カフェでおしゃべり 5

(二人はカフェのテーブルを挟んで向かい合っている)

(アイスコーヒーを一口吸う)


「大学は志望していたところに入ることができた」


「制限の多い生活は続いていたけど、自分の進路の方向のようなものはもう固まってきていたから、くじけずに勉強ができた」


「何より、姉妹、そして君がいたから私は辛いことなんてなかった。大学2年になる時に、私は成人して……」

(ストローでグラスをかき回した手が止まる)


「あ、考えたら、私と同じ年度の生まれの人はあの春に19歳で一斉に成人したことになるんだ。19歳で一斉成人した世代。貴重な体験をした世代なのかも」

(ふと気がついたという風に話す)


「おっと、話が脱線したね。ごめん。私が成人した春、君の方は高校に入って、4人でささやかながら私の成人祝いと君の高校入学祝いをしたよね。あの時も私のお家でお食事会したよね? 楽しかったよね!」

(話を戻して楽しそうに話す)


「大学で勉強を続けているうちに、制限も少しずつ緩められてきた。大学生の間、大変なこともいろいろあったけど、みんなからずっと元気をもらっていた。自分の未来のために勉強をすることができた」


「そして。就職活動や卒業研究の時が来る」

(言葉を区切ってから、はっきりと話す)


「就職活動、私は自問自答」


『さあ、どんなお仕事をするか考えようか?』

『食べることに関係するお仕事がしたい!』

『じゃあどんなところでお仕事するの? 食品メーカー? 外食?』

『それも悪くないけど……、地域の人たちの生活を支えるようなお仕事がしたいな』

『へえ、それはどんなお仕事?』

『ふふっ。それはね……』

(心の中の声。自問自答の声が響く)


「私は学校や企業、病院、いろいろな施設、さらには地域の人たちのお家に食事を提供するお仕事を目指すことにした」

(明るさと力強さの混じる声)


「お姉ちゃんたちも、君も、私らしくていいって喜んでくれたよね。応援してくれたよね。私はそれに勇気づけられた」


「それからは行き来しにくくなったね。君の方も大学受験の勉強があったし。それでも、その間にもくれた君の励まし、嬉しかったよ」


「就職活動や卒業研究は大変だった。でも、力いっぱい頑張れた。そして、ついにそういうお仕事ができることになった。この業界ではそこそこいいところ、私のやりたいことができそうなところ。それから、大事な資格も取れた」


「みんな、大喜びしてくれたよね。ありがとう、本当に。みんなの応援があったから今の私がある。実感してる」


「でもね? お仕事に就いた、社会人になったと言ってもそれはゴールじゃない。新しいスタート。ここから私はどんな風に生きたらいいのかな?」

(優しく微笑む。じっと見つめる)


「お仕事を頑張るのはもちろん。でも、他にも目標、生き甲斐がほしい。それは身近な誰かさん。その笑顔を見たい。ずっと時間を共にしたい。そう考えるようになったの」


「えへへ。その誰かさんって、誰なのかな?」

(少し照れたように笑う。じっと見つめる)

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