第18話 過去の自分に嫉妬する魔王

 目を覚ました裏柳は、体中がとてつもなく痛いことに気づく。

 筋肉痛だろうか。

 あと、お尻がめちゃくちゃ痛い。 


 昨日、初めて発情し、漆黒に縋り付いて困らせた挙句、泣かせた気がする。

 その気じゃない漆黒を無理やり襲ってしまった。


 漆黒、すごく辛そうな顔をしていた……。



「裏柳! 目が覚めたのか。よかった!」


 部屋に現れた漆黒は、裏柳を見て安心し様子で顔をほころばせる。


「すまない、めちゃくちゃ抱き潰してしまった」


 そして、今にも泣きそうな表情を裏柳に見せた。


「ううん。俺こそごめん」


 裏柳も申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

「何でお前が謝る。体調はどうだ?」


 謝罪を口にする裏柳に首を傾げつつ、漆黒は裏柳の額に手を当てた。


 慣れないことをしたせいか、裏柳は熱を出して一日寝込んでいたのだ。

 シカは大丈夫だと言っていたが、漆黒は心配で仕方なかった。


 触れた額の熱は、平熱まで下がっているようだ。

 漆黒は安堵の溜息をつく。


「熱は下がったようだが、まだ無理をするなよ」


 そう、頭を撫でるが、無理をさせたのはどこの誰だ、である。

 無理をさせて熱を出させた本人がよく言うと、内心、漆黒は自嘲的に笑った。


「熱? そうか、心配をかけてすまない」


 熱を出し、漆黒に介抱させてしまったらしい。

 本当に出来損ないのオメガで、夜の営みもままならないとは。

 裏柳は恥ずかしくてどうしようもなかった。

 漆黒の力が回復し、元気になってもらいたいと言うのに、かえって負担になってしまっている気がした。

 

「謝らなくていい。俺が悪いんだ。本当にひどいことをしてしまった。すまない」


 漆黒は徐にその場に正座すると、床に手をつき、頭を下げた。

 土下座の姿勢である。


「お、おい、止めろ!」


 それを見て慌てるのは裏柳だ。

 王様が土下座なんて、何をしているんだこいつは。

 ベッドを飛び出した裏柳は、漆黒の前に正座する。


「俺がしてくれとせがんだんだ。お前は俺の望みを叶えてくれただけで、何も悪いことはしていない。無理やり抱かせてしまった。申し訳ないのは俺の方だ」


 裏柳も床に両手をついて土下座の形を取る。


「何をしているんだ。止めろ」


 慌てて裏柳の肩を掴み、土下座をやめさせる漆黒。


「悪いのは俺だ。発情したオメガは、近くにアルファがいたらそうなる。せがむのは当たり前だ。それは同意とは言わない。突っぱねなければいけなかったんだ」


 そう続けて言うと、自分の未熟さを悔やむ。

 漆黒は眉間に皺を寄せた。

 だが裏柳は、ムッとして声を荒らげる。


「俺はお前だったから強請ったんだ。他のアルファがいてもあんなことは言わない!」


 自分がアルファと見たら誰にでも足を開く阿婆擦れだと揶揄されたと感じ、言い返してしまう。


「オメガは皆そう言うんだ!」


「俺は漆黒が好きだから、漆黒の番になりたかった!」


「お前が好きなのは錫だろう!俺は錫じゃない!!」


「なぜ錫を引き合いに出すんだ!」


 お互いに声を荒らげ、口論になってしまう。


「錫は錫だし、漆黒は漆黒だ。俺は錫を可憐な美少女だと思って恋をしたが、幼少期に幼馴染の優秀で可憐な美女が側に居たら誰だって同じ事になる。そんな昔の事を引き合いにだして、錫がどうこう言うのは何なんだ。意味が解らない!」


