海の先にあるもの 🍀

 もう嫌だこんなところ抜け出したい

 いつも大人が私を取り囲む。

 朝、昼、晩毎日ずっと私をみてるの。


「歩いてごらん」


 脚に力を込める。

 一歩、一歩と確実に歩けてきている。

 これもこの人のおかげ

 この人だけは他の大人と違うってわかる。

 だって、

 他の誰よりも私に寄り添ってくれるの


真希まき、手を握れるかい」

 私の手を握るあなたの手はいつも温かい。

 でも握れないの。嫌だ、手を繋ぎたい。

 私の体は右半分が動かない。

 そして言葉を喋ることもままならない。

 ある日を境に記憶が全くないの。

 私は何も知らない。


 あなたは毎日夜に一言置いていく。


「なぁ真希。いつかみんなで海を見に行こうな。母さん、泣いて喜ぶと思うぞ」

 

「なぁ真希。父さん、少しでもお前と一緒にいたいから勉強頑張るからな」

 

「真希。絶対に治してやるからな」


 その言葉を聞いた瞬間、全ての記憶が思い出された。

 あの日私は帰り道、車に轢かれた。

 そして半身不随になったんだ。

 この人はお父さん。だから優しくしてくれるんだ。そうだ、そうだったんだ...


「ん?真希、どうして泣いて...」

 お父さんはびっくりしたように私の涙を拭う。

 私は利き手じゃない左手で紙に一生懸命に字を書く。こんなことをしたのは初めてだった。

 

「ぁりがとぅ」

 ひどく歪んだ言葉。

 でもこれが嘘偽りない私の気持ち。

 お父さん。


 お父さんはそれを見て私の横で泣き続けた。

 他の大人達が来ても、ずっとずっと。


「ありがとう真希。海、みにいこうな」

 今まで見たことないほど輝いた笑顔であなた、いや、お父さんはいった。

 私たち家族は心で笑い合った。

 

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玉響のリアン 綴否-Tsuduri.ina- @techina

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