値狩りと殉教者の街

勇者を退け、リサの借金はさらに減った。


だが道中に現れた“価値狩り”との戦闘、

そして辿り着いた殉教者の街――。


新たな「価値の審判」が待ち受けていた。


◇◆◇


地下闘技場を後にし、

バリューバトルでの換金を終えると――


リサの借金はさらに減っていた。


《リサ借金 ¥1,200,000 →¥800,000》


「……あんたと出会ってから運が向いて来たわ。

あの空き家に夜逃げして大正解ってことね」


――リサの声に、借金の重荷が少し軽くなった安堵が混じる。


鼻息荒くスマホをいじっていたリサの指先が、

ぴたりと止まる。


「どうした?」


「次のギルド依頼、光神殿だって!」


「断れよ、そんなもん」


「でもほら、神獣絡みの神殿調査依頼だよ。

報酬も高いし、ミチルも借金を減らしたいでしょ?」


「勇者に会わなきゃいいんだ」


「いや、フラグ立てるなってば」


「だったら、麓の殉教者の町まで行こうよ!」


リサはすっかり乗り気だった。


「ミチル、私も神殿の様子が見たい」


ナナも真剣な声で言う。


「わかったよ。

……何かあったら俺は逃げるからな!」


その瞬間、シルクが俺の腕にがぶり。


「いてぇよ、馬鹿!」


「町の外は“価値狩り”が出るから気をつけていくわよ」


「そういやリサ、お前どれくらい強いんだ?」


リサは振り返って胸を張る。


「勇者パーティに誘われるくらいよ!」


「……騙されてただけだろ?」


「うるさいわねっ、年下のくせに!」


「あ、命の恩人にそういうこと言うんだ?」


俺はスマホを掲げた。


「おい、ナナ、他に弱点とか──」


「わ、わ~~~っ!言わなくていいからっ!」


リサはスマホを引ったくろうと手を伸ばすが、

シルクが間に挟まり邪魔をする。


「恩人にお礼がまだなんじゃないか?」


「……ミチル様、ありがとうございましたっ!」


リサはぎりぎりと歯ぎしりしながら頭を下げる。


聞こえんなぁ!


と言いたかったが本気で怒りそうなのでやめておく。


神殿へと続く山道。

山麓の街道を進む一行の前に、もやのような影が揺らめいた。


「……出たわね。価値狩り(ヴァリューラット)よ」


リサが低く呟く。


霧の中から現れたのは、

金属片と獣の骨が混ざり合った異形の存在。


その眼孔は、他人の“価値”を測るかのように冷たく光っていた。


――ガチャガチャと骨が軋む音が、山風に混じる。


「ちょっと厄介そうね。ミチル、召喚獣で牽制して!」


「了解、こいつは時間稼ぎだ!」


ミチルは即座にシルクへ指示を飛ばす。


ベビードラゴンが空を駆け、異形と衝突――


ガン! と金属が砕ける音が響き、

咆哮一つでシルクが弾き飛ばされる。


体が木々に擦れ、葉が舞い散る――

しかし、それで十分だった。


「――《断価の刃(だんかのやいば)》!」


リサの剣が鈍い光を帯び、価値狩りの装甲を裂く。


金属がはじける甲高い音――


ジジジッ! と火花が散り、異形の骨が折れる。


勇者パーティに誘われた実力は、伊達ではなかった。


だが、異形は背後に回り込み、牙をリサの肩へ――。


「リサ、今だ!」


俺とシルクが両サイドから回り込み、隙を作る。


振り返りざま、リサが二撃目を叩き込んだ。


価値狩りの身体は霧のように崩れ、

残ったのは「価値の欠片」だった。


「やるじゃない、リサ」


ナナが尻尾を振ってはしゃいだ。


「ふふん、見た? これが本気の私よ。

価値の破片はギルドで換金できるから私のもの!」


「……さっきの強がり、伊達じゃなかったな」


「当たり前でしょ!」


「……でも、弱点まだあるのよね」


ナナが小さくつぶやく。


「なっ!? 今それ言う!?」


リサが顔を赤らめ、スマホを叩きそうになるが、

シルクが尻尾で軽く払う――


まるで「次は俺が守る」みたいに。


二人は短く息を整え、再び歩き出した。


目指すは、神殿に続く街。


――信仰の鐘が遠く響き、疑念の影が街路に伸びる。


交錯の場所へ。


山風が、かすかな“価値のざわめき”を運んでくる。

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