第9話 作戦通り
「げっ…」
顔が引きつる、まさか目の前で待っているとは思わなかった。
「オリエン凄く似合ってるねぇ、こんなに可愛いシスター初めて見たよ」
グレイデンは俺を見つめると目を細める。俺はその変態を睨んだ。
「グレイデンさん!!オリエンが気分悪いみたいで…治してあげてっ!!!」
俺に続いて扉を出たエリックはグレイデンを見るやいなや声を張り上げた。
「へぇ〜。勿論だよ、友達が困ってるなら助けてあげなくちゃね…」
すると、グレイデンは俺を下から上に舐めるように見ると微笑んだ。
気持ち悪っ!!!!
その表情にさむいぼが立つ。
「いや…!超元気!!気の所為だった!うん!」
この姿で診察とか変態臭いのは絶対に嫌だ。俺はその場で力こぶを見せて満面の笑みを取り繕った。
「大丈夫なのか…?」
エリックは俺の身を案じて目を潤ませている。
「あぁ!元気、元気!!」
「本当かい…?一応診察を…」
グレイデンは邪な思惑で目を潤ませた。
「黙れ」
まだパーフェスト祭前半だというのに俺はもうクタクタだ。本当に帰りたい。俺は宿で俺たちの帰りを待っているであろうエリアスを思い出してマントを握った。
エリアスがいてくれたらこんな変態どうにかしてくれるのになぁ…。
「…ねぇオリエンそんなマント持ってたっけ」
「いや?エリアスから借りてる」
グレイデンがつくり笑いで聞いてきたので答えてやる。しかし、答えるとグレイデンは面白くない、と表情に出ている。
やはりシスター服にマントは合わなかったか…?
「マントつけるの変かな?」
「いやー、似合ってるぞ!」
隣りにいたエリックに聞いたら満面の笑みでそう返ってきた。
まぁ、普通に俺の顔が良いからどんなものでも似合う自信はあったりする。一応言うがナルシストなのではない、客観視が出来ているだけだ。
「まぁ…まだ大丈夫か」
俺とエリックが話しているとグレイデンがボソッと言葉をこぼした。あまりにも小さいもので上手く聞こえない。
「なんか言ったか?」
「いや、何も?そんなことより2人とも夜暇なら花火一緒に見ない?勿論エリアスも呼んでいいよ」
「おお!!花火!!」
「この教会の鐘楼から見る花火は本当に綺麗だよ」
その言葉にエリックは興奮気味に鼻息をたてる。そしてまた目を潤ませて俺を見つめた。許可を得ようとしているのだろう。こうして見ると、大型犬のようだ。
此奴と仲良しこよしするのは不本意だが、俺は花火の時にエリアスを置いて行かないといけない。エリックになんて言い訳をしようか迷っていたが、後でこっそりエリアスはグレイデンと花火が見たくないんだ、と言えばそれは解決しそうだ。だからその提案は魅力的に映る。
エリアスと万が一にも一緒に行動してしまえば、イベントが発生せずに、そのままマチルダちゃんとエリアスが出会わないかもしれない。それはあってはいけないことだ。
「いいぞ…」
全く気乗りはしないがそう答えると二人は嬉しそうに笑った。
◇◇◇◇
「エリアス、待たせたな」
宿のドアを引くとエリアスが俺を見て硬直した、いつもなら駆け寄ってくれるのに、どうしたのだろうか。
「オ、オ、オリエンっ…その服…っ」
そして指差すのは俺が着ている女性用の修道服…
「あ、」
完全に忘れていた。街の中を堂々と歩いてきてしまったことに今更ながら赤面する。忘れた自分に非が1%くらいある気もしなくはないが、俺は全てをグレイデンのせいにして、憎悪をまた一つ募らせた。
「可愛いよ…」
少し迷った挙句の果てにエリアスは目線を逸らして呟いた。
感想は求めていない…無視してくれ…お願いだから………。
「見ろよエリアス!!!グレイデンさんに貸してもらったんだぜ!!」
エリックは俺とは反対に自分の着ている修道服を自慢する。俺だって男物の修道服だったらテンションを上げていただろう。
「グレイデンが……」
