第37話 うじうじ漆黒と、逃げる裏柳
部屋で一人塞ぎ込んでいた漆黒であるが、胸騒ぎに体を起こした。
なんだ? この言い知れぬ不安感と不快感は。
じっとしていられない。
白の王国付近まで様子を見に行こう。
我ながら諦めの悪いことである。
だが裏柳が心配なのだ。
裏柳に何かあった。
そんな気がしてならない。
反射的に瞬間移動を発動しようとして気づく。
そうだ、魔法を阻害されていんだ!
漆黒の体力はまだ回復しきれていないようだ。
肉体的なことよりも、精神的なものが大きい。
優秀で心配症の側近が三匹もいるのだから困りものである。
漆黒は、深い溜息を吐く。
裏柳が側に居ないと、俺は駄目なんだ。
仕方ない。
ここは我慢してあのオメガを抱き、力を蓄えるしかないか。
とりあえず小水だけでも貰おう。
漆黒は仕方なく羊を呼び、オメガを監禁した部屋まで連れて行って貰う。
「イヤァァ来ないでぇーー殺さないでーー」
漆黒が部屋に入るとオメガは悲鳴を上げて逃げ惑い、部屋の隅で震えて泣きじゃくる。
可哀想な程に顔は真っ青だ。
ずっと泣いているのだろう、目が赤く腫れてしまっていた。
呼吸も荒く、過呼吸を起こしている。
漆黒に加虐趣味はない。
あまりにも可哀想でヤル気が出るわけがなかった。
お面を取れば少しは落ち着くかも知れないが、婚姻もしてない相手に顔を見せるのはご法度。
「落ち着いてくれ、手荒な真似はしない。出来れば貴様の小水を飲ませろ」
とにかく、小水を頂けたらと思う漆黒。
出来るだけ距離を取りつつ、様子を伺う。
「小水ってなによーー!」
「貴様のおしっこだ」
白の王国のオメガは青の国にも嫁ぐ者も多いと言うのに、なぜ知らないのか。
「キャァーーー変態!! イヤァァーー!!」
オメガは余計に怖がって、更に取り乱してしまった。
「落ち着け、魔法使いならば基本飲むものなんだ」
白の国のオメガには義務教育として教えておいて欲しい。
これでは、青の国に嫁ぐ白の国オメガは大変であろう。
毎回このやり取りをしなければならないのだろうからな。
「キャァーー近づかないでぇーー殺さないでぇーー」
「話の解らんやつだな」
殺さないと言っているのに。
殺人者の様に見られ、漆黒は居た堪れない。
ただ小水が欲しいだけなのだが、これでは……。
こちらとて、別に好きでもないオメガの小水など、出来れば飲みたくないと言うのに。
「解ったから落ち着け、とりあえずもう寝ろ!」
どうしようも無いので寝るように言い、部屋を出た。
余計な物を連れ帰って来てしまった感がすごい。
落ち着いたら白の王国に返した方が良いかもな。
だが誰を連れてきても同じ様な反応をするだろうし……。
「王、王の精子を取りまして、あのオメガの中には直接注射する方法など……」
「そんな可哀想な真似出来るか。暫くそっとしておこう」
羊の提案に漆黒は嫌悪感を感じた。
そこまでして自分の子孫を残さないと行けないのだろうか。
血筋的には他にも沢山、魔王の系譜が白の国に散らばっているだろう。
そこから勝手に見繕って欲しい。
「外を散歩してくる」
漆黒はそう言うと、外に出る。
後には虎が見張りとして着いて来たようだ。
羊に「行け」と、急かされたに違いない。
森には深い霧が立ち込めていた。
黒の王国らしい様子であるが、最近は月の見える日も多く、何だか珍しい様な気さえする。
天気も悪く、今にも雨が降り出しそうであった。
しかし、胸騒ぎは収まらない。
「漆黒様、城に戻りましょう。雨が降りそうです」
「ああ……もうちょっと」
虎の声を退け、歩みを進める漆黒。
何だろう。
「何だか甘い匂いがすると思わないか?」
微かに何かが匂ってくる。
この鈴蘭の香りは……
「これは裏柳様の……」
虎も感じ取った。
胸騒ぎの正体はこれか。
はたと気づく漆黒。
裏柳は今、白亜と愛し合っているのだろう。
結婚式を終えたら初夜になる。
子作りに励んでいるのだ。
裏柳の赤ちゃんはきっと可愛いだろう……
「漆黒様……」
漆黒の様子に気づき、虎が声をかける。
漆黒は泣いていた。
「漆黒様、裏柳様を迎えに行ってください! 今からでも間に合います。お二人は愛し合っているのでしよう?」
虎は漆黒の肩を掴む。
「裏柳は俺を忘れてしまったんだぞ」
漆黒は視線を反らし、地面を見ていた。
「忘れたからと言ってなんですか! 愛し合っていたのならまた愛し合える筈でしょ!!」
「子供が出来たら離れ離れになる。耐えられない」
「それは……皆で考えましょう!」
「無理だ。辛いんだ……」
「もう!!!!」
虎はウジウジする漆黒に我慢出来ず、漆黒の襟を口に咥えると子猫を運ぶ格好で走り出した。
お咎めならばいくらでも受けよう。
今は漆黒を裏柳の場所まで連れて行くのが先である。
「虎、解った。乗る。背中に乗るから!」
ブランブランされ、漆黒は恥ずかしいやら惨めやらでいたたまれずに叫ぶが、興奮してしまった虎には聞こえなかったようで、そのまま疾走されてしまうのだった。
一方、秘密通路を行く裏柳は、何とか追手を巻いたが、出るに出られなくなってしまっていた。
出口を張られてしまったのだ。
秘密通路の中は裏柳しか知らない道もあり、迷路の様に入組んでいる為に追手も深追いして来ないのであるが……。
出口を張られては、もともこうも無い。
白亜は人員を惜しまずに投入したらしく、全ての出入り口を押さえてかいるのだろう。
なぜ俺にそこまで固執するのか。
裏柳には解らなかった。
白の国ではオメガが選り取り見取りだと言うのに。
たかが幼馴染である。
なぜ自分なんかが良いのか、裏柳にはサッパリだ。
抵抗しているのだから諦めて欲しい。
抵抗してもやめてくれない白亜に、裏柳は解らなくなってしまっていた。
俺の幼馴染は、あんなに傲慢で嫌な男だっただろうか。
このまま逃げ出して良いのか?
ちゃんと白亜に断り、「他に好きな人が居る。俺の事は諦めろ」と、言うべきだろうか。
しかし、今の白亜が聞く耳を持ってくれるか定かではない。
彼は今、冷静ではない様子だった。
ならば、やはり距離を置くべきだろう。
操を奪われはたまったものではない。
さて、俺はいったい誰に操をたてているのだろうか。
それが解らない。
きっと、あの般若の男だ。
なぜ、記憶にないのか解らないが、彼は俺を迎えに来てくれたはず。
なぜ置いて行ったんだ。
他の可愛いオメガに目移りしたのか?
許せん。
裏柳は何だか見知らぬ男にムカムカして来てしまった。
さて、そんな事より、今はここをどう切り抜けるかである。
旧式の既に忘れ去られた出口が有るには有るが、森には遠すぎる。
町中を通らなければならない。
全裸でシーツだけを羽織った姿では……。
どうしよう。
裏柳は八方塞がりになってしまっていた。
もう、こうなったら一か八か、森に一番近い出口を出て張ってる兵士を振切る荒業に出るしか手は無さそうだ。
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