SS

いいかげん

郷愁

「だからいいんじゃない?」


 実家から離れて暫く経つ。母親からの再三の連絡により盆を実家で過ごすことを承諾した私は、バイクで高速道路を走っていた。

「今年は従姉妹も来るんやから。あんた相手したってや。」

もう還暦も過ぎた母によれば、親戚の相手は楽しくもある反面やっぱり疲れるらしい。父の妹の娘であるところのその従姉妹は1人先に実家に来ているという。物静かな人見知りから外資系ばりばりのキャリアウーマンとかいう立派な転身を遂げた従姉妹に、大したことのないまま大きくなったこのお兄ちゃんがどう相手しろというのか。卑屈にだけならないようにせねばと、そんな心持ちで進む帰路は幾分か短すぎるように感じた。

 最寄駅からさらに20分ほどの車移動を必要とする我が実家は、都会の喧騒からは遠く離れた、山や川のすぐそばに建っている。特に遊ぶ所のないこの田舎で従姉妹がどう過ごすのかと案じていると、案の定やることも無く昼寝しているとのことだった。

 「いいんですかお兄さん」天気もいいしバイクで山の上の方まで連れて行ってあげたら、と言う母の言に帰ってきた従姉妹は前のめりで、かつて私が実家に住んでいた頃の静かで大人しい姿はどうやら本性ではなかったようである。

 実家からバイクでまっすぐ道を登れば、10分もすると道は山中に入っていき、そこからさらに5分ほど走れば、頂上の見晴らしが良いところに着く。

 「都会は物も人も多過ぎて息が詰まるからここは好き」

久しぶりに会う従姉妹は随分大人びて、その横顔はむしろ年上のようですらあった。

 「都会は便利やし友達も沢山いるから、なかなか実家に帰ろうってならんのよ。」

実家近くに住んでいた友人はいつの間にかみんな遠くに引っ越してしまっていて遊べる人もいない。帰ってきても用があるのは純粋に実家だけなのだ。

 「だからいいんじゃない?」

 「だから?」

 「何にもない。他に会う人も無く、実家だけ。だからいい」

 「・・・・・・」

 あまり考えたことのない視点だった。けれど、確かに自分の家にいるときは、モノや、コトが多過ぎて息つく暇もなかったように感じた。何もないのが、いい。

 「いつの間にか大人みたいなこと言うやん」

 「そりゃあ私もう大人だし?」

 そう言っていたずらっぽく笑う従姉妹の顔を、おそらく自分は忘れないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

SS いいかげん @Nanatubujika

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