その時、空気が寒くなった。そんなメーターは見えてないが、エリアスのグレイデンへの好感度が下がった気がした。
「あ!そういえばグレイデンさんが……」
「出店帰ってくる途中にいっぱいあったし、早く行こうぜ!」
エリックがエリアスにグレイデンとの約束を話しそうになったのをすかさず食べ物の話題で逸らす。ここでエリアスが「僕も行くよ」なんて言った日にはせっかくの思惑が台無しだ。
「おお!また焼串食べてぇ!!!」
「どうせなら他の物食えよ…」
ちゃんとエリックは食べ物の話題に流されてくれて良かった。
「あ、エリアスこのマントありがとな!俺の昨日買ったローブあるし、こっち着るわ」
窓の近くに掛けておいた元々薄めのローブも前は閉めれるし、シスター服を隠すのに使えそうだ。それを確認すると俺はエリアスのマントを脱ごうとした
しかしーーー。
「いやっ、これ着てて…」
俺の手をエリアスが止める
「エリアス…?」
どうしたんだろうか。エリアスの行動の意図がわからず疑問符を飛ばしているとエリアスは頬を紅潮させて
「駄目かな…?」
と甘えたように言った。
「いいけど…」
俺はこういうエリアスに弱い、ていうか弟属性全般に弱い…前世で四人兄弟の中の長男だったせいだろうか…
「ありがとう…!」
何故か感謝してくるエリアスに俺のローブを掛けてやる、マントがないと髪も目を隠せないだろう
「じゃあ逆にこれ貸してやるよ!」
「っ……ありがとう」
フードのせいで表情が伺えないが声は弾んでいる、喜んでくれているようで良かった。これからエリアスをわざと置いて行くのだ、これくらいしないと罪悪感で死ぬ。
俺とエリアスとエリックはそのままパーフェスト祭後半に足を進めた。
「りんご飴とかあるかなぁ…」
こんな中世ヨーロッパって感じの世界観にはないかもしれないが、これは日本人作者が書いた漫画の世界だ。細部までこだわっていないなら、もしかしたらあるかもしれない。
「りんご飴なんて定番だろ!!チョコバナナに、かき氷に、わたあめに…」
エリックはよだれを垂らしながら腹を鳴らした。そこはやはり日本の祭りまんまらしい。
「楽しみだねオリエン!」
エリアスがクスクスと微笑む、俺もその顔を見て笑顔をつくった。
「…だな!!」
パーフェスト祭の後半は一言で言うと日本の夏祭りだった。射的に、ヨーヨーすくいになんでもありで、エリックとエリアスも張り合って遊んでいた。エリックは馬鹿だかセンスの塊、射的や魔法版の射的『魔射的』で店主が涙を流すほどの量の景品を取っていく。エリアスも洗練された魔法で的を撃ち抜いていて、それは並んでいる客から歓声が上がるほどだった。
「なかなかやるなっ!!」
「オリエンへのプレゼントだからね…っ!!」
喋っているが的が壊れる音で何も聞こえない。
此奴ら本気になり過ぎだろ…。
景品棚から景品が消えていく様を俺は生暖かい目で見る。しかしブサイクな猫のぬいぐるみと目が合いすぐにそらした。
誰が欲しがるんだあのぬいぐるみ…。
そうこうしているうちに、取れた景品は何故か俺が受け取りることになってしまった。絶対取ったら取ったで要らなくなったから俺に押し付けたんだ。景品は、熊のぬいぐるみから、気球の模型と様々で、かなり大きいものもある。景品は全て同じ景品で手に入れた大容量な魔法バックにしまっているから邪魔ではないが、家に置き場がない。だから、帰りまでには全て突き返すことを俺は心に誓った。
「はー!!遊んだ遊んだ!!」
「本当遊びすぎだ…こんな量の景品…帰ったら絶対後悔するぞ」
「だってオリエンが欲しそうに見てたから…!!」
エリックは叱られたことに尻尾を垂らした。いくら俺でも流石にそれで怒りを収めることはない。
「見てねぇよ!目に入っただけだ!!」
何故だかこの二人はよく張り合う、仲がいいのは良いことだが、視野が狭まるのはどうにかしてほしい。
「あ、そろそろ花火始まる時間だ」
