第02話 06
これが“彼女”との、初めての邂逅の記録である。この世に生を
おれにしか見えない“少女”。
こんなこと、信じてもらえるはずがない。きっと友人に話したとしても、冗談と受け止められるか、憐れむような視線で応えられるかの、いずれかであろう。センゴクに至っては、卒倒してしまうかもしれない。ボクの傍にいてあれほどの超常現象を暴いてきたキミがそんなことを言うのかと。だがそれらをこの世界の
と、おれは思うのだが、果たしてセンゴクは違う。そっとしておいてほしい人にはただただ迷惑でしかない、そんな無用の情熱と使命感に衝き動かされているのだ。その根底に潜むものが何なのか、いちど自己分析をしてもらいたいものである。(知り合いが霊感商法にでも引っかかったのだろうか。)
なのでおれは、多くの外れてしまった者たちと同様、秘匿することを選んでいた。糾弾や迫害をわざわざ身に招くこともあるまい。“彼女”には悪いが、積極的に同胞を探そうなどとは考えていないのだ。……それに、そうそれに、“こいつ”はおれだけで良いって言ってるんだ、だったら敢えて危険を冒してまで視える人を探す必要はないんじゃないか。
「なーんだ、やっぱり独り占めしたいしたいんじゃない」
呆れた声音で、だがその裡に嬉しさを滲ませて、“彼女”が放言する。勝ち誇った笑みを浮かべる。おれは慌てて反論する。そんなんじゃないと。
「そんなんじゃないって、じゃあどんなん?」
「それは、その……、ほら……」
「ほら?」
「べっ、別に良いでしょ? そっちだって、言ってたじゃん。三十数年の間、誰にも見つけてもらえなかったって。だからきっと、もう他にはいないんだよ」
「わたしを見れる人がー?」
「うん」
「キミ以外にー?」
「うん」
おれは恥ずかしさのあまり、“彼女”の心情に一切配慮を示さない、冷酷な意見を述べてしまう。おれの言葉を聴いて、そっか、ぽつりと呟く“彼女”を認めて、ようやく己の迂闊さに気づく。瞳を伏せる様を映して、ようやく失言に至る。おれは一体、何を言っているんだ? よく知りもしないで、希望を
「ご、ごめん、そういう意味じゃなかったんだ」
慌てて今度は弁解を試みる。つい
しかし“彼女”は答えない。無言で
「…………、――じゃあ、」
「!」
その“彼女”が、唐突におもてを挙げた。にっこりと微笑んで、こちらを見つめてきた。表情にも、声音にも、消極的な感情は見いだせない。本心から気にしていないのか、それとも巧妙に
おれに手を
じゃあわたし、キミに嫌われないようにしなくちゃね、と。
挑発的に微笑んで、“彼女”は後ろに手をついた。両腕をつき、上体を反らす。弓なりになった肢体がおれの目を射る。深緑のワンピースが、“彼女”の凹凸を強調する。まったく理想的な、それは躰だ。両胸で盛り上がる双つの膨らみは、重力に屈することなく天頂を仰いでいる。しかし決して青いつぼみなどではない。とろけるほどに柔らかいことは、先刻承知済みである。さらに視線を移動させる。“彼女”が背を反らしたことによって、ただでさえ危ういほどに露出している太ももが、今や付け根ぎりぎりまでさらされている。すらりと伸びた二本の脚に、否応なく瞳が奪われる。血管が透けるくらいに白い肌は、しかし健康的な印象を与えている。程よくついた脂肪のお
昼間のことを想い出す。あの一件、“彼女”との、疑似性交のことを。途端、血液が逆流を開始した。
その一部始終を、“彼女”に見られていた。
視線を感じて目を戻すと、果たして“彼女”と目が合った。“彼女”はまるで、獲物を
“彼女”は
横になった“彼女”の
主導権は、完全に“彼女”のものだった。――“彼女”が、おれの『所有物』であるにもかかわらず。そうだ、力関係でいえば、おれが絶対上位のはずである。それが純然たる事実だろう。おれは己の意思一つで、“彼女”をどうとでもすることができた。本来ならば先ほどのように“彼女”は媚びを売り、おれの機嫌を損ねぬよう心魂を傾けねばならないはずである。所有される者のとるべき当然の態度であろう。しかし実際は違っていた。無防備で無抵抗に見える“彼女”。おれがほんの少しでもちからを用いれば、すぐさま制圧されてしまうであろう華奢な肢体を、恐れることなくさらしている。だが“彼女”は確信しているのだ。おれはそんなことしないと。絶対の自信をいだいているのだ、己の肉体の価値について。
真実その通りであった。おれに“彼女”を害する気持ちは毛頭ない。“彼女”があらゆる意味で傷を負わぬよう、むしろおれが心を砕いていた。……おかしいだろうか、“彼女”を愛おしく想うことは。おれは狂っているのだろうか。美しく、そして、
――人間ではないこの“少女”に、惹かれていることは――……。
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