武蔵嘘向和歌集3

@usomuki

第1話

武蔵嘘向和歌集3



一匹目の犬の死を詠める

401.いとうれしきことのありし日の夕まぐれ知りてぞ袖を濡らしぬるかな 哀傷


二匹目の犬の死の時、己を嘆きて詠める

402.偲びての漏るべき露も看取りての後は出でざりぬ心憂き身や 哀傷


一匹目の犬の死の時、己を歎きて詠める

403.君の手に触らずなりにし日のことを命の限り嘆かぬ日やある 哀傷


その後の心を詠める

404.触らぬを命の限り嘆きての後は心に留めおくなり 哀傷


一匹目の犬の死の後、亡骸を見し時に詠める

405.死を知りて急ぎ帰りて触れる手の肌に伝はる君の冷たさ 哀傷


亡くなりし犬二匹の写真を見て詠める

406.懐かしき写真に動けと言ひつれど聞こえし音は時計の針音 雑


亡くなりし犬のことを忘れゆく様を詠める

407.昔をば今こそ全て忘れけれ声も香りも夢幻や 哀傷


親を焼く煙を想像して詠める

408.亡き親を偲ぶ煙をながめつつふるき昔を思ひ出でけり 哀傷


和歌の歴史を詠める

409.昔より思ひの丈を言の葉にしてぞなれるは和歌の浦波 雑


年の瀬を詠める

410.整理して懐かしと思ふ写真かな昔恋しき年の瀬の家 冬


初恋の心を詠める

411.逢ふごとに聞こゆる声も目の色も手の温かきも恋しとぞ思ふ 恋


返歌

412.恋しとは口には言はで逢ふごとに顔の色にぞしるく出でにける 恋


黒部湖にて詠める

413.亡き人を偲ぶばかりの涙かな轟に落つる黒部湖の堰 羇旅


人目を憚る恋を詠める

414.東路を隔つ逢坂の関守も夢のほどにぞ絶えてなくもが 恋


返歌

415.まどろみて見し逢坂の関守も数ぞ多くてえ逢はざりける 恋


残業を詠める

416.残業の長く続けば古の我を愚かと思ふこの頃 雑


現代の生き苦しさを詠める

417.世は進むとは言ひながら古に及ばぬほどの生き苦しさよ 雑


引き離されて、東の方に移りし人へ詠める

418.古の落ちゆく道の半ばにて露となりなむ逢瀬もがもな 恋


返歌

419.逢はばやと思ふ心も露と消えにしの空をぞひとり眺むる 恋


思ひを残しつつ別れし恋を詠める

420.思ひつつされど別るる憂き世にて結びの神を我は恨まむ 恋


返歌

421.世の中にかく憂きほどの別れをば経てける人の数多やをらむ 恋


平成初期の恋を詠める

422.鳴る音に六十四年の十円を入れて続くは三分の夢 恋


返歌

423.昼前の三分間は長けれど君との時間ぞ短かりける 恋


血涙比紅葉川を詠める

424.漏れ出づる涙の色にさうなきは唐紅の竜田川のみ 恋


返歌

425.見せばやな竜田の川の水の色も赤くはなれど染みは残らず 恋


雲の海ばかりの日に、月の居場所を探して詠める

426.眺むれば空には雲の海ばかり月はいづくを宿とやすらむ 雑


紅葉の紅くなることを雨に色が落とされし故と見立てて詠める

427.山の端にいたく降りたる秋雨の青き紅葉の色を落としけり 秋


猛毒のある彼岸花の食用の歴史を知りて詠める

428.古は数多の死ぬる人の上に生きゆくすべを見つけつるなり 雑


結婚して後、夫との考えが合はぬ日を言はで忍びて、おのが袖を掴む様を詠める

429.契りても忍ぶばかりの思ひかな合はぬをたへて袖をぞ掴む 恋


返歌

430.契りても合はぬを忍ぶ君なれど我も忍びて嘆きをぞする 恋


光明皇后が亡き聖武帝の愛用品を集めむとせしことが正倉院の宝物の由来と聞きて詠める

431.古の深き思ひの積もりゆき宝とぞなる愛のしるしに 雑


枕付髪を詠める

432.敷妙の枕に髪のつくを見て知らぬ内にも我や悩まむ 雑


良き歌を思ひつきし時の心を詠める

433.良き歌を思ひ及ぶは清らかに心の奥も山の井の水 雑


散髪を詠める

434.散髪時黒に紛るる白を見て昔は知らぬ老いをぞ嘆く 雑


