レトルト三角関係

沙月Q

また始まった……

「ちょっと、あんた。いい加減、彼から離れなさいよ!」

 辛口が言った。

「あんたこそ、どっか行っちゃいなよ。この泥棒猫!」

 中辛が言った。


 とある台所の戸棚の奥。

 3つのレトルトカレーが押し込まれたまま、持ち主に忘れ去られていた。

「甘口様は、私の方が好きなのよ!」

「何言ってるの! 私の方が甘口様とは気が合うのよ!」

 中辛と辛口に挟まれた甘口カレーは、長い間この痴話喧嘩に悩まされていた。

 もう、いい加減にしてほしい……誰からでもいいから早く食べてもらえないかな……


 甘口にとっては我慢の日々がひたすら続き、ついに彼らの消費期限が切れ、さらに数年の歳月が流れた。


 そして、やっと台所の主は彼らの存在を思い出した。

 3つを一気に片付けるため、彼らをまとめて鍋に開け、火にかけようとした。

 甘口は喜んだ。

「ほら! もうみんな一つの鍋の中だ。ケンカはやめてみんな溶け合って一つになろう!」


 ところが、鍋の中は甘口、中辛、辛口だけでなく、さらに多くのカレーになり、痴話喧嘩がヒートアップした。

「あんた、離れなさいよ! この甘口様は私のものよ!」

「じゃあ、私はこっちの甘口様をもらうわ!」

「何言ってるの! その甘口様は私がもらったのよ!」


 鍋の中はカオスの極みとなった。

 長い年月を経たレトルトカレーは油や成分が分離し、火にかけても混ざらなかったのだ。


 とても食べられたものでなくなったカレーは、まとめて廃棄されてしまったのだった。



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レトルト三角関係 沙月Q @Satsuki_Q

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