。
久々に心が乱れて、この場に留まるかどうか、いても立ってもいられず迷っていたところ。ちょうどその時、私がかつて向かっていた方角の国から見覚えのある異国衣装を身に纏った迷い人が訪れたのだった。
私はその迷い人をいつのものように休ませ、その人が故郷に帰る際に、ぜひ訪ねてほしい夫婦がいると言って、その人を守る一輪の花とは別に、花束を渡した。
それから一年が過ぎ、私の親愛なる夫婦の元に花が届いた。
幻に浮かぶ二人は、彼らから生まれた幼い命を共に、私の花束を抱きかかえて喜んでくれていた。
私は目を見開いて、まざまざとその光景を目に焼き付ける。
「届いた‥‥。私の恋は叶った。私は報われんだ‥‥」
涙を流して、そう喜ぶ私を、周りの花々が慰めてくれているようだった。
そして、それきり幻は見えなくなり、耳元の声も聞こえなくなった。
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