ばあさんのトマトスープ

悪食

ばあさんのトマトスープ

「はい、おじいさん。」

そう言って手渡されたそれは、孫の手ではなく金槌だった。


かつて聡明で可憐だったばあさんは、もういない。

いま目の前にいるのは、すっかりボケてしまったばあさんだ。


――いや、違う。

それはばあさんですらなく、釘だった。


出る杭は打たれるものだ。

私は勢いよく金槌を振り下ろした。


ぐちゃり。


……思い出した。


ばあさんでも釘でもない。

そう…。トマトだった。


今は亡き父との言葉がよみがえる。

「食べ物は粗末にしてはいけないよ。」


しかしどうだ、この有様は。

まるで近所のガキがやったいたずらの跡みたいじゃないか。


私はおもむろに、床にぶちまけられたトマトをかき集め、鍋に放り込んだ。


グツグツ……。


味見をする。


不味い。


ばあさんなら、トマトスープのひとつくらい卒なく仕上げただろうに。


そんなことを思いながら、出来上がった不味いスープを飲み干した。

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ばあさんのトマトスープ 悪食 @Aquzik1

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