大群襲来、そして“観測者”

廃墟の向こうで、

青白い光がゆらゆらと揺れている。


数えるのもバカらしいほどの数だ。


スマホには無慈悲な通知が走る。


《価値狩り大群を感知》

数:47体以上

到達予想:6分32秒


ナナが小さな声で告げた。

「ミチル……あれ、たぶん全部、価値狩り」


「たぶんじゃねぇよ……!

マジかよ、一体倒したばっかなのに……!」


魔獣も低く唸り、毛を逆立てている。


俺の鼓動は、価値残高よりも速いペースで落ちていく。

――画面の数字が、残り6分30秒に変わる。


「……どうするの?」


ナナの赤い瞳が怯えに細まる。


「決まってんだろ。逃げるしかねえ!」

「戦わないの?」


「勝てるかよ! 借金一億あんだぞ!?」

「それ関係ある……?」


「あるんだよ! ステータス補正かかってんだよ、

 俺は“底辺デバフ”だ!」


【逃走開始】


俺たちは瓦礫を飛び越え、崩れたモールを抜けて走る。


魔獣が先頭、俺が後ろ、ナナはスマホ越しに敵をマッピング中。


「右! そのまま下水道に飛び込んで!」

「お前、俺をネズミにする気か!?」


「死ぬよりマシでしょ!?」


後ろを振り返ると、青白い光の大群が迫ってくる。


ギャアアアアアアア!!


「やっべええええええええ!!」


でも、ナナが微かに笑った。

「……ねぇミチル」


「今この状況で何だよ!?」


「ナナ、またちょっと進化した」

「はぁ!? お前の成長スピードどうなってんだ!」


「走ってるときに言うけどね――

“価値転送トランスファー”、使えるようになった」


「なんだそれ!?」


ナナの瞳が光る。

「ミチルの残価を、一時的に魔獣に分けられる。

そうすれば、もっと速く走れるよ」


「俺の借金を分けるってこと!?」

「違う違うっ! 一時的に借金が増えるの!」


「今更変わらねぇよ!!」


――ナナの新能力:価値転送。


ナナが魔獣に触れた瞬間、

シルクの身体が青白く輝いた。


速度はさっきより二段階は速い。


風が耳元で唸り、瓦礫の欠片が後ろへ飛ばされる。


《価値転送成功》

契約同期率:57% → 81%


「よっしゃあああああ!!」


シルクは瓦礫を飛び越え、迫る価値狩りを引き離す。


だがそのとき――《警告:前方に大型反応》


「おいおいおいおい! 先に言えよナナァ!!」


モール出口に、巨大な影。

三又の仮面をつけた、鋼の巨躯。


さっきのとは比べ物にならない威圧感。


空気が冷たく張りつめる。


「……嘘だろ。あんなの倒せねえぞ」


ナナが震える声で呟いた。

「……違うよ、ミチル。あれ、“価値狩り”じゃない」


「は?」


影がゆっくりと顔を上げる。


金属の仮面をつけた細身の人影。

声は機械のように平板だった。


「……お前たちか。残価マイナス一億の……“観測者”」


「な、なんだコイツ……!?」


ナナが震える。

「……ミチル、逃げなきゃ。あいつ、“神罰機関”の人間だよ」


「……神罰、機関?」


金属仮面の人物が手を伸ばす。


胸の十字紋章。背後で巨大な杭が起動する。


青白い光が広がり、空気が震えた。


瓦礫から光の粒子が吸い取られ、消えていく。


《神罰機関:価値制圧術式を展開》

《周囲の価値残滓:強制消去中》


「……消してるのかよ、価値を……!」


ナナの声が震える。

「神罰機関は、“価値の暴走”を防ぐために作られた組織。


……異常者を、根こそぎ」


俺は息を呑んだ。

「じゃあ、俺たちも……?」


――続く。

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