32皿目 無邪気。
無邪気というものは時として残酷な事が多い。
「ねぇ、聞いてよ。子供達がさ、あたしたちが離婚したらどっちにつくかって話をしてたのよ」
子供達が登校したあとに訪れるささやかな夫婦の時間はこんな話題で始った。
「へぇ。そんな知識をどこから得てくるんだろうね」
「テレビや学校のようね」
そんな心配をしているのだろうか。このところ夫婦喧嘩はまったくない。夫婦仲はいたって順調。ラブラブだ。むしろ、心配なのは、激しさを増す兄妹喧嘩の方だ。
「で?なんて言ってたの?」
聞かずとも、その答えはわかっていたのだが、確かめずにはいられなかった。
「花子はあたし。太郎はお父さんについて行くって」
「え?太郎が?おれに?」
「そうよ」
意外だった。
「花子はね、お父さんについて行くって選択肢すらないって感じだったけど・・・」
悲しかった。
太郎にはマザコンの気がある。妻もそれに気づいており、少々心配している。そんな太郎が、父についていくと言った。なぜだ。その疑問を妻にぶつけてみた。すると妻はこう言った。
「太郎がそう言った後にね、あたしの事を見ながら言ったのよ」
「なんて?」
「あれ?母さん、あんまり悲しそうにしないね。って」
「ふ〜ん」
それは、つまり、母の方が好きだと言っているようなものだ。
太郎は勝負に出たのだ。母が悲しむ様子を見せるかどうか。そして、負けた。妻はそんな話を相手にもしなかったのだ。太郎はさぞやがっかりしたことだろう。花子に至っては、父を父とも思わないその所行。いつか、ぎゃふんと言わせてやるからな。たしか、どこかにあったはずだ。花子が4歳のころにビデオ録画したあれが。無邪気に笑いながらこう言っていたのを。
「花ちゃんねぇ〜、大きくなったら、パパと結婚するぅ」
二人が立派に成長した時に、みんなで鑑賞するんだ。運動会。発表会。そして、花子の告白映像。きっと恥ずかしがるだろうな。その時が楽しみだ。
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