第2話

どうも、村人です。

今日も俺は冒険しています。

今日やってきたのは潮の匂いが心地いいこの町は世界でも有数の港町、ポートタウンです。

この町に来た理由は、折角勇者がこの町にいることが分かり、俺がこの町の周辺にいるなんてことがあったら勇者を一目見てみるしかないと思ったからです。

まあ、普通に永住の地を探していると言う理由もありますが。

そんな事を考えているとなにやら街の入口の方が騒がしくなってきました。

俺は皆が騒いでいる方向を向きました。すると、

歳は16程の長身でガタイのいい好青年と

二十台後半辺りの好青年より二回りは大きそうなどっしりとした風貌の若者、

いかにも金にあざとそうなネズミ顔の男

長身のもやし体型の気弱そうな青年

ピエロみたいなおじさん

勝気そうな若い女性

いかにも慈悲深そうな少女がいました。

こういう冒険は序盤からこんな仲間が多くないと相場が決まってた気がしなくもないですが気のせいでしょう。

当の勇者は周りの住人たちに決して満面の笑みという感じでは無いですが、それでも活力を感じるような笑顔を振りまいています。流石に勇者だけあって人を集めるカリスマ性みたいなのは大きいのでしょう。割と、まだたくさん仲間が増えるかもしれません。

「あの…ここら辺で悪さをしている魚みたいな魔物は見ませんでしたか?」

そんなことを考えていると先程の好青年に話しかけられました。どうやら彼が勇者なのでしょう。

ですが生憎俺もこの村には定住していないため質問の答えはわかりませんでした。

「それなら、町長さんが詳しいんじゃないでしょうか。今は街から少しだけ離れた場所に薬草採集の視察に行っていますよ」

「結局貴方は何も知らないのね」咄嗟に責任から逃れようとした俺に勝気そうな女性が言いました。確か彼女は魔法使いだったはずです。彼女はかなり高圧的な視線を向けてきていかにも見下すような感じです。多分、彼女は強さこそが正義だと心から思っているみたいです。そんなことを考えていると

「ご協力ありがとうございました」と、勇者は思わず魔法使いの前に制すような感じに右手を出しながら言って俺の元を離れていきました。どうやら、勇者は人望はあっても必ずしも恵まれた仲間には会えないようです。

僕はこの後、この町を観光することにしました。

まずは武器屋に護身用の武器でも見にいくことにしました。

そこにはどっしりとした風貌の男性が、彼はそのガタイのよさからかなり目立っている勇者一行の武道家です。今は勇者と別行動をしているのでしょう。

「兄ちゃんはオススメの武器とかあるかい?」武道家は気さくに話しかけてきました。

「す、すいません、僕はこの町のものじゃないし、そもそも武器とか詳しくないので分かりません。」「そうかい、そいつはすまない。ただ見たところ割と強そうだなと思ってな」あっけらかんと武道家は言いました。「えっ、でも僕ここ3ヶ月ぐらいしかまともに体は動かしてないと思いますよ!」思わず少し大きな声になってしまいましたが俺は故郷が壊されて旅に出るようになってから初めて鍛錬のようなものを積み始めたぐらいなので武道家の言っていることがお世辞でも理解できませんでした。「ガタイって言うよりかはな、お前さんには芯が通ってる。」

「芯、ですか」何を言っているのかがいまいち理解できません。目の前にいるのはいかにも脳筋っぽい風体の武道家です。しかし彼はどうも全てちゃんと考えているような感じがしました。

「おう、正直俺の仲間たちもよ、何人かは心が通ってない感じがしてよ、ほらさっきお前さんと話した魔法使いのねえちゃんとか後は商人のやつとかな。でも、そこ行くとお前さんは人目でなにか肝が据わってるような感じがするんだよな」割と有名な人物が自分をベタ褒めするのを聞いて俺は物凄い緊張してしまったようです。ですが頑張って咄嗟に言葉を捻り出します。「か、課題な評価、ありがとうございます」俺見してはまじめに返せたと思います。「なーに、畏まってんだよ、ハッハッハ、じゃあ、また、な!」何故かまた会うことは彼の中では確定事項のようでそんなセリフを残して武道家は去っていきました。彼はガタイに気圧されがちですが意外といい人なのでしょう。その後俺は今までよりも少し大きめのしっかりした剣を買って店を出ました。

次は道具屋です。薬草を買いに来ました。怪我をしたらヒーラーにかかるのが普通ですが、ヒーラーにかかるとお金がかかるので大抵は薬草という最強草に任せてます。ヒーラー以外にも物理的な治療もあるにはあるのですが正直全く信頼できないレベルです。だから病気にかかったりすると回復魔法では延命しかできないので冒険者界隈では病気にも気を付けているそうです。

そこにはネズミ顔と勇者がいました。ネズミ顔についての噂はあまり聞きませんが、おそらく商人とかでしょうか。どこか食えない雰囲気みたいなのがありましたのでそこら辺の職業の強者といったところだと思いました。「勇者様、何か欲しいものがありましたら私が買いましょう」商人っぽい男が言いました。「別に僕一人でも大丈夫だ。だけど思ってくれてありがとう」勇者は特に迷った素振りもなく答えました。「そうですか…。しかし、こちらの草は麻痺直しとして使われますが、場所が場所ならこれの倍の値段で売られることもあるので持っておくべきかと思いますが…。」

