第20話
ひとしきり喜んだ後で、僕たちは払い戻しを受けて、競馬場を後にした。
多少、時間がかかったが、額が大きいので仕方ない。百万円を超えたら、自動券売機では払い戻しができず、ドキドキしながら待つしかなかった。
晴彦さんは帰りに派手に飲んで祝勝会をするつもりだったが、山林堂が断固拒否した。酔っ払って、なくされたら困る。とにかく今日は早く帰って寝てと言って引かなかった。
妥協案としてファミレスでの食事となったが、その間も山林堂はお金の入った鞄をしっかり手許において、目を離さなかった。うーうー唸って周りをにらみつける姿はちょっとおかしかった。
それで今回の配当金は晴彦さんが預かることになった。そもそもお金を出したのは晴彦さんだし、ここでお金をもらえば、多分、競馬法に違反する。バレなければ、どうでもいいという考えもあるが、僕はダメだ。
なら、ここは、晴彦さんにまかせる。山林堂の役に立つようにしてくれると言ったてくれたのだから、信じていいと思う。
食事をして、その日は早い時間に別れた。最後まで山林堂は上機嫌だった。
その日は寝つけなかった。すごい体験をしたことは間違いない。
ただ、それで日常が変わるわけではない。学校は厳然として存在し、授業は淡々とおこなわれるのだから、翌日、僕は前と同じように登校し、いつもと同じ席について、先生の話を聞いていた。
教室で話しかけてくる者はいないし、こちらから話しかけることもない。
ボッチの日々は変わらずつづく。
期末試験になっても、終了式が終わっても。
ただ、ほんの少しだけ変化もあった。
まずは、のぞきの真犯人が捕まった。
僕は知らなかったが、11月のなかばぐらいから、またのぞき事件が再発していて、クラスの女子はピリピリしていたらしい。
事件が起きたのは、期末試験の前で、着替えの場面を犯人が見ていた。警戒していた女子が声を張りあげ、逃げ出した男を取り押さえ、そのまま先生のところへ連れて行った。
やったのは三年の男子で、捕まえられた時に、余罪を吐き、去年の事件についての真相が明らかになった。おかげで、僕の無罪は証明された。
といっても、クラスメイトは僕を遠巻きにしてするだけで、積極的に声をかけてくることはなかった。気まずいのか、他に訳があるのか。よくわからないが、今さら話しかけられても困るので、ちょうどよかった。
山林堂の友達である高橋さんだけは謝ってくれたが、それも照れくさかった。
高橋さんによると、再度、のぞきの噂が流れた時、山林堂がクラスメイトのみならず、同じ学年に知り合いに声をかけ、網を張っていたらしい。わざとのぞきやすい状況を作り、待っていたところで、犯人がやってきて、御用となった。
さすが、陽キャ。そのコミュ力には驚く。
あとは変わったのは……そう、山林堂といっしょにいる時間が増えた。昼をいっしょに食べたり、放課後、時間をあわせて、二人で帰ったりした。たわいもない話をして、笑いあった。
競馬場にも行った。馬券を買うことはなかったが、馬を見て、どれが勝つか話をした。
顔を真っ赤にして、声を張りあげる山林堂を見るのは楽しかった。いつも、あたしばっかりと言っていたが、夢中になるのはそっちだから仕方なかった。
「何かいやだなあ。あたしだけ弱味を握られているような気がする」
あるレースが終わった後、山林堂は僕を見た。
「本橋君もたまには弱味を見せてよ」
「そんなことないよ。結構、本音は見せていると思う」
「どうかなあ。肝心なところは隠しているように見える。友達でしょ。もっと話してよ」
「話しているってば」
「とても、そうは思えないんですけれどー」
「別に何もないから」
「はいはい、わかった。だったら、時間をかけて化けの皮を剥いでやる。手加減はしないから」
「手を抜いてくれるとありがたいんだけど」
「ダメ、徹底してやる。だから……」
山林堂は、僕を正面から見据えて、笑った。
「覚悟してね、宗太」
弾けるような本気の微笑みを見て、僕は温かい気持ちになる。
照れくささを感じながらも、笑みを浮かべる。それは、驚くほど心地よかった。
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