第3話 優しい雨

 彼に水族館に誘われた。はじめてのデートのお誘い。飛び上がるほど嬉しかった。

 あ、実際ピョンピョン飛んでしまった。

 当日、彼の運転で水族館を目指す。前日は眠れなかった。どんな会話をしようか?何を着て行こうか?グルグル考えて興奮していた。


 車中での会話も、楽しくて幸せだった。でも、私達は〝友達以上恋人未満〟って感じだったから水族館の中でも手を繋いで良いのか?隣に並んでも良いのか?ぎこちなくて、右手が淋しくて…。それでも覗き込んだ水槽に移る私達はお似合いに見えて嬉しくて私は、はしゃいだ。

 彼は私の欲しかった〝赤クラゲの傘〟を買ってくれて、〝可愛い傘だね〟と言ってくれた。


 水族館の隣には灯台があった。見ると少し急な階段が続いていた。彼は私の手を取って引っ張る様に登ってくれた。繋いだ手が嬉しくて、温かくて、恥ずかしかった。

 海風はちょっと冷たくて繋いだ手を離す事は出来なかった。繋いだまま彼はコートのポケットで私の手を温めてくれた。夕焼けがとてもキレイで彼とのこれからを思うとドキドキした。

 

 私は、傘の出番を待った。

 

 彼からのプレゼント。やっとその時が来た。雨は優しく降り続いて私を彼のもとに連れて行ってくれた。

 フワフワクラゲの様に漂う私。傘が目印になって彼は私を見つけてくれた。この人混みの中でもすぐ分かったよ。そう言って笑って私と手を繋いで歩いた。



 見つめ合う視線、繋いだ手、彼からの愛の言葉。優しい雨音が全てを包んでくれた。


 


 

 

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