討伐された神獣の真実
地下闘技場を後にした俺たちは、
リサの案内で闘技場の裏手にある
古い礼拝堂へと向かった。
そこは、かつて“価値の祈り”を捧げる場。
今は勇者パーティーの拠点の一部になっているらしい。
◇◆◇
扉を押し開けた瞬間、空気が変わった。
――冷たい石の臭いが鼻を突き、
蝋燭の微かな煙が視界を曇らせる。
静まり返った礼拝堂の中央に、
白銀の鎧をまとい、大剣を背にした青年が立っていた。
“勇者”――ジン。
その背後には、
聖女リオラ、剣豪カイル、賢者セラ、斥候ミナ。
勇者パーティーが揃って俺たちを待ち構えていた。
スマホが即座に反応する。
《価値解析開始》
勇者ジン:価値残高 +54,200,000(偽装の疑い)
「……は?」
思わず声が漏れる。偽装――?
ナナが震える声で言った。
「……あの人たち、私を“討伐”したことになってる」
「お前……討伐?」
「偽装スキルで魔獣にされて……封印されたの」
――スマホの画面に、かすかな光の粒子が舞い上がり、
ナナの周囲をぼんやり照らす。
それは、封印の残滓か、神獣の片鱗か。
――そうか。ナナは本来“神獣”だった。
だが、ジンのスキル《価値偽装》で“魔獣”とされ、
討伐した功績として勇者パーティーが称えられたのだ。
栄光は、ナナを踏み台にして築かれた。
……胸の奥が、熱く疼く。
◇◆◇
「そのスマホ……価値を視る力があるらしいな」
ジンが冷たい笑みを浮かべる。
「なら分かるだろ。お前らの“価値”は
――借金まみれのゴミだ」
横でリサが震える。
彼女の残価 −2,000,000が画面に浮かんでいた。
ジンはそれを知っているかのように見下ろす。
「価値のない者は切り捨てる。
弱き価値は踏み台となり、
強き者が頂点に立つ――それが、世界の秩序だ」
冷酷な言葉が、リサの心を抉る。
――彼女の拳が、微かに震える。
剣豪カイルが剣を抜き、
核のように輝く刃を構えた。
「勇者様の前に立つな! 魔獣の残骸め!」
「違う!」
俺は思わず叫んだ。
「ナナは魔獣なんかじゃない!
……価値の残滓を抱えた“仲間”なんだ!」
一瞬、賢者セラの瞳が揺れる。
「……神獣? そんな……」
その視線に、僅かな迷いが宿る。
だがジンは鼻で笑い、
冷ややかに俺を見下ろした。
「くだらん。お前の語りなど、
俺の《真贋眼》で暴かれるだけだ」
そのとき、スマホが震えた。
《警告:価値偽装を検出》
勇者ジン:真価:−8,000,000
ナナの体が眩く光り、
偽装の痕跡が少しだけ剥がれ落ちる。
――空気が、微かに歪む。
ジンがわずかに目を細めた。
「ナナは、暴走なんかしてない!」
俺は一歩踏み出す。
「俺の借金を減らしてくれてるし、
魔獣とも繋がってる。ナナは、価値を守ってる!」
勇者は剣に手をかける。
――大剣の刃が、青白く輝き始める。
「……愚か者が。価値とは、秩序だ。
お前のような“観測者”が勝手に定義を始めれば
――世界は、また崩れる」
礼拝堂の空気が一段と張り詰めた。
カイルの剣核が低く唸り、
セラの瞳が再び揺らぐ中、
ジンの手が剣の柄を握りしめる――。
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