一緒に過ごす時間は人生の調味料
秋の隙間風
菜結さん
(部屋のドアが開く。
「こんにちはっ!
(菜結がトントンと軽快な足音とともに入って来る)
「元気そうで何より! 体調管理には気をつけてね。君が病気になったら、私、泣いちゃうぞ」
(顔を見てお節介気味な心配の言葉が始まる)
「ご飯、ちゃんと食べてるかな? 食べることは健康の基礎。食事はしっかりとるんだよ? 規則正しく、栄養バランスがいい食事をとることが大事!」
「さすがに私も君の全ての食事をチェックすることはできないからね。いっそ、私のお家にいてくれれば……。あ、いや、何でもない」
(お節介が調子に乗る。何かまずいことを言いかけたという風に自分の言葉を遮る)
「あと、食中毒には注意だよ? 5月で少しずつ暑くなってきたからね。去年や一昨年もすごく暑かったけど今年の夏も暑くなるのかなあ。熱中症にも気をつけないとダメだよ?」
「と、お小言じみた話はこのくらいにして……。あ、ここ座るね」
(声が和らぐ。ベッドに座る。ベッドマットレスのスプリングが微かに軋む)
「さて。日々の生活を楽しんでる? 新しく始まった大学生活はどうかな? 大学生活に慣れた? 世の中ではいろいろあるけど、明るい未来を信じて笑顔で行こう!」
「ねえ、たまには君の方からも遊びに来てよー。お家、近いんだし。昔みたいにさ」
(訪ねて来ないことに少し不満気な風でおねだりする)
「ちびっ子時代なんか、誘えば『うん、あそびにいくーっ!』って可愛かったのに……。さすがにそんなノリじゃないけど、一昨年ぐらいまでは来てくれてさ」
(小さい頃の『君』の話し方の真似を交えて話す)
「でも、私の就職活動やら卒業研究やら、君の受験勉強で、だいぶ頻度落ちちゃって。この春からは、私は社会人、君は大学生、時間とれなくて会えなくて」
「ねえ? もう5月なのに私の就職祝いと君の大学入学祝い、まだやってないよー?」
(少し拗ねたように言う)
「あと、君の成人祝いもやってないし。まとめて4人で盛り上がろうよー。うちのお姉ちゃんも妹も待ってるよー? 3人姉妹が待ってまーす!」
「ところで。今、何してたの? ああ、大学のレポートか、これ。勉強熱心、感心感心。菜結さん、嬉しいよー」
(ベッドから立ち上がり、机の手元のタブレットを覗き込む。感心の声)
「ん? こっちは? 趣味の物書き? まだ書きかけ? へえ、『エッセイ 黒潮大蛇行を考える』。君、本当にいろいろ書くよね。執筆熱心、感心感心。書き上げたら読ませて」
(手元のノートを覗き込む。感心の声)
「私、君の書くものが大好きなんだから。論説、随筆、小説、詩、戯曲、その他いろいろ、どれも面白い」
「それから、こっちは趣味の読書? 新しい本があるね。蔦屋重三郎の本と……、豊臣秀長の本か。へえ、今、歴史の本を読んでるんだねー。読書熱心、感心感心。読み終わったらお話聴かせてよ。君がしてくれる本のお話も大好きだよ」
(手元の本を覗き込む。感心の声)
「私はそんなに詳しいわけじゃないけど……。蔦屋重三郎と豊臣秀長、時代もその立場も違っても、蔦屋重三郎は数々のクリエイターを、豊臣秀長は兄を、つまり誰かの才能を自分の才覚や能力で支えたって点で共通している気がするんだなー」
「そういう人生や生き方、いいなーって思うの。私、食事を学校や企業、病院、施設、さらには一般の御家庭にも提供するお仕事に就いたけど、これも誰かを支えるって言えなくもないかな?」
「そして、一番支えたいのは、君!」
(びしっと指差す)
「君のいいところ、ずっとずっと知っているんだから。君の書くもの、君のお話、私は大好きだよ。私、君のことを支えてあげられたらなって思ってる。私は、君の才能をさらに伸ばすお手伝いができたらいいなって思ってる」
(優しい目で見つめる)
「とりあえず、今は大学のお勉強、頑張って! 教養を広げよう! 深めよう! 私、応援してるから!」
「今日はサンドイッチを作ってきたよ。よかったら食べて! たまごサンドにハムサンド、ツナサンド、野菜サンド。菜結さん特製です!」
(バスケットを取り出して開く)
「えへへ。今のお仕事も楽しいけど、特別な誰かのために自分の手で何か作ること、やっぱり楽しいな」
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