勇者の偽装を暴け!
ナナの苦しげな声に、スマホを持つ手が震えた。
(ナナがヤバい……俺が弱点を突くんだ!)
「……お前の勇者としての価値、全部“嘘”だろ」
息を吹き返したナナの声が重なる。
「私は“魔獣”なんかじゃない。
あんたが私をそう書き換えただけ。
――でも、もう仲間でない私に偽装は通じない!」
スマホが再び光を放つ。
《価値審判モード:起動》
【勇者ジン/偽装剥離開始】
偽装値:1,120,000 → 580,000 → 20,000
礼拝堂の空気が一変する。
――スマホから青白い閃光が迸り、
ジンの鎧に蜘蛛の巣のような亀裂を走らせる。
剥がれ落ちる偽装の欠片が、蝋燭の炎を揺らし、
影が不気味に踊る。
ナナの瞳が静かに光り、
シルクが低く唸り声を上げた。
スマホには、勇者の“偽装履歴”が記録されていた。
「……お前、ナナを仲間だと思わなかったのか?」
俺の言葉に、勇者の瞳が揺れる。
――胸の奥で、偽装の脆さが、
俺の借金のように疼く。
「俺を知ったように語るなっ!」
ジンは再び剣を構えた。
そのとき――。
リサが契約書を床に叩きつけた。
「“価値の審判”って言うなら、
あんたのせいで借金した人間の価値も見てよ!」
スマホが通知を走らせる。
《リサ:価値残滓検出》
喪失:92/怒り:65/信頼:3
《契約履歴:勇者パーティー/偽装価値による誘導》
ナナが静かに言った。
「リサの価値は、誰かに“利用された”ことで歪んだ。
でも、今ここで“語り直せば”――再構築できる」
俺はリサに向き直る。
「リサ、お前の価値は借金じゃない。
“怒り”も、“喪失”も、誰かを信じた証だ。
それは、語りの芯になる」
リサが目を見開いた。
「……そんなの、価値になるの?」
――その瞳に、借金の影が、微かに揺らぐ。
ナナが微笑む。
「なるよ。ミチルが今やってることだよ?
リサにだって出来る!」
スマホが光を放つ。
《価値再構築:リサ》
残価:−2,000,000 → −1,200,000
《新称号:価値再起者》
リサが膝をつき、
胸に絡みついていた黒い鎖が砕け散る。
――ガキン! と金属音が響き、
破片が光の粒子となって舞い上がる。
礼拝堂の空気を浄化するように広がる光。
シルクの唸りが止まり、
俺の胸も、軽くなる気がした。
「……なんか、ちょっとだけ、軽くなった気がする」
スマホが通知を走らせる。
俺は笑った。
「元々偽装されていた価値だ。
数字じゃない。
誰かと繋がることで、価値は変わるんだ」
ジンの鎧に亀裂が広がる。
「こ……こんなことが……!
俺は最強の能力を持っている!
間違いなく勇者だ……!」
「違う!」
俺は叫んだ。
「お前は“神獣を封印した”ことで勇者を名乗っただけの――
価値偽装者だ!」
ナナが鋭く睨みつける。
「あなたの秩序なんて全部嘘っぱち。
偽善と偽造で塗り固めたおぞましいものよ!」
スマホから青白い閃光が迸り、
ジンの鎧に蜘蛛の巣のような亀裂を走らせる。
剥がれ落ちる偽装の欠片が、蝋燭の炎を揺らし、
影が不気味に踊る。
ナナの瞳が静かに光り、
シルクが低く唸り声を上げた。
《審判結果:勇者の価値偽装、確定》
《称号:勇者 → 剥奪》
《新称号:価値偽装者》
礼拝堂の空気が変わる。
ジンの剣が、音もなく崩れ落ちた。
――ガシャン! と破片が散り、
かつての輝きが灰のように消えゆく。
蝋燭の炎が一瞬強く揺れ、
ジンの背後に長い影が、床に黒く伸びる。
ナナが静かに言う。
「あなたが守ったのは、秩序じゃない。
“自分の価値”だけだった」
賢者セラが耳打ちした。
「価値が暴かれても……
今、光神殿でクラスチェンジすれば昇格できるかも知れません」
――その言葉に、ジンの肩がわずかに震える。
ジンはただ、絞り出すように言葉を紡いだ。
「……今は退く」
勇者は静かに背を向け、礼拝堂を後にした。
その背中に、かつての“光”はもうなかった。
――ただ、長い影が、床に伸びるだけ。
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