秋思

キートン

 

 銀杏の葉が金色の絨毯を敷き詰めた公園のベンチで、彼女はスマホの画面をじっと見つめていた。


 既読になったメッセージの向こう、彼の返事はまだ来ない……。


―――


 三年前の秋、同じベンチで出会った。落ち葉が舞う中、彼がカメラを向けて「シャッター切っていいですか?」と声をかけてきた。出来上がった写真には、頬を赤らめた彼女の横で、銀杏の葉が一枚、優雅に止まっていた。


「来週、ニューヨークへ行くことになった」


 昨日の彼の言葉が、胸に刺さった。叶うはずのない距離が、二人の間に横たわる。


 スマホが震えた。


「君の好きな銀杏並木、最後に見に行かないか?」


 彼のメッセージに、彼女は深呼吸して返信した。


「じゃあ、駅前で待ち合わせね」


 鞄から古いアルバムを取り出す。彼が撮った彼女の写真が貼ってあるページをめくると、一枚の銀杏の葉のしおりがひらりと落ちた。あの日、彼がそっと押し花にしてくれたものだ。


 駅前に着くと、彼はカメラを手に待っていた。「今日は特別な日だから」と言い、シャッターを切る。


 その夜、彼女は彼からのメールを開いた。


 添付された写真には、金色の銀杏並木を背景に、泣きそうな笑顔の彼女が写っている。本文にはこう書かれていた。


「行かないよ。だって、君という秋の思い出を、これ以上遠くに運べないから」


 翌朝、彼のドアをノックすると、彼は荷解きの最中だった。二人でコーヒーを飲みながら、窓の外の銀杏を見つめた。


「秋が終わっても、ここにいるよ」


 彼が囁く。


 彼女は答えず、ただ彼の手を握った。掌の温もりが、言葉にならない想いを伝える。


 


 やがて窓の外で、最後の銀杏の葉が風に舞った。

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秋思 キートン @a_pan

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