第4話
夕陽は、すごいな。
ざわつく教室と、その中心にいる涙を拭うクラスメイト。それを全部ほっぽって、面倒臭いからサボるって廊下をスタスタ歩いて行った夕陽の背中を思い出して思わずクスッと笑ってしまう。
夕陽は確かに語気が強いところがあるし、大きな吊り目で睨まれると女の子は怖いと思うかもしれないけれど、気まぐれで人を傷つけたり、嘘をついたりしない子だ。
それは入学してから今までの1ヶ月間で、よくわかっている。きっと今涙を拭う彼女が、夕陽になにか酷いことをしたんだろう。そう思いながら騒がしい教室の中でひとり席に着く。
窓の外をぼーっと眺めると、
少しだけ気持ちが落ち着く気がする。
夕陽は、すごいな。
もう一度心の中でそう繰り返す。
自分の気持ちが、はっきり人に言えるんだから。
「旭、どしたー?テンション低くね?」
同じクラスの杉原に声をかけられて、ハッとする。やばい、つい素が出ちゃってたわ。
「あ、いやー、昨日部活終わり夜中までゲームしちゃってさ、めちゃくちゃ眠いんだわ。」
そう返すと杉原はぎゃはは!と耳をつんざくような声で笑う。
「まじ!?なんのゲームだよウケる!
バスケ部の次期エースのくせに
そんな夜更かししてんなよなー!」
ガバッと杉原が俺に覆い被さるように肩を組んでくる。耳元で大きな声で笑う杉原を、本当はそのまま地面に叩き付けてやりたい気持ちだったけど、俺にはそんなことはできない。
、、、俺は、夕陽みたいにできないから。
俺は、物心ついた頃からこうだった。
やけに自分を俯瞰して見てしまう癖があって、自分が今どうするべきか、どうしたら目の前の人が喜んでくれるのかがなんとなくわかった。
だからずっと、目の前の親や、友達、クラスメイトたちが喜ぶことを選択してきた。
その積み重ねが、今の俺だ。
バスケ部の次期エースで、クラスメイトとも家族とも仲が良く、誰とでも気兼ねなく喋れて勉強もできる優等生。
側から見ればすごいやつなのかもしれない。
だけど俺はいつからか、人の喜ぶ選択ばかりしてきたせいで、自分の本当の気持ちを見つけることができなくなっていた。
もう自分が本当にやりたいことも、会いたい人も、食べたいものすら、何も無くなってしまった。
だからこそ、衝撃だったんだ。夕陽は。
校則が緩いからとは言え、1年生のうちはピアスをつけたり、髪を明るい色に染める人は少ないらしい。
暗い髪の毛の集団の中で、誰もが目を引くまばゆいほどの明るいオレンジを見た時、今まで眠っていたのに無理やりビンタで叩き起こされたような、晴れた空の下を歩いていたのに雷に突然打たれたような、そんな感覚さえ覚えた。
あさひとゆうひ @n01-
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