窓の外はとっくに暗くなっているけど、流風るかからの連絡はまだ無い。

 それをいいことに、残っている仕事を淡々と済ませた。あとはひたすら伝票入力。冷たく響くカーソルの音すら、空調の隙間に吸い込まれるんじゃないかと思うくらい、静かだった。

 流風と別れた後、何とか社用車に荷物を積み込む所で先輩に合流できたのだが、片付けなんかはほとんど任せてしまったし、せめてもの罪滅ぼしにと、から揚げを上納した。妙に喜んでくれた。

 冷めたカップコーヒーと冷えたスティックチキンを交互に口に運んでいると、一件の伝票に目が止まった。

 タケザキペット――ペット用品販売会社。

 なるほど、ここか。

 スマホを取り出して、ホームページを検索してみると、従業員数は十五人。オフィスコンビニは、大型プランで契約されている。そして、補充回数が異常に多い。少なくとも二日に一回は訪問している。誰か会社に住んでる? と思うほど。

 そんな契約状況を見た所で後をつけられる理由が思い浮かぶ訳もなく、大きく伸びをした瞬間、デンキウナギの尻尾に叩かれたくらいの電流が背中に走った。

 喉元過ぎればってやつだ。ぐったりとデスクに倒れ込む。これは安静にしとかないと、ぎっくり背中になった総務の先輩の二の舞いだ。

 湿布のにおいのする腕。あっちもこっちも自前の傷。知らなかったけど、ほんとにわたしはマゾなのかもしれない。

 そう言えば、流風には言わなかったことがある。

 【竹崎たけざきさん】の口元に見えた、痛々しそうな色の痣。

 彼女のも自前の傷なんだろうか……いや、あんな場所に自前で痣を作るのは至難の業だ。もしかして、あれを隠すためにマスクをしてたとか?

 その時、スマホが振動した。流風からだった。

「『着いた』、って……」

 出る前にいいなよ。今度は、わたしが待たせてしまうじゃないか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る