助けを求める

オーレリア王宮の中――


玉座の間には暗黒のオーラが満ちていた。空気は微かに震え、床の大理石には強烈な魔力の圧がかかり、ひび割れがゆっくりと広がっていく。

謎の人物がアルデン王の前に立ち、薄笑いを浮かべている。


彼はゆっくりと手を掲げ、小さな声で囁いたが、その響きは部屋中に轟いた。

「降伏せよ…」


瞬時に、アルデン王の体がひどく揺れた。膝ががくりと崩れ、口からは鮮血が滲む。

「うっ…あ、あれ…俺に…何が…?」

彼は苦悶に顔を歪ませ、目を見開いて声をあげた。


エレノーラ姫は悲鳴をあげながら駆け寄る。

「アルデン!!」


しかし王は必死に手を伸ばして彼女を制す。

「だ、だめだ…エレノーラ…離れてくれ…」

その声は弱く震えており、唇からも血が滴っていた。


謎の存在は低く笑った。その笑みは冷たく、高慢だった。

「ははは…おそらく、この国の王の命運は…長くは持たぬようだな。」


彼の目は赤く燃え、ひょうひょうと言い放つ。

「我が名はエヴィロン。目的はただ一つ、生類すべてをこの世界から抹消することだ。」


その周囲を黒きオーラが燃え盛り、宮殿の壁はひび割れ、空気は濃く沈み、息がしづらくなる。


エレノーラは怯えながらもリシアを抱きしめ、震える声で抗う。

「いや…近づかないで!お願い…やめて!!」


だがエヴィロンは無言のまま、瞬間的に姿を消し、アルデン王に襲いかかろうとした。

そのとき、破れた窓から青き雷撃が閃いた。


「天雷!」

エリオンの叫びとともに、傷を帯びた彼の姿が現れた。

雷撃は強烈にエヴィロンを打ち砕き、部屋の一角を破壊した。


だが、エヴィロンはわずかに微笑むと、直前で姿を消し、今度はエリオンの前に立っていた。

冷ややかな視線で彼を見下ろす。

「また俺に逆らうか、ガキが?」

その声にはただ事ではない魔力の圧が宿っていた。


エリオンは魔法を用意しようと構えたが、エヴィロンは手を掲げるだけだった。

「お前はまだ、俺の前には立つ資格がない。」


空中に紫のシンボルが浮かび、異様な魔法陣が形を成す。

「この場を離れよ…」


返す間もなく―― BOOM!

強烈な衝撃がエリオンを押し飛ばし、彼は窓を突き破って外に放り出された。


BRANGG!!

粉塵と石片が舞い、エリオンは都の中、戦火に包まれた街中に倒れ込む。

傷だらけで、息を切らしながら起き上がる。

「くそ…この力……一体…」

彼は血まみれの顔で天を仰ぎ、拳を握りしめた。

「…カンジー兄さんを呼ばねば…」


周囲では王国の兵たちが住民を避難させていた。

「全住民は救出されました、王子さま! ただ、その…お体の負傷が…」


エリオンは痛みをこらえ、片手を掲げて光る魔法の鳥を呼び出す。

銀色に輝き、青い魔法の光に包まれたその鳥は、彼の命令を理解するように静かに見つめた。


「頼む…」

彼は低く囁く。

「このメッセージをカンジー兄さんに伝えてくれ。すぐに帰還せよと。王国は今、強大な敵に襲われている――」


鳥は鋭い眼差しで頷き、空高く飛び去る。

闇雲に、アカデミー・アウレリアへ…カンジーとカイルのもとへ。


エリオンは弱々しく笑い、目を細めて言う。

「どうか…早く来てくれ…」

その言葉と共に、彼は意識を失い倒れる。


魔法の鳥は翼を羽ばたかせ、青い光の軌跡を残して空へと舞い上がった。





アカデミー・アウレリア――


正午の空は晴れ渡り、小鳥が学園の庭を飛び回る。庭には紫と白の花が咲き乱れ、穏やかな風が葉をそよがせる。


大きな樹の下、カイルは石のベンチに座って昼食を穏やかに食んでいた。魔法の授業を一日終え、彼の顔には安らぎが浮かぶ。

「ふう…やっと休みだな」

彼は空を仰ぎながら呟く。


背後から明るい声が響いた。

「やあ、カイル!」


振り返ると、白銀の髪を持つカンジーが笑顔で近づいてきていた。

「お兄さんじゃんか」

カイルは声をかけ、微笑む。


カンジーは腰掛けながら笑った。

「お前、アカデミーで楽しんでるようだな。どうだ、アウレリアに慣れたか?」


カイルは少し食べ物を見つめ、ゆっくりと頷いた。

「うん、まあまあかな。今日は面白いことも多かった。でも…まだ満足できてない。もっと学びたい。」


カンジーはため息をつき、軽く笑った。

「ははは、魔法マニアめ。それでさ…その力を悪用したりしないだろうな?」

彼はカイルをからかうように微笑む。


カイルは眉をひそめた。

「え? なんでそう思うの?」

その声は冷めているが、目には鋭さがあった。


カンジーは意味深に見つめながら、しばらく考え込む。

その後、カイルは小さく笑い、肩をすくめた。

「はは…心配するな。俺がどれだけ強くても、悪用なんてしないよ。」


カンジーは安心して笑った。

「そうであってほしい。お前、本気になったらこの学園全部が吹き飛ぶかもしれんからな。」


カイルは軽く笑って応じた。

「おおげさだな、お兄ちゃん。」


風がそよぎ、落ち葉が舞う。静かな時間が流れていた。


だがその平穏は長く続かなかった。


空から一羽の銀の鳥がひゅっと降りて来て、カンジーの前に止まった。

その羽根は青い光を帯び、魔法的な紋章が体を包んでいる。


カンジーは思わず立ち上がる。

「それは…エリオンの鳥だ。」


カイルが驚いて尋ねた。

「え? お兄ちゃん?」


鳥はカンジーをじっと見つめ、彼に直接テレパシーで言葉を送る。

カンジーの瞳が一気に大きくなり、顔色が変わる。

呼吸が止まり、体が強ばる。彼は遠く山の向こうにある王宮を見つめた。


「何かあった…? 兄さん…」

カイルが問いかけるが、カンジーは答えない。

その代わり、背中に淡い青い翼が現れた。それは王家の象徴たる魔法の力の印だった。


「すまない、カイル。俺は行かねばならない」

そう言うと、カンジーは空へと跳躍し、青い軌道を描きながら飛び去った。


「兄さん!!」

カイルは立ち上がり、空高く去って行く姿を見つめた。


風が強まり、黒髪が靡く。

彼の顔は緊張でこわばり、拳をぎゅっと握る。


「いったい…何が起きてるんだ? どうして兄さんはあんなに急いで…?」

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