流風るかは、他の弟子同様、叔母の家に住み込みで働くことになった。

 叔母の家、といっても、代々さかえ家が住居兼寮として使ってきた二階建ての一軒家――まぁ、言ってみれば、わたしの実家。

「片付けたら問題なく使えるから」

 階段を上りながら、埃っぽさに少し咳き込む。その昔は、この二階がギュウギュウになって、一階の住居部分にお弟子さんを住まわすほど賑わっていたらしい。人が住まないと家は傷んでいく一方だから、却って良かったかもしれない。

「アンタもここに住んでんのか」

 流風がひとつくしゃみをして聞いてきた。

「わたしは社宅で一人暮らし」

「あ、そう」

 ――噂は本当だったか。

 誰に言うとでもなく確認するかのような独り言は、わたしの神経をビリビリと振動させた。

「面識ないのに噂なんて震えるね」

 流風は黙って立ち止まった。

 わたしも立ち止まり、痛みの責任を押し付けるようにそいつを睨みつけた。

 魔法関係者から何と言われているのかは、想像がつく。

 ――榮リリアの姪なのに――

 職場では叔母の名前なんて、誰も知らない。魔法自体に興味が持たれていない。もはや、この業界は過去の産物となりつつある。

 男のツリ目はわたしの視線を軽々と受け止め、ニヤリと口元を緩めた。

「雰囲気とだいぶ違うな」

「よく言われる」

「ピーピー泣くかと思ってた」

「泣かせたいなら、他の人あたって」

「そんな趣味、ぇよ。あ、さっきの模写の魔法はすごかったぜ? ブランクあるんだろ。何で使手してやってないんだ?」

 無人の板の間は、足の裏から体を冷やす。わたしは前を向いたまま、少しまつ毛を伏せた。

「わたしはわたしの意思でならなかった。それだけ」

「ま。魔法これは権利で、義務じゃないからな」

 輩がまともなことを言う。

「えーと、三ツ稀みつきサンって呼べばいい?」

「三ツ稀でいいよ」

「ふぅん」

 そう受け答えて、流風は幾つも並んだ部屋のうち、一つの扉を開けた。

 それから固まったまま、大型犬みたいに唸った。

「廃墟じゃん」

 その時、スマホの振動音がして、流風がポケットを探った。スクリーンをじっと見て、ちらりとわたしを窺い見る。

「ありがとう、後はやるわ」

 消えろってことね。

 背中で「はい、もしもし」という流風の声を聞いた後、スピーカーから女の人の声が聞こえた気がした。

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