最終話:ニーア―Blue―
「マリー、こっちきなよ!」
「ち、ちょっと待ってぇ~」
アルネイシアに到着した一行は次なる目的地を探す間にアルネイシアの観光を楽しむ事となった。あれから復興が進んだのだろう。以前の様な活気を取り戻しており、ホウセンカの一部を除いたクルーはアルネイシアに赴いていた。
ニーアは、スミスとの約束を果たすためにマリーとスミスと一緒にアルネイシアで買い物をしていたが、途中からスミスがマリーを率先して引きずり始めたので、ニーアはスミスが女の子なんだなと再確認する。
そんな様子を付き添いでやって来たヒューマとカエデが呆れて見守っていた。
「はぁ……カエデ、ニーアと替わってきてあげてくれ」
「はーい」
間延びした返事をしながらカエデは両手を上げて駆けていく。女の子には女の子で合わせた方がいいのだ。結婚してからやっと解ったそんな事を実践して、ニーアを解放させてやる。
ニーアは項垂れながらヒューマの