審理戦編:天秤の神と竜の罪・終章

「おい、ここまでのことをやっておいて、楽に死ねると思うなよ」


 俺は、瓦礫の上に倒れた青年――ルメルの髪を掴み、

 中央の祭壇へと引きずった。


「おい、こいつをシルクの代わりにセントリム神殿の生贄にしろ」


「おお……その手があったか」


「ナナ、テラリンクを起動。こいつの信仰値をぎりぎりまで搾り取れ」


「了解」


 淡い光がルメルの体を包む。

 ディスプレイに流れる数値。

 そして、絶叫。


「ぐぁぁああああ……!」


 血管が浮き、青白い光が皮膚を蝕む。


 やがてそれは結晶のように硬化し、肌の下でひびを刻んでいく。


「このままセントリム神殿に置いておけば、

 体は徐々に結晶化し、神殿の一部となる」


「貴様ら……天罰が下るぞ!」


「うるさいな。――ナナ、同調率は?」


「七十パーセント。……これ以上は素体が壊れる」


「ちっ、七十で勘弁してやる。よかったな、ルメル」


 青年は、崩れ落ちた。

 胸の奥から、灰色の光が立ち上る。


「逸脱者……!」

 その一言が、竜たちの群れにざわりと広がる。


「やめんかっ!」

 ヴェルザンの怒号が神殿を震わせた。



「ミチル殿は我らのために汚れ役を担って下さった。

 その手を穢した罪を、我らが語りで覆おう!」


 老竜が天を仰ぐ。

 祈りは、静かに降る灰とともに積もっていく。


 ミチルの肩に、竜たちの温もりが落ちるように。


「神獣様に救われたぞ!」


「ごめん、ミチル……信仰値が、私の方に流れ込んでる」

 ナナの瞳に、罪悪感と優しさが滲んだ。


「昔からこうだ。俺がちょっと本気を出せば、

 屑だの、化け物だの――今さら気にする気もない」


 ヴェルザンが膝をつき、頭を垂れる。


「ならば、我はこう語ろう。

 ――ミチル殿こそ、この地を救いし救世の神なり!」


 沈黙。


 誰も笑わなかった。

 祈りは灰と共に積もり、静かに世界を染めていく。


「そして、ルメル殿……」


 老竜は結晶化していく青年の前に進み出た。


「貴方は、セントリム神殿の竜結晶となられるお方。

 経緯はあれど、我らは祈りを捧げよう」


「……反吐が出るわ」


ルメルの言葉が弱々しく響いた。


 ヴェルザンが再び天を仰ぐ

「ミチル殿こそ、この地を救いし救世の神なり!」


 竜たちの咆哮が祈りを乗せ、空に炎の渦を描く。

 黒と白の秩序が、燃え残る残光に溶けていった。


 やがて、スマホの表示が消える。


 ただ一行だけが、そこに残った。


《逸脱者:ミチル 神格位(小)》




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