私の家族に手を出さないで!
黒い風が城の廃墟の中で激しく渦巻いていた。
石と砂塵が空へ舞い上がり、二つの影が向かい合って立っている。
カイルは新しいおもちゃを見つけた子供のように目を輝かせ、イヴィロンは憎悪に満ちた表情で彼を睨みつけていた。
カイルは敵を見つめ、口元に不敵な笑みを浮かべた。
彼の体から立ち昇る闇のオーラが、かすかに光を放っている。
「さあ! お前が持っている一番強くて最高の魔法を見せてみろ! 俺は本気で見てみたいんだ!」
その声には恐怖ではなく、純粋な興奮と好奇心が混ざっていた。
イヴィロンは歯を食いしばり、こめかみの血管が浮き出る。
「このガキが……俺をなめるな!」
彼は片手を高く掲げ、濃い紫色の魔法陣を展開した。
そこから、五本の巨大な黒い剣が空中に浮かび上がる。
周囲の空気が激しく震えた。
「城ごと消え失せろ!」
イヴィロンの叫びとともに、五本の剣が恐ろしい速度でカイルへと突き進む。
空気を切り裂く音が「ヒュッ!」と耳をつんざいた。
だがカイルは動かなかった。
彼はポケットに手を突っ込んだまま、まっすぐ迫る剣を見つめていた。
ドオオオオン!!!
大爆発が大地を揺らした。
黒い衝撃波が周囲を飲み込み、残っていた城の壁が完全に崩れ落ちる。
濃い煙と砂塵が一帯を覆った。
イヴィロンは満足げに高笑いした。
「ハハハハハ! どうだ、ガキ! 俺に勝てると思ったのか!? 俺の闇の魔法から逃れられる者などいない!」
一瞬、静寂が訪れる。
崩れた瓦礫の音だけが響く中――。
煙の奥から、呑気で感心したような声が聞こえた。
「うわぁ……この魔法すごいな! 色も形も、エフェクトまで完璧じゃん!」
煙がゆっくりと晴れていくと、カイルが無傷のまま立っていた。
彼はまるで研究者のような顔で、好奇心いっぱいにイヴィロンを見つめている。
「イヴィロン、その魔法、教えてくれない? 真面目に言ってるんだ! あの黒い剣、どうやって出したのか知りたいんだ!」
彼の瞳がきらきらと輝いた。
イヴィロンは信じられないというように目を見開く。
「……な、何だと……?」
怒りと困惑が入り混じった声を漏らした。
カイルは無邪気に笑ったが、その体を包む闇の気配はさらに濃くなっていった。
まるで戦いそのものを楽しむ怪物のように――。
その頃、近くで倒れていたカンジーが薄く目を開けた。
体は弱っていたが、口元にかすかな笑みを浮かべる。
「……まったく……魔法狂いの弟め……」
その声はかすれていたが、どこか誇らしげでもあった。
「ちっ、変なガキだな!」
イヴィロンが舌打ちし、怒気を帯びた声を上げる。
だが突然、彼の両目が真っ赤に輝いた――魔王の瞳。
鋭い視線で遠くを見据え、城の魔力の壁の向こうまで見通す。
口元に邪悪な笑みが浮かんだ。
「へぇ……思ったより面白くなりそうだな……」
そして再びカイルを見つめ、嘲るように言った。
「おいガキ! 王を助けに行かなくていいのか? ハハハ! お前の父親、俺の魔法で瀕死らしいじゃないか!」
カイルは無表情のまま、落ち着いた声で答える。
「バカか? 俺の父さんが簡単に死ぬわけないだろ。それに……母さんが治してる。」
指を軽く上げた。
「母さんは最高の回復魔法を使えるんだ。」
「なっ……!?」
イヴィロンの目が見開かれ、怒りが爆発した。
「クソッ! なら先に母親を殺してやる!」
瞬間、イヴィロンの姿がかき消え、黒い影のように王の間へ向かって飛んでいった。
「イヴィロン! 俺の母さんに触るな!」
カイルが叫ぶ。
玉座の間では、エレノラが倒れた王アルデンのそばで治癒魔法を使っていた。
彼女の瞳が大きく見開かれる。
漆黒のオーラが、信じられない速さで迫ってくるのが見えた。
だが、その瞬間――
ザァァァッ!!
空間を裂くようにして、カイルが目の前に現れた。
風の魔法で空間を飛び越えたのだ。
彼はまっすぐイヴィロンを見据える。
「俺の家族に触るな。」
彼の手のひらに、濃密な闇の球体が生まれる。
「ブゥゥゥン……」と音を立てながら、周囲の空気を吸い込み始めた。
「ブラック・ノヴァ。」
轟音とともに爆発が起きた。
黒いエネルギーが四方に広がり、イヴィロンを吹き飛ばして数本の柱を貫いた。
「クソガキィィィ!!!」
イヴィロンの怒号が城全体に響く。
彼は激しく震え、巨大な黒いポータルを空中に開いた。
その中で闇の渦が狂ったように回転している。
「ならば……お前の学び舎を壊してやる! 仲間が死ぬ瞬間を、その目で見せてやる!」
狂気じみた笑い声とともに、イヴィロンはアウレリア学園へ通じるポータルの中へ消えていった。
それを見て、カイルはすぐにテレパシーを発動した。
「ネロ。」
重く、少し面倒くさそうな声が頭に響く。
『何だよ、ガキ?』
「アウレリア学園の全生徒を守れ。イヴィロンに一人も触れさせるな。すぐ行く。」
『了解。』
ネロの声が一瞬で真剣なものに変わった。
カイルはカンジーの方を振り返る。
兄はまだ父と母の傍らに立っていた。
「兄さん、父さんと母さん、それにリシアを頼む。」
カンジーは心配そうに弟を見つめた。
「わかった……だが勝てよ、カイル。絶対に死ぬな。」
カイルは微笑んだ。
「心配いらないさ、兄さん。俺はお前が思ってるより強い。あんなやつに負けるわけない。」
風が彼の体の周りで渦を巻く。
マントが大きくなびき――。
次の瞬間、カイルの体は青白い風を残して空へと飛び立った。
その光は雲を突き抜け、アウレリア学園の方向へと伸びていった。
カンジーはその光を見上げ、静かに笑った。
「……行け、カイル。見せてやれ……ニジマ家の真の力を。」
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