鉄鎚ゴリラと借金完済バトル

あれか――


ミナがバリューバトルで負けた相手は、

人間じゃなかった。


人の背丈の二倍はある、

全身重装のゴリラ。


腕には鉄鎚。


顔は知能ゼロ。


(悪いが、あれに投石で挑んだミナがどうかしてる。

 一撃で頭ごと粉砕されてもおかしくない。


 ……借金で済んでよかったな。ほんと、考えなしだ)


***


闘技場の喧噪は、

獣の咆哮よりも熱かった。


観客の叫び、投げ込まれる金貨、

酒臭い歓声。


すべてが「金の匂い」で満ちている。


「久しぶりのこの匂い!

 あがるぜっ……!」


俺は緊張よりも、

観客席から流れてくる数字に目を輝かせていた。


ナナがスマホから自動スキャンを始める。


《対戦相手:鉄鎚ゴリラ

 HP:1800 防御特化

 弱点:関節、バナナアレルギー

 現在賭け率:14倍》


「……え、バナナで勝てるんじゃん」


「さすがに会場で投げ売りはしてないよ」


後ろで、ミナが腕を組んだ。

真剣な表情――なのに、どこか不安げだ。


「ここで勝てなきゃ、借金は返せない。

 私のために勝って!」


「わかってるって。

 リサの借金をまとめてチャラにした実績を信じろ」


俺は会場に手を振り上げつつ、

しっかりスマホで危険エリアを頭に叩き込んだ。


***


試合開始の鐘が鳴る。


鉄鎚ゴリラが大槌を振り下ろす。


空気を裂く轟音。


観客のどよめき。


リサが息を呑んだ瞬間――


ミチルは冷静にステップを踏み、

ナナが示す「赤いリング」に足を合わせる。


致命打は、すべて空を切った。


「シルク! 今!」


「わかった!」


シルクの尻尾が地をはじき、

巨体がぐらつく。


歓声が爆ぜ、賭け率が跳ね上がる。


金貨が雨のように投げ込まれ、

ミチルのスマホに数字が雪崩れ込む。


「決めるぞ、《偽りの鏡》!」


ゴリラ相手に効果は無いが、

黒い鏡面がゴリラの視界を塞いだ。


「スキル解放:裂爪連撃(れっそうれんげき)!」


進化したシルクの巨大化した爪が、

ゴリラの強靭な筋肉を関節から切り裂いていく。


――そして、決着。


鉄鎚ゴリラが膝から崩れ落ちると、

会場は総立ちになった。


《勝利! 賞金:¥3,500,000

 借金返済額:完済 + 余剰金あり》


俺は汗を拭いながら、にやりと笑った。


「よしっ! これでミナの借金もバッチリ返済だ!

 “完全勝利”ってやつだな!」


ミナはぽかんと口を開ける。


「え、いま……返したの?」


「そうだよ。全部。

 ほら、スマホの残価数字見てみな」


画面の「マイナス¥3,000,000」は、

「¥500,000」になっていた。


膝が抜けそうになったミナに、

俺はドヤ顔で肩をすくめる。


「どうだ、俺って救世主じゃん?

 そして、二度と俺に付きまとうな!」


「……うそでしょ、こんなの……」


***


その瞬間、闘技場の奥から視線が刺さる。


観客のざわめきの中、

黒衣の者たちが現れた。


――神罰機関の監視役。


「ちょっと、目立ちすぎたわよ!」

ナナが焦る。


「は? 俺は勝っただけだろ?」


「だからよ。

 あのゴリラ、勇者がいなくなった後の“秩序維持者”だったの。


 借金は返せても、命が狙われるかもね」


俺は一瞬だけ顔を引きつらせ――


次の瞬間、大笑いした。


「ははっ、最高じゃん!

 どこで何しても死のリスク!


 人生ギャンブル過ぎて楽しいな!」


リサとナナは頭を抱えるしかなかった。

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