29皿目 宣言。
小学3年生ともなれば、いろいろ悩みも増えるだろう。人一倍背の低い太郎。おまけに童顔。クセのある妹に、怒りんぼうの母。とどめは理屈っぽい父。太郎をとりまく精神的な環境は決して平和とは言えない。
最近、妻から聞かされた。このところ太郎が愚痴っぽいことを言うらしい。「やってらんね〜」そう言って、花子のわがままぶりにサジを投げる。なにかというと「お兄ちゃんなんだから」という枕詞がついて来る。「しっかりしなさい」「我慢しなさい」。
太郎の精神力を維持しているのは、その忘れっぽい性格だ。しかし、それもいつまで保つのかわからない。いや、もう崩れ始めているのかもしれない。
「おれ、ずっと寝ていたいな」無気力な発言が聞かれるようになった。「将来、何すれば楽できるだろう・・・」
親の視点では、楽しく過ごしているように見える今でさえ辛いのだろうか?
妻が言う。「芸能人にでもなれば?」
「それもいいかなぁ。でも、あのイケメン事務所には入りたくないな」
母の提案に耳を傾けながらも、『アイドル』にはなりたくないらしい。太郎なりに、アイドルが大変な仕事だと気づいているようだ。
私が小学生のころ、男の子の抱く夢はプロ野球選手か、パイロットか、漫才師と相場が決まっていた。夢と目標と現実の区別がはっきりしてくるのは、中学生くらいだったと思う。
「ホームレスってさぁ、いいよねぇ」
「ホームレスの人たちだって仕事をしているのよ」妻が太郎をたしなめる。
「そうなんだぁ」
「そうよ。あんたにホームレスなんてできるわけないよ。大変なんだから」
なんとも夢のない将来像を語り始めた太郎。3年生にして、自分の限界を感じているのだろうか。
「おれさ、仕事したくないんだよね」
でた! 太郎、早くもニート宣言!仕事をしたこともないくせに!
家族から非難の目が向けられた。その視線に耐えきれなくなったのか、太郎は開きなおった。
「わかったよ。おれ、医者になる」
ニート宣言から15秒。太郎、ドクターを目指す!
「すっごい勉強しないと医者にはなれないのよ!」
「だいじょうぶ!だいじょうぶ!おれ病院やるからさ!」
医者を宣言してから15秒。太郎、今度は開業医を志す!
「あんた、本気で言ってるの?みんなが遊んでる時も勉強するのよ!?」
「だいじょうぶ!だいじょうぶ!おれ、でっかい病院作るからさ!」
開業医を志してから15秒。太郎、ついに病院経営に乗り出す!
家族の前で大見栄をきった。夢は大きい方がいい。
「あんたの病院には、母さん絶対行かないよ」
妻の宣言には現実が折り込まれていた。
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