商人風の男はなおも食い下がります。「なら、僕のお金でそれを買うよ」

勇者は商人風の男には目もくれずに言い放ちます。「流石は勇者様、見上げるべき高潔な姿勢でございます。ですがここは私にもいい顔をさせてください。」商人風の男はそういうとてきぱきと商品を買っていって勇者に手渡しました。「あぁ、まぁそういうなら受け取っておくよ」

勇者はどこか不服そうです。「貴方は勇者なんですから一般人はこき使うぐらいがちょうどいいんですよ。」そう言って店を出ていく商人風の男に目をやると周りの人達が冷たい眼差しで商人風の男の方を見ているのがわかりました。どうやらこの男、皆からあまりよく思われていないようです。少し尊大なところが見え隠れするかでしょうか。

ふと勇者の方を見ると商人が渡したものと同じ商品を手に取っていました。

僕も用事を済ませて立ち去りますか。

次に来たのはサーカス。

ピエロっぽいおじさんと気弱そうな青年がいました。ピエロっぽいおじさんは名の知れた旅芸人です。もっとも、今は見る側ですが。テントの中にはあまり人はいないようです。ここは港町としては発展してますが娯楽はそれほどらしいです。暫く見ていると旅芸人が話しかけてきました。「お兄ちゃんはこの劇団、どう思う」旅芸人らしいフランクな口調でした。「俺はあまりいいと思いませんでしたが」「そうかいそうかい、じゃあ、この劇団としてはお客様を楽しませられなかったから公演は失敗って訳だ。」旅芸人さんは蓄えた口ひげを手でいじりながら言いました。「自分の劇団なのに悪く言って大丈夫なんですか?」

「そもそも自分の劇団をえこひいきする理由はないだろ?それに僕はもうこの劇団をやめるんだ。勇者についていくことにしたからね」僕の問いに旅芸人さんはよどみなく答えました。「そういう風に割り切るのは俺には難しいですかね…」「おや、ならそういう風にするのはあきらめなさい」旅芸人さんはこともなげに言いました。「どうしてですか?」「自分を強く誇りに思っていることが必ずしも悪い事とは限らないからね。無理に自虐に走る必要はないさ。」「そういっていただけるとありがたいのですが…」旅芸人さんの言っていることは程々に俺に響いたような気がします。

「でもついつい自虐に走っちゃうんですよね…。そのほうが生きやすいんですかね。」気の弱そうな青年が言いました。「おや、君は自虐に走るタイプなのですか?」旅芸人さんは気の弱そうな男性に問いました。「えぇ、よく卑屈すぎるって言われるんです…。」「あ、なんかわかります。正直、詐欺とか押しの強さに負けて引っ掛かりそう。」俺は久方ぶりに分かる会話が来たので心なしかテンション高めに発言しました。「流石にひどくない?」気の弱そうな青年は呟くように言い、それがおかしかった俺は軽く笑い声をあげました。

「またどこかでお会いしたいです!」会話がひと段落したころ思わず僕がそういうと、旅芸人は「そうかい、また会えるのを楽しみにしているよ」と言いました。「まぁ、いつかまたここに戻ってくるよ」気の弱そうな青年も旅芸人に続いて言いました。

色々な所を回って疲れたのでカフェに行くと、魔法使いと慈悲深そうな少女がいました。少女は僕でも知っている有名な賢者です。二人は何か話しているので僕は聞き耳を立てました。(有益な情報を得たいからです。本当ですよ?)

「全く、いつになったら強い魔物と戦えるのかしら」と魔法使いが言いました。魔物は普通の人が戦ったら弱い魔物相手でも負けてしまうほど強いのです。なので強い魔物を求めると言うことは余程腕に自信があるのでしょうか。注視してみると確かに魔法使いのつけているローブと杖はどちらも上質そうでそれなりに使い込んでいるようです。「そんなこと言ってしまって大丈夫なんですか?」心配する賢者。彼女が来ている装備は魔法使いよりも質が高そうですがかなり綺麗でした。「大丈夫よ。今までだって私の魔法一発で薙ぎ払ってきたんだから。私は、もっとこう、骨のあるやつと戦いたいのよ」魔法使いは胸を膨らませて言いました。「ず、随分強気なんですね」賢者さんは僕の言いたいことを代弁するように言いました。「まぁ私もいつ死ぬか分からないからね。ただ生きてるうちに強い敵と戦って有名になりたいのよ」「随分と名声をあげるのに必死そうですね。」賢者さんの声色に本当に少しだけ責めるような響きが混ざりました。名声を求めた結果身を滅ぼした例を知っているのでしょうか。「見返してやりたいのよ」「何をですか?」「すべてよ。親も、同郷のやつも、魔物も、この世界も」「世界とは…。また大きく出ましたね。」「だからその為にはちまちましてたら間に合わないのよ」「まぁ無理はしないでくださいね」賢者は重々しく言いました。「私はそれが原因で身を滅ぼした例をたくさん知っていてですね…」「あ、そうだ勇者に呼ばれてたんだ。あの魚もどきを倒さなきゃ」「そ、そうでした。すぐにいきましょう」魔法使いは賢者の発言を強引に遮ると席を立ちあがり会計に行きました。賢者も後を追うように立ち上がり二人は去っていきました。

魔法使いは何を考えてあそこまで行き急ぐ真似をするのでしょうか。俺にはあまりわかりませんでした。


俺はこの町を出ることにしました。まだ旅は始まったばかりです。この度の行く先がどこになるのかはまだ私にもわかりません。ですが私は死なないように注意しながら気のすむまで旅をしたいです。そうでもないと故郷の人たちの亡霊に使ってしまいそうな錯覚に陥るからです。

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