ワタリドリ。
74式豆鉄砲
第1話
「アハハ!」
いつもの光景だ。放課後、光差す教室に二人。目の前にいる優男、
「も......もう!笑わせないでよ!」
八弥は腹を抱えて涙目になる。きっと笑いすぎて涙目になったのだろう。
僕は無機質な苦笑いをしてその場をやり過ごす。
「......は~......にしても。
笑いが治まり、真面目に話す。そうだ。僕...
気づけば、机に座っていた八弥が、ポケットからスマホを取り出し、僕に画面を見せる。
「これでしょ? 『リトス・ワールド』」
スマホの画面には、新作フルダイブ型VRMMOゲーム、リトス・ワールドのホームページが画面に映っていた。
八弥はスマホをポケットにしまい、真面目な顔で問いかける。
「......でも、なんでこのゲームを買ったんだ?このゲーム、
八弥は首を傾げる。そりゃそうだ。僕はゲームはおろか、今まで何かに金を使ったことが無かった。それを八弥は分かってるはずだ。そして、そのゲームを買った理由も、八弥は分かっているはずだ。でも、僕は言う事にした。
「......と......に......ら」
「ん?ごめん!聞こえなかった!」
八弥は申し訳なさそうに言った後、八弥の耳を僕の口元に近づける。多分、聞こえなかったのだろう。僕は無機質にもう一回言う。
「......鳥になりたかったから」
八弥はその言葉を聞いた後、数秒固まった。やっぱりだ。固まると思った。だから 僕は無反応だった。
数秒固まった後、八弥は笑い出す。
「ぷぷっ......アハハ!」
八弥はひたすらに笑う。邪念などないような笑顔で。
ひとしきり笑った後、八弥は息を整える。
「はぁー......笑った! やっぱり疾風は変わらないねっ!」
そうだ。昔っから、僕は変わっていない。いつも無機質で、感情を表に出すことはほとんどない。
それが僕だ。
「......でも――」
八弥は首を傾げる。でも、言いたいことはなんとなく分かる。
「
八弥は少し驚く。だが、すぐに表情を戻す。
「さっすがだねぇ! 流石に6年間の絆はあるみたい!」
僕はため息を吐き、少し困惑しつつも答えを返す。
「......このゲームは、キャラ作成時に種族を選べる。最初は皆弱いんだ」
八弥は一瞬、考える素振りを見せる。そして答えを出すかのように言う。
「......そりゃそうだろ。最初から強かったらゲームとして成立しない。......よな?」
僕が言うのもなんだが、八弥はあまりゲームをしない。なので、ゲームの知識と実力があまりない。でも、僕以上はするようだ。多分、彼女とプレイしているのだろう。
「そう。だけど、人間以外の種族は進化が出来る」
八弥は首を傾げる。
「し、しんか?」
僕は少し考えた。こういうシステムは、説明が難しい。そもそも、このゲーム自体プレイしたことないのだから。事前情報のみで説明しろと言われても、大体の人間は難しいだろう。僕もその内の一人だ。
「うーむ。前貸したファンタジー小説あっただろ?」
実は僕は本を読んでいる。意外と知識を頭に入れるのは面白いモノだ。だが..どうも異世界モノは性に合わない。だから、リサイクルショップ送りになる前に全く本を読まない八弥に貸した。意外と面白かったようで、ハマってくれた。
「ああ、あった――」
八弥は思い出したような顔をする。
「......なるほどそういう感じか」
八弥は納得したようだ。
「......それでな、例えば、種族を鳥にしたとして。
八弥は目をキラキラさせて、僕の目の前に近寄る。
「不死鳥!」
何故八弥がファンタジーっぽい伝説上の生き物を知っているのか。
僕は若干引きつつ、いつもの無機質な声で答える。
「そうだよ。それって......ワクワクしないか」
僕の言葉を聞いた後、八弥が笑い出す。何故か、それは僕には分からなかった。
困惑していると、ようやく喋り出す。
「ふふっ..いやっ..ぷぷっ....まさか、
確かに、僕にしては不相応な発言だったかもしれない。でも、事実だから仕方ない。昔に感じた
「......この気持ちは本当だ。随分と昔に戻ったような感覚だよ」
八弥がとびっきりの笑顔で言う。
「本当に! そうだな!」
その雰囲気に、何故か外を見てしまう。気づけば、空は紫色になっていた。
視線に気づいたのか、八弥が空を見る。
「「空――」」
シンクロしてしまった。僕と八弥は顔を見合わせて。八弥は笑顔で、僕は――
「帰ろう」「帰ろっか!」
僕の表情筋は、少し緩まった気がした。
「じゃな~!」
八弥は手を振る。僕は手を振らずに、振り返る。ふと、腕時計を見る。ふと、言葉をこぼす。
「やべっ」
そうだ。リトス・ワールドのリリース日が今日だった。そしてリリース時間が迫っている。僕は小走りで家に向かう。
家に着き、誰もいない家で靴を脱ぎ、そのまま
「えーと......起動方法は――」
思い出した。数秒だけ、ワクワクを胸に閉じ込める。
そして、魔法の言葉のように、一つの単語を言う。
「日出づる処の天子」
視界はカラフルに彩られる。
数秒経つと、小さな、真っ白な部屋が現れる。ロードが終わったのだろう。
周りを見渡しても、人やら、物やらは居ない。
「......」
とりあえず待ってみる。回線が混んでいるのだろうか。
少し待つと、背中から無機質な声を掛けられる。僕は振り返った。
「こんにちは。それとも、こんばんわでしょうか?」
振り返った先に居たのは女神でも、おじいちゃんのような神でもなく。そこに居たのは無が居た。いや、
「どちらかと言うと、こんばんわ。かな」
僕の身体を無の方に向ける。
無は笑顔でお辞儀をする。と言っても、なんとなく感じているだけで視界から得られる情報は無としか分かっていない。
不思議な感覚だ。
「ようこそ。リトス・ワールドへ」
さて、早くキャラクタークリエイトをしたいのだが......
