My heart is yours
アカリホドキ
Prologue
白─それは雪の色。病室の窓に貼りついた白は、外の音を奪い、内側だけを明晰にさせる。
これが、君と並んでの最後の雪だろう。窓硝子の冷たさが皮膚の奥へ道を作り、そこから時間がしみ込んでくる。私の振り子は、いまにも止まる手前で揺れている。
ふたりで「メリークリスマス」と言った。言葉は重なったが、響きは少しだけずれて、すぐに静かになった。
日付がひとつ年を取り、十二月二十五日が立ち上がる。始まりの鐘は誰にも見えないところで鳴り、病棟の空調がかすかに震えた。
君が私の手を包む。その温度だけが現実で、ほかは白い。
「
私はうなずく。君は布団の角を折り返し、隣のベッドに腰を下ろす。
「今夜は、隣を使っていいって」
それが許されるのは、もうじき朝が来ない人の部屋だからだ、と考えかけてやめる。
「私、いい子だったかな」
「ずっと、いい子だったよ」
「サンタさん、来ると思う?」
「来なくても大丈夫。俺が行くから」
笑いが出た。雪は降りつづけ、心電図の緑の線が、まばらに山を描く。
「サンタさんは赤いでしょ」
「深夜になったらなるよ。由貴が眠ってからね」
明日に置かれた薄明かりのような会話をいくつか交わし、私たちはそれぞれの布団に沈む。
「
「おやすみ」
声の温度が枕に残る。私は鳥籠の内側で眠りに落ちる。扉はあるが、開ける手順を、もう誰も知らない。
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