涼月風

第1話


また、あの声が聞こえる。


誰なのかはわからないけれど、とても悲しんでいるのが伝わってくる。


私も、自分の声が嫌いだった。


小学生の頃、「アニメ声だ」と男子にからかわれたのがきっかけだと思う。


それ以来、私は話すことが苦手になった。


だから、友人と呼べる存在もできなかった。


高校生になって、眼鏡をかけた男子にこう問われた。


「何でしゃべらないの?」


きっと彼にとっては自然に出た問いかけだったのだろう。


でも私には、「話さないと悪い子だ」と問い詰められているように聞こえた。


だけど、今ならわかる。


……笑い声


……泣き声


……怒鳴り声


この世界は声で溢れている。


そして、声の良し悪しなんて関係なく、それは一人ひとりの個性なのだと。


――また、悲しむ声が聞こえた。


どうやら私と同じように、声のことで男子にからかわれたらしい。


大丈夫。


その声は君の個性なんだよ。


だから、私みたいに自分の声を嫌いにならないで……。


そう伝えたい。だけど、私の声はあの交差点で終わりを告げた。


だから今は、宙を舞いながら聴くことしかできない。


――また、誰かが悲しんでいる。


でも、きっと大丈夫。 



だって、この世界には優しい声も、たくさんあるのだから……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

涼月風 @suzutsukikaze

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