世界観などは既にネットで調べて、何となくは知っている。
一応聞いておいた方がいいのか?
「さて、貴方の
無は首を傾げる。やっぱり、不思議な感覚だ。
「一応、説明してくれ」
僕は無機質な声でそう答える。
やはり、復習は大事なのだ。それに、ここだけの情報もあるかもしれない。
「はい。了解いたしました」
無は数秒息を整え、説明を始める。
「まず、世界観の説明から。この
「アニミズム」
予想していた。と言う顔で無機質に言う。
「やはり、答えると思っていました」
アニミズムとは、全ての物質や生物に魂や霊が宿っているという思想や信仰の事を指す。日本では八百万の神と言う名の方が親しまれている筈だ。
そして、答えると思っていた。と言う事は、やはり僕の
「......そうです。この
魔物は......確か、この
「魔物と言う存在が居る事により、畑や道路、その他インフラ施設が破壊されます。ですので、この
なるほど。よくあるMMORPGゲームのような感じみたいだ。
やはり、ワクワクが止まらない。
「貴方達の目的は、魔物を統べる王を、人類の発展のために倒す。もしくは無力化することです」
ちょっと引っかかるが、まぁそういうものなのだろう。
ただ、僕がプレイしたい種族は、魔物側だ。
「あ、そうだ」
僕が声をこぼす。無は首を傾げ、意図を汲み取る。
「ああ、言っていませんでしたね。私は......特に決まった名前は無いです。まぁ、システムとお呼びくださいませ。それとも、他に呼びたい名前があれば――」
別に、呼びたい名前は無いため、システムで良いと思った。
「システムで良い」
無機質に僕は言う。
「ありがとうございます。さて、他に質問等ございますか?」
その問いかけに、僕は鼓動が早くなるのを感じた。この夢を、この願望を、叶えてくれる所なんてなかった。でも、この
「鳥になれる......のか?」
何故鳥になりたいか。単純だ。自由を翔ける鳥に、憧れたから。空を翔け、時には集団で、時には孤独に暮らす。そんな鳥が好きだ。
一瞬システムは驚く。すぐに顔は真面目になり、少し考えた後口を開く。
僕はその言葉を待っていた。僕の鼓動は早くなる。
「......それは、魔物側、と言う事ですか?」
無論、鳥になれたら魔物でも、人間側でもなんでもいい。
......魔物側の方が面白そうだな
「......そりゃ、魔物側に鳥とかがいなかったら人間側とかにするが......まぁ、魔物側の方が楽しそうだな」
正に悪役プレイと言う感じだろう。悪役プレイ自体、前々から興味があった。現実では出来ないし。それに、不死鳥って何か魔物のような感じがする。
「......珍しいですね。種族を魔物側にする人は貴方が初めてです」
システムはクスクスと微笑む。そして、何かウィンドウのような、電子の板を出現させる。白い部屋でシステムを待っている間に色々動作を試したが、そんな動作は説明書に書いていなかった。
システムはなにやら操作をした後、驚いたように言う。
「種族を初めて魔物側に設定された方に、
中々説明が長かったが......始まったらとりあえずメニュー開けば良いんだな。
そして、システムは微笑み、指を鳴らす。
指を鳴らした瞬間、僕の周りに先程システムが持っていた、電子の板が現れた。かなり大きい。電子の板には、顔のパーツだったり、髪型などが映る。
システムは無機質に言う。
「さて、キャラクタークリエイトです。ベースは貴方の顔と体となり、そこから髪型、体型などを変えられます」
一つ、疑問に浮かぶ。僕は鳥を選んだ筈だ。なのに......髪型などを選ぶ必要があるのか?
それを言おうとすると、システムが再度指を鳴らす。
指を鳴らすと、画面が消える。
「ですが、貴方は鳥です。そんなモノ、必要ありません」
貴方は鳥。その言葉に、僕は胸がワクワクするのを感じる。
そして、システムは笑顔で言う。
「貴方は、どのような旅をして、どのような事をするのでしょう。それを、私はすぐ近くで見ております。それでは――」
床の穴が開く。下を咄嗟に見ると、雲の遥か上だと分かる。
僕は咄嗟に口を開ける。
「ちょっ――」
最早僕の視界には映っていないシステムが、大声で言う。
「いってらっしゃい!」
僕はそんなことを聞いた後、遥か上空から落ちる。
同時に、身体が変化するのを感じる。
少しすると、全身に強い、いや、言葉では言い表せない程の痛みが襲う。
「ぐあ゛っっ......!!」
最早痛すぎて言葉が出なかった。
程なくして、僕は落下中に気絶する。
身体に強い衝撃を受ける。その衝撃で、僕は起きる。
僕はとりあえず周りを見渡す。程なくして、違和感に気付く。
やけに木々が大きいし、葉っぱも大きい。自分と同じぐらいの大きさだろうか。
......自分と同じぐらいの大きさ?
その事実に気付いた時、自分の身体を見る。
「......わぁ」
身体は、小さい角が生えた雀になっていた。
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