第3話 モンスターがピンなら人をボールとしてぶん投げても問題ない

門の外にたどり着くと、すでに複数の冒険者パーティーが戦闘を繰り広げていた。

数は減らしているものの、全体の数からするとさほど変わっているようには見えない。


「なんだこの数は……」


そんな声がした方へ目を向けると、兵士たちが恐怖に顔を引きつらせ、完全に恐慌状態に陥っていた。

隊長らしき男が何か叫んでいるが、彼らの耳には届いていない様子だ

震えながら剣を構える者もいれば、剣を手放して地面にうずくまってしまう者までいる。


そのとき、悲鳴が聞こえた。


森の方から、小さな籠を抱えた少年と少女が走ってくる。

その後ろには、数体のゴブリンが迫っていた。


「子ども? なんでこんなところに……?」


本来であれば、子どもだけで町の外に出るなどあり得ない。

ましてやモンスターの出る森など、もってのほかだ。

だが、ここは長らく平和であり続けた弊害か、あるいは奥に進む冒険者がモンスターを間引きするせいか、森の入り口付近ならばまずモンスターに遭遇することはない。


そのため、入り口付近に生えている薬草は、孤児院にいる身寄りのない子どもたちにとって、ささやかなお小遣い稼ぎになっていた。

毎日採りにきているわけではないようだが、運の悪いことに、今日はその日だったらしい。


タロウが即座に助けに向かおうとしたその時、少年が転んでしまう。

転んだ少年をかばうように、小柄な少女がゴブリンの前に立ちはだかる。


「くそっ、見過ごせるか!」


タロウの体は、考えるより先に動いていた。


一番近くにいた、腰を抜かしてへたり込んでいる兵士に、タロウは手を伸ばす。

胸倉をつかまれた彼は顔を恐怖に歪ませながら、タロウを凝視していた。


「へっ? な、なんだ……?」


兵士が困惑したその瞬間、タロウは彼を背負うように持ち上げた。

タロウは自分の体を完璧な精度で動かし、彼をモンスターの群れへ向けて投げ飛ばす。


「うわああああああああああ!」


彼は冗談のようにまっすぐ、弦から放たれた矢のように、一点の揺らぎもなく飛んでいった。

彼の体は、まるで硬い岩のようにモンスターの一体を跳ね飛ばし、そのまま別のモンスターへと向かっていく。

ドミノ倒しのように次々とモンスターが彼に弾き飛ばされ、少女に迫っていたゴブリンを遥か遠くへと吹き飛ばした。

そして、彼は地面に不恰好に転がり落ちた。



呆然とする冒険者と兵士たち


地面に叩きつけられたモンスターたちも、何が起こったのか理解できなかっただろう。



「い……いてて……」


ボブが体を起こすと、近くにいた少女が声を上げた。


「伝説の、英雄さま……?」



次の瞬間、兵士たちから大歓声が上がった。


「ボブだ! あいつがやったぞ!」

「ボブが、たった一人でモンスターを全滅させたんだ!」

「すごいぞ! 伝説の英雄だ!」


湧き上がる歓声に、ボブと呼ばれた兵士はきょとんとした表情を浮かべていた。

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