 プンプン怒る裏柳は、不機嫌に漆黒から顔を逸らした。

 だが、なんだろう。

 話が噛み合わない気がする。

 漆黒は違和感を覚えた。


「裏柳、あの……これ、覚えてる?」


 もしかして、裏柳は俺が錫だと言う事を忘れているのだろうか。

 あの時は酔っていたし……


 漆黒は胸元からお気に入りの鈴の簪を出して、裏柳に見せる。

 裏柳にやると言ったのだが、あの時受け取らなかったので、まだ漆黒が持っていた。 

 昨日も髪をまとめるのに付けていたはずなのだが……。


「うん、俺が一緒に探してやった簪な。可憐な錫に良く似合っていたけど、漆黒がつけても良く似合ってる」


「あ、俺が錫って事は覚えてるんだな」


「当たり前だ。何を言っているんだ? 昨日、歌ってくれただろ」


「ああ、裏柳が歌い返してくれたから見つける事が出来たんだ」


 話が噛み合ってないと思ったが、気の所為だったらしい。

 裏柳の中では初恋の美少女が高身長ムキムキ魔王に成長してしまったとかはどうでも良い話しらしい。

 本当に錫は錫、漆黒は漆黒として見てくれているのだろうか。

 漆黒はキョトンとしてしまう。

 裏柳があまりにも(だから何?)みたいな顔で見るので、自分の悩みが馬鹿らしく感じてきた。

 

「だって、裏柳は可憐な美少女に結婚を約束したんだぞ? それなのに迎えに来たのがこんな2倍ぐらい身長差がある化け物とか、抵抗ないのか? しかも男だし、嫁になるのは裏柳だぞ??」


「俺は可憐な美少女の錫は嫁に貰いたかったけど、美形でカッコいい頼りがいのある魔王様の嫁に成りたいんだ。悪いのか? これも浮気になるのか?」


 困惑する漆黒に眼鏡をかけた裏柳は腕組して睨む。

  

「いや……えっと……これ、俺も見つけたんだ」


 漆黒は裏柳の気迫におされつつ、おずおずと裏柳がくれたシロツメクサの指輪を栞にしたものを見せる。

 白の王国にいた時は、漆黒も魔法など使えなかった。

 そのために、裏柳と同じ方法で保管したのだ。


「それ……」


 裏柳は自分のものを確かめる。

 ちゃんと本に挟まっていた。

 ちゃんとある。


 ということは……。


「錫……」


 びっくりした顔をする裏柳に、漆黒は小さく頷いた。


「やっぱり漆黒は錫だな」


 ハハッと笑ってしまう裏柳。

 ときおり見せる表情が可愛らしい。

 あの頃の錫を思い出す。


「俺は漆黒だから、錫とは呼ばないで欲しい」


 ムッとちょつと拗ねた顔をする漆黒。


「だって、漆黒は錫だろ? その顔、ちよっと錫っぽいよ」


 漆黒に抱きつく裏柳は、そう漆黒の表情を指摘する。


「ほら、やっぱり裏柳は錫が好きなんじゃないか!」


 そう、漆黒は複雑な気持ちになる。


「錫も好きだし、漆黒も好きだ」


 拗ねてしまう漆黒に困ったなと笑う裏柳。

 過去の自分に嫉妬してしまうらしい。

 

「漆黒は過去の俺が好きで、今の俺は事きらいなのか?」


「裏柳はあの頃と変わらないだろ」


「俺から見れば漆黒も変わったのは見た目だけだ。考え方や性格まで変わらない。あの頃の繊細で優しい俺の錫と同じだよ」


「違う!!」


「全く、何が気に食わないんだ」


 やっと初夜を終え、お互いの気持ちを確かあったと言うのに……

 漆黒が錫に嫉妬してしまって話が進まない。

 裏柳も困ってしまう。


「漆黒は俺が好きか?」


「好きに決まっている」


 漆黒は拗ねた表情のまま、裏柳を抱きしめる。


「じゃあいいじゃないか。お互い好き合ってるんだろ?」


 両想いだ。

 何の問題も無いだろう。

 

「そうなのか?」


「そうだ!」


「本当に?」


「さっきからそう言っている。俺は嘘はつかん」


 なぜ、疑われるのか、裏柳にはわからない。

 心外である。

 好きだったなんて嘘をついてどうするんだ。

 そんな嘘は絶対につかない。


「俺も……裏柳が好きだ」


 漆黒はそう口にすると、涙目になり、裏柳を抱きしめる手に力がこもる。

 勢い余ってベッドに押し倒してしまった。


「うん。漆黒が好きだ」


 裏柳も抱きしめ返す。


「キスしてもいいか?」


 そう、目を見て聞いてくる漆黒。


「キスぐらいいくらでもしろ。交尾だってやるし、同衾だって好きなだけしろ!」


「本当に!?」


「疑い深い王様だな」


 裏柳は、ハハッと笑ってしまうのだった。

 仕方ないので、自分からキスしてやる。


 漆黒は頬を染めて嬉しそうな顔をするのだ。

 カッコいい男前だが、やはり、こういう顔には錫の面影がある。

 可愛いなぁ、と思う裏柳であった。

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