京極派から見し二条派を詠める

435.身の上に幾重の島を敷き詰めて成れにし果てぞ敷島の道 雑


二条派より見し京極派を詠める

436.世々を経て種より咲けるやまとうたの根を腐し果て枯れてけるかな 雑


令和七年秋分の日に詠める

437.夕月夜村雲暗き空の色にそれかとまがふ秋の山の端 秋


秋到来を詠める

438.秋ぞ来し此の間までは暑けれど風は涼しく昼は短し 秋


冬の野を嘆きて詠める

439.冬来れば野のくさぐさは枯れ果てむ食に困らむ季節なりけり 冬


朝令暮改を嘆きて詠める

440.世の中は紫野行き標野行き志浅き人こそ多けれ 雑


渋滞の際に詠める

441.高速の赤き光の連なれば道もせにある命かなしも 雑


近頃の膨大な情報量について詠める

442.膨大な情報の風に晒されて人こそ知らね身ぞ枯れにける 雑


大学時代を述懐して詠める

443.才あれど思ひ絶えなむことばかり猶恨めしき憂きよなりけり 雑


また、大学時代を述懐して詠める

444.世の中の道は元よりなきことのいと多きかな山のあげまき 雑


就活述懐して詠める

445.適正のはかりし時に芸術家と出でぬる我に吹ける寒風 雑


遠回りについて詠める

446.遠回りは志あらば苦にならずされどかくなる人ぞ少なき 雑


断りとして詠める

447.思ひあらば偽りならで言ふものをかくならぬをぞ人は知るべき 恋


返歌

448.よしさらば思ひなからむとばかりをひとづてならで我にこそ言へ 恋


七夕の空を詠める

449.星合の空をぞ裂きて天の川白く光りて夜は更けにける 秋


また、七夕の空を詠める

450.天の川黒き裂け目か異次元の扉にも見ゆる星合の空 秋  


卒論時に多用した言葉の予測変換を見て詠める

451.年重ね予測変換の懐かしき言の葉見れば昔恋しも 雑


小学生時代を後に述懐して詠める

452.手になりし皮のまめをば見る毎に昔思ひて一人嘆くらむ 雑


高崎城の土塁を見て詠める

453.古の館を建てる術凄し丈より高き高崎の土塁 羇旅


時雨降峰を詠める

454.時雨降りかかれる霧の深まりて辛さぞ多き峰の紅葉葉 秋


自業自得を詠める

455.為さずともなるやうにはなるこの世にて為さぬぞ人の責となりつる 雑


十人十色を詠める

456.人は花故に振る舞ひをこればかりと言ふは愚かの極みなりけり 雑


苦手な人間といふ題にて詠める

457.世の中は人こそ多けれ思ひ寝の夢の内にも合はぬものあり 雑


劣性が潜性に、優性が顕性に変りしことを詠める

458. 学生時習ひし言葉の変りゆきあはれ儚き昔なりけり 雑


独苦吟として詠める

459.苦しきは数多の店を行き来して試着してから服を買ふ時 雑


兄への怒りとして詠める

460.作りたる料理を遅く食べ始め洗はず消ゆる人ぞ恨めしき 雑


九州に旅せし時、都落ちせし平家の心として詠める

461.憂き世にて心づくしの身なれども昔ながらの月の影かな 羇旅


家族を詠める

462.寄せて来る漣と遊ぶ子の声に残せし子等を忘られむやは 雑


残業の心として詠める

463.長き夜を耐へむ心の頼みとは今も昔も和歌の浦波 雑


秋の海景色を詠める

464.夕されば入日の海を赤く成し猶輝ける浮島の松 秋


秋の里を詠める

465.鶉鳴く里に山風染み渡り空のはたてぞ赤くなりける 秋


暁の雨を詠める

466.昨日今日ありし事だに忘れけり老いをぞ嘆く暁の雨 雑


沖の波を詠める

467.ありしだに憂き事多きこの世にて岩をぞ砕く沖の荒波 雑


後朝の歌として詠める

468.可惜夜の名残ばかりの有明の月にぞかこつ我が涙かな 恋


返歌

469.我が思ひも有明の月の如きかな朝になりても思ひ尽きせじ 恋


目の前にて大切な人を殺されし人の心を詠める

470.憂き事を目にしても猶現とも夢ともわかで涙雨降る 哀傷

 

