頭文字さん、かんべんしてよ。(……追記)

 ……遠くで、小鳥がちゅんちゅん鳴く声が聞こえる……

 俺が、頬に暖かい日差しが当たるのを感じた。

 

 ……目を覚ますと、フロント・ウィンドウ越しに、広葉樹が一本、生えているのが見えた。


「ふぁぁ~」


 あくびをしながら、助手席から体を起こす。

 ……いったい、どれくらい眠って……いや、気絶していたのだろうか……


 車のドアを開けて、外に出る。


 穏やかな風にほおでられながら、辺りを見回す。


 俺は、小高い丘の上、一本だけ生えた木の木陰こかげに立っていた。

 足元は、見渡すかぎりの大草原だった。


「おお、やっと起きたか」


 後ろから声をけられた。


 振り返ると、じいさん……神さまが立っていた。

 左手に持ったボードに、ボールペンで何やら書いている。 


「神さま……こ……ここは、どこですか?」


「んん? ああ、ここが『わきが峠』じゃ……」


「わきが峠って……ここが? 見渡す限りの草原ですよ? いわゆる、ひとつの走り屋ご用達ようたしワインディング・ロードは、どうしたんですか? 紅白デビルは?」


「だから、連中が走っていたのとは別の惑星の『わきが峠』じゃ。 ワシらは、別の惑星……異惑星に転送ワープしたのじゃ」


「それで、勝負はどうなったんですか? 走り屋どうしの戦いは……」


「まあ、ワシらの勝ちじゃな。だって、ワシらの方が先にこの『わきが峠』に着いたもん」


「……でも、ここ異惑星なんでしょ?」


「異惑星じゃろうが、何じゃろうが、ここは『わきが峠』といったら『わきが峠』なんじゃ! とにかく、わしらの勝ちじゃ」


「何なんだよ、そのルール……」


「細かいことは、気にするな。……これで『異惑星に転送ワープしたら……』の部分はオッケーじゃな。あのウシトラ姉妹、二人とも、このドーテーのアホガキに惚れとったようじゃから『エイリアン娘にモテモテな件w』の部分も、良し、と……」


 じいさん、なにやらブツブツ言いながら、ボードにカリカリ書き込んでいる。


「……何すか……それ……」


 俺は、爺さんの肩越しに、そのボードをのぞきこんだ。


「これか? これはチェックリストじゃ。 いわゆる、ひとつの『TODO』ってやつじゃな」


「チェックリストって、何の?」


「内容も決めないまま、な~んも考えずに『売れ筋のタイトル付けりゃPVホイホイじゃろ』っと、適当に題名をつけてしまったからのぅ。ここまで、タイトルと内容が一致しない状態が続いてしまった……」


「はぁ……?」


「まあ、言ってみればズルチートしちゃったのよ。それで、このままだと管理者側ににらまれて、最悪『垢バン』じゃ。そんな事になっても詰まらんから、こうして後付あとづけで内容とタイトルを一致させようと言うわけじゃ」


「……管理者? 垢バン? 俺には、何のことだかサッパリ分からないんですけど……」


「分からんでええ。こりゃ、いわゆる一つの『第四の壁を越える』ってやつだからな……くわしく知りたければ『ファンタジーものの表現について 青葉台旭』でグーグル検索するように」


「うわ、ひでぇ……何ですか、その露骨なPV誘導は。それこそ垢バン注意ですよ……」


「お前、ほんとは全部分かっとるじゃろ?」


「え? 何のことですか? ボク、分かんない……」


「……まあ良いわい……異惑星に転送ワープ、うっかりチート超能力発現、エイリアン娘にモテモテ。この上位ランキングにおけるテッパン三要素のうち、ワープとモテモテは、クリアしたからの。あとはチート超能力だけか……おい、ドーテー」


「はい……って、ドーテーって俺のことっスか? いつから『ドーテー』っておれのオフィシャル・ネームになったんすか?」


「そこに、こだわるな。とにかく、今から貴様にチート能力をさずけてやろう」


「ま、まじっスか? いいんですか? ホントに?」


 いきなり俺のテンションMAX。


「……で、どの種類のチート能力が良い?」


「ど、どの種類って……チートにも色々な種類があるんですか? ……あ、ああ、なるほど……つまり、どのステータスを無限大にして欲しいか、ってことですね? そうだな~やっぱりここは男らしくストレングスかなぁ……いやいや、いかに強くても一発で削られたら終わりだからなぁ……ここは、やっぱりHPヒット・ポイント無限大か……いやいや、待てよ……体力削られる前に先制攻撃しかければ良い訳だから、そうすると敏捷性アジリティかな? いやいや、やっぱりMPマジック・ポイント無限大っしょ。無限に治癒ヒールしてけば良い訳だから……」


「おまえ、何言ってんだ?」


「だから……チートの種類……」


「アホか。チートの種類って言ったら、あれしかないだろ? パルメザン・チートに、モッツァレラ・チートに、チェダー・チートに、ゴーダ・チート……」


「ぱ……ぱるめざん、ちーと……?」


「便利じゃぞー。パルメザン・チート」


「何すか、それ」


「ミートソース・スパゲッティの上でな……」


「……はあ……」


「思いっきり、頭をく」


「……」


「そうすると、髪の毛の中から、ボロボロと粉状のものが落ちてきて、ミートソースの上に降りかかる。すると、あ~ら不思議、スパゲッティ・ミートソースのコクと旨みが一段と濃厚に……」


「そ、それのどこが、チートなんですか」


「チートじゃないか。振りかけるだけでミートソースにコクと旨みが加わるんじゃからのう。あ、ただし、熟成に六ヵ月かかるから、最低半年間はシャンプー禁止な」


「いりません! 絶対に要りません! そんなチート」


「そうかぁ? けっこう便利じゃと思うぞ……じゃあ……おっ! そうじゃ!」


 じいさん、ここでポンッ、と、手を打つ。

 なんか、ひらめいたな。コイツ……


「カマンチョベール・チートにしよう! そうだ! それが良い! ドーテーのお前にピッタシじゃ!」


「か……か、まんちょ、べーる……」


「このチート能力をさずかるとだなぁ……何と……驚くなよ……」


「……」


わきの下から、女のの匂いが出るようになる……」


「……はあ?」


「しかも、飛びっきり濃厚なやつ……普通の女の三倍くらい強烈な匂いが……」


「あ、あの~それの、どこが、チートなんですか? 返答しだいでは、殺意おぼえますよ」


「ドーテーのお前がじゃなぁ……一人エッチをするときにな……めるんじゃよ。 自分のわきの下を」


「……」


「そうすると、女のまんまんをクンクンしている気分が味わえて、もう最高じゃ」


「……」


「ほど良く、モジャ毛も生えておるし……」


「……」


「おまけに、クンクンしているのは自分のわきの下だから、められてる女の気分も味わえて、一石二鳥!」


「い、嫌だ……俺、絶対に嫌ですからね……」


「何じゃ、三倍じゃ物足りんのか? 欲張りじゃのう……仕方が無い。今回だけ、特別サービスとして、五倍強烈な匂いを授けてやろう……」


「やめろーっ! やめてくれぇーえええええぇえぇえぇ……」


 俺は、手術台に縛り付けられた本郷タケちゃんライダーのような悲鳴を上げたが、もう遅かった。


 ……こうして、俺は、神さまの魔法によって『怪人、まんまんワキガ男』にされてしまった……

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