『声劇⭐︎星空設計シリーズ』地元の空、緑の季節
きゆなつひ
再会
声劇台本「緑が深くなる頃に」
【登場人物】
* 澄田 美伽(すみだ みか): 主人公。30代後半。インテリアショップ兼カフェのオーナー。1年前に夫を亡くした。
* 三田 静香(みた しずか): 美伽の先輩で共同経営者。40代。サバサバしていて頼れる女性。
* 柏木 譲(かしわぎ ゆずる): 美伽の元恋人。30代後半。工務店勤務。誠実な雰囲気。
【シーン1】 事務所・昼下がり
SE: カフェの穏やかなBGM、遠くで聞こえる食器の音
美伽(M): (窓の外を眺めながら、独り言のように)緑が深くなった。…目に映える青空が、もうすぐ夏が来るんだって教えてくれる。お店を開いて4年。夫を見送って、1年。…一周忌も終えて、ようやく、一区切り、なのかな。
静香: (テレビを見ながら)美伽はさ、もう恋愛とか考えようかなぁって思ってるの?
美伽: (少しおどけて)三田先輩みたいな、素敵な独身男性がいたら考えようかなぁ。
静香: (呆れたように笑う)わたしゃ、男じゃないよ?それに結婚してるから無理だねー。(立ち上がり、コーヒーを淹れにいく)…っていうか、娘が独り立ちするまでは、とか、まだ旦那に未練がぁ、とかじゃないのかよ。まぁ、美伽らしいけど。
美伽(M): 恋愛、か。十代や二十代の頃のような気力も体力も、もうない。娘ももう十四歳。最近じゃ「ママは一人じゃ生きていけないんだから、彼氏探さないの?」なんて言われる始末だ。(店内に飾られた夫の写真に目をやり)…ねぇ、康樹さん。私、やっぱり頼りないですかねぇ。
美伽(M): 「美伽が楽なのが一番」…それは、あなたの口癖だった。もっと、甘えておけばよかったな。…甘えられる相手、かぁ…。
美伽(M): (苦笑いを浮かべ)そんな人、あなた以外にいたかなぁ…。あ…
静香: (コーヒーカップを手に戻ってくる)何を考えとるんだい?
美伽: (ハッとして)あ、いえ、なんでも。
静香: (ニヤリと笑い)なんでもない、優しい男のことかね?
美伽: (ドキッとして)…三田先輩、知ってますもんね。
静香: まぁ、澄田さんの前に付き合ってたのが、そいつだもんね。
美伽(M): そうだ。…柏木。私がインテリアの仕事を始めたのも、全部あの人がきっかけだった。彼の考える設計が、本当に、本当に好きだったんだ。…木の温もりを大事にした、メリハリのある空間。…あんな人と仕事ができたらって、ずっと憧れてた。…それなのに。
美伽: …まだ、大工、やってるのかなぁ、アイツ。
静香: (真顔で)やってるよ。大工じゃないけど、管理営業としてね。
美伽: え…?
静香: (少し楽しそうに)澄田さんが、ずっーと美伽にバレないように隠してたけど、実は、ここを開いてから取引のある工務店、5割以上柏木くんの関連会社だよ。
美伽: …え?…私、知らないですよ?そんな話…。帳票だって、柏木の名前なんか…
静香: (イタズラっぽく笑う)澄田さん、あなたが柏木くんに未練あるの知ってたし。でもね、だからこそ、渡り合ってみたかったんだって。「美伽が好きになった人だから関わってみたい」って言ってたよ。それに…
SE: コンコン(事務所のドアをノックする音)
静香: (楽しそうに口角を上げて)ほら、噂をすれば。どうぞー、開いてるよ!
SE: ガチャ(ドアが開く音)
柏木: (少し照れたように)…どうも。
美伽(M): …あ…。見慣れていた顔。…いや、少し、大人になった顔。嬉しそうなのに、困ったみたいな、懐かしい顔…。
美伽: (思わず窓の方へ顔をそむける)
静香: (呆れた声で)美伽、ちゃんと挨拶しな?
柏木: (穏やかな声で)美伽さん、元気そうでよかった。本当は澄田さんのお葬式、顔出したかったんだけど、外せない仕事があって、ここまで挨拶に来れなかった。ごめんね。
美伽: (か細い声で)…だ、大丈夫だよ。
静香: (場を和ませるように)はいはい、そこ、固まらない!柏木くん、こっち座って。今、とっておきの水出しコーヒー淹れるから。
【シーン2】 事務所・打ち合わせ
SE: 書類をめくる音、コーヒーカップを置く音
柏木: …というわけでして。二世帯住宅のメインリビングなんですが、息子さん夫婦は和モダン、ご両親は北欧風と、それぞれお好みがはっきりしてまして。
静香: なるほどね。それで譲り合って話が進まないと。で、折衷案じゃなくて、全く違うテイストで、うちに白羽の矢が立った、と。
柏木: さすが、話が早い。お客様も三田さんのご指名なんです。今回も何卒!
静香: (楽しそうに)はいはい。まぁ、とりあえず来客スペースにも相応しいゆったりできるデザインでも、格式が大事ってことだよね。来週、お客様も交えてプランニングしましょう。
美伽(M): (二人の会話をただ聞いている)…すごい。まるで昔からの戦友みたいだ。私の知らないところで、ずっと二人はこうやって仕事をしてきたんだ…。
静香: (立ち上がりながら)さてと。じゃ、私はちょっと買い出しに行ってくるから。あとはよしなに。
美伽: え、ちょ、先輩!?
SE: 静香が部屋を出ていくドアの音
【シーン3】 事務所・二人きり
SE: 静寂、微かに聞こえるカフェのBGM、時計の秒針の音
美伽(M): (気まずさに俯く)どうしよう…何を話せば…。
柏木: (少し間を置いて、優しく)…ねぇ、美伽さん。
美伽: (顔を上げて)…はい。
柏木: 今夜って、暇かな?
美伽: (思わず)…うん。暇、かな。
柏木: (ホッとしたように微笑む)よかった。実は、澄田さん…康樹さんから、預かっていたものがあるんだ。よかったら、食事でもしながら…。
美伽(M): 康樹さんから…?(娘の顔が浮かぶ)…夕飯は、今日娘が当番の日だ。メニュー変更も、、今ならまだ、間に合う…。帰りにケーキとか買っていくか、、。
美伽: …うん。…わかった。行く。
柏木: (嬉しそうに)…じゃあ、また後で。
美伽(M): 止まっていたはずの時間が、また、ゆっくりと動き出すような。そんな、緑の匂いがした。
SE: カフェの穏やかなBGMが少し大きくなり、フェードアウト。
『声劇⭐︎星空設計シリーズ』地元の空、緑の季節 きゆなつひ @yukimidaifuku1220
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