横で笑うエリアスはポール時計を見ると自分の肩を叩いた。俺はそれを聞いて内心冷や汗を流す。エリックへの言い訳は考えていたが、エリアスをどう置き去りにするかをまだ考えていなかった。
このままじゃストーリーが進まないっ…!!何かないか…エリアスを自然に俺達から離れさせる方法が………
「っ、なぁエリアス」
「えっ」
エリックがわたあめをほおばる隙にエリアスの耳元で俺はこっそりと話をした。
「実は魔射的の景品でほしいのが一つあったんだ…魔法はエリアスの方が得意だろ、取ってきてくれないか?」
パシリでしかないがそれでいい、好感度がこれで下がってくれるなら一石二鳥だ。そう思っていたがやはりエリアスは耳をイチゴ飴のように赤くして嬉しそうに頷くだけだった。パシリで嫌われないなら俺はいったいどうすればいいのだろうか。
まぁ、今はそんなことよりもエリアスと距離をとることの方が重要だ。
「どれが欲しかったの…!!」
「えっ…と…あーー。……ブサイクな…鼻に大きなほくろがある猫の人形」
全くほしくないがそれ以外の景品は忘れた。あの猫の顔だけは脳裏から離れないのだが、何か呪いでもかけられているのだろうか。
「わかった…!待ってて!!」
「おう、頼んだー!」
エリアスもブサイクな猫のぬいぐるみに心当たりがあった様でそれ以上聞かれることもなく、エリアスは駆け出した。これでここから離れれば一応漫画のストーリー通り置いて行くことに成功だ。漫画の俺はエリアスを蹴って足に怪我をさせ、その上置き去りにしていたが流石にそれは今の俺に出来ない。
可哀想だろ、普通に!!
「エリック、早くグレイデンの場所行こうぜ?」
エリアスなら数分もしないうちに帰ってくるだろう。だから俺はわたあめに夢中になっているエリックの腕を掴んで教会まで走った。
「あれ、エリアスは?」
わたあめを食べ終えるとエリックはやっとエリアスがいないことに気づく。
最近此奴食いしん坊キャラまで追加されてないか…?
「エリアスはグレイデンに会いたくねぇみたいだから、別行動だ!」
「あー、エリアス何故かグレイデンさんのこと敵視してるもんな!」
よし、簡単に騙された、作戦通りだ。ここまでくればストーリーはちゃんと進行してくれるだろう。これから俺が何をしようとシーダ噴水に行かない限りは大丈夫なはずだ。
それならグレイデンにも会いたくないし宿に戻りたい。だが…
「よーし!!それなら早く行こうぜ!!花火が始まっちゃうからな!!」
エリックの無邪気な笑みを見ると、そんなこと言えるはずない。
一応パーフェスト祭について色々教えてくれたし、準備も…まぁ、八割…いや五割……うん、そのくらいはしてくれた。
エリックに今宿に帰るなんて言ったら悲しむだろう。最後に悲しい思いはして欲しくない、俺はエリックが伸ばした手を握った。
「エリックのおかげで昨日からすげぇ楽しいよ、ありがとな」
まぁ、それと同じくらいハプニングも起きたが、それでも楽しかったのは本当だ。思っていたより楽しめたし、来年からはちゃんと準備してまた来てもいいかもしれない。
「えっ」
笑いかければエリックは一度足を止めた。エリアスに見つからないように木々が生えた場所から教会に向かっているため、光はほとんどなくエリックの表情が伺えない。
『好感度+3 現在の好感度95』
しかし好感度メーターの反応からするに、嬉しかったらしい。90台になってから簡単には上がらなかった好感度がいきなり3も上がった。
「っ俺やっぱオリエンのこと好きだ…」
エリックが胸を押さえてそう零す。友達から好かれて悪い気がするはずがない。俺は嬉しさと、お礼を言われただけで、こうなるあまりのチョロさに笑いを溢れた。
「はは、ありがとな、早くいかねぇと花火始まるぞ?」
俺は止まったまま動かないエリックの腕を引いた。
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