辛き月を詠める

471.心にもあらで憂き世にながらへば村雲覆ひて影ぞえ漏れぬ 雑


辛崎の秋を詠める

472.宵さればいづかたも色は黒ばみて月影清し辛崎の浜 秋


富士山恋を詠める

473.駿河なる富士の煙は思ひかな絶えず靡きて行方ぞ知らぬ 恋


返歌

474.目には見て手にはえ取らぬ駿河なる富士の煙は今日も過ぎつつ 恋


人間についての持論を詠める

475.一人憂し二人も憂しと言ふものは今も昔も多きことかな 雑


武蔵野の秋を詠める

476.吹く風に野辺の草木ぞ臥しにける露か涙か武蔵野の秋 秋


なべて人について詠める

477.波の下の岩の形をえ知らねば憂しとも見えて愛しとも見ゆ 雑


岩苔恋を詠める

478.我が思ひは貴船の岩にむす苔の忍びかねてぞ色に出でにける 恋


返歌

479.苔のむす貴船の岩も言はぬ間に心の内にぞ思ひ積もれる 恋


新古今集にある九条良経の「吉野山花の故郷跡絶えてむなしき枝に春風ぞ吹く」を秋歌として詠める

480.み吉野も里の刈田に人をなみむなしき庵に秋風ぞ吹く 秋


秋悩みを詠める

481.朝夕に物思ふ頃はうじ山の鹿の声だに絶えて聞こえず 秋


秋風恋を詠める

482.知るらめや今来むといふ玉章に待ちつる我に吹くあき風を 恋


返歌

483.秋風や思ひを運べ人の元へ憂かりける身の名こそ惜しけれ 恋


後悔恋を詠める

484.愚かなる我をも人の愛しきも互ひにうらみ別れてぞ知る 恋


返歌

485.あだ波も離れて後はよるものでうらみの波もかくこそあるらめ 恋


慰めの月を詠める

486.憂かりける身の慰めに見る月の世に澄み渡る影ぞさやけき 雑


師走の晦日について詠める

487.置く露の魂をばまつる師走月の晦日に吹ける世の山おろし 冬


「み吉野の山の白雪つもるらし古里さむくなりまさるなり」を春歌として詠める

488.み吉野の山の春風うち吹きてふるさとあはれに花ぞ散るなる 春


「松島や雄島の磯にあさりせし海人の袖こそかくは濡れしか」への返歌として詠める

489.松島の雄島の海人こそ袖濡るれ風に晒して干す暇ぞある 恋


「さそはれぬ憂さも忘れてひと枝の花にぞめづる雲のうへ人」への返歌

490.我折りし僅かばかりの花の枝はくもの上にも香こそ添はらめ 春


「おなじ世となほ思ふこそかなしけれあるがあるにもあらぬこの世に」への返歌

491.ありながらありとは思はぬ世の中に神こそ知らね憂きことぞ多き 雑


田舎の奥山について詠める

492.里遠き人跡見えぬ奥山は沢の流るる音のみぞする 雑


哀傷歌として詠める

493.嘆かじな我が身朽ちなば大空の村雲となり逢はむとぞ思ふ 哀傷


また、哀傷歌として詠める

494.限りあらば惑はぬものをこの度の俄かに消ぬる命切なし 哀傷


朝老歎として詠める

495.永らへば鏡の影ぞ変るべき老いこそ朝の涙なりけれ 雑


遠き所に赴きし時、人を思ひて詠める

496.永らへば鏡の影ぞ変るべき見知らぬ前の限りともがな 恋


返歌

497.天の川一夜の逢瀬は昔より絶えず続きて猶残りけり 恋


女の心変りを妬みて詠める

498.心ざしうつりにけりなさうなきは春のみ咲ける山桜花 恋


返歌

499.み桜は人の心を集めつつあだに散りける物故に憂し 恋


慰めの月に裏切らるる心を詠める

500.憂かりける身の慰めに見る月も雲居に消えて更けゆく闇夜 雑


秋到来の風を詠める

501.暑き日の過ぎて幾日も経たねども秋のしるしの風の涼しさ 秋


川越氷川祭について詠める

502.夕月夜道の四方より山車の来て声高らかに提灯の波 神祇


桜井二見ヶ浦の夫婦岩を見し折、白き鳥居にある黒き染み跡を見て詠める

503.純白の心も寄れるあだ波に汚れて残る黒き染み跡 恋


返歌

504.汚れなき心につける染み跡は変はる心のしるしなりけり 恋


夏の浮羽稲荷神社を詠める

505.夏の色の青に連なる赤鳥居焼ける炎と見えにけるかな 夏


大海原と浜辺を詠める

506.わたのはら遠つ海色青ながら浜の辺りぞ緑なりける 雑


秋となりて幾日経たずに、冬の如き寒さを感じて詠める

507.秋の日も雲居に消ゆる月影や夜に行く道に吹ける寒風 秋


霞と山と里を詠める

508.遠き山霞める色は深まりて影もおぼろの麓のを里 雑


ある人の死の折、世の変らぬ景色を見て詠める

509.世の中の大きさを知る涙目に映る景色の変らぬ色に 哀傷


死期を悟りて詠める

510.誰もかも通る道とは知りながら我が心には嵐ぞ吹ける 雑


偉大な人の死を悔やむまもなく回る世の中を詠める

511.偉大なる人の死を経て留まらぬ世の川流れ人ぞ小さき 哀傷


死の床にて詠める

512.夏の日の体を張りしあの日々も僅かに過ぎて見ゆる天井 雑


久能山と久能海岸を詠める

513.さざなみやよる波磯の香りして背にぞ吹けるは久能山風 羈旅


秋の夕刻を詠める

514.藍色の薄まりゆきて水色の先に広まる赤き夕暮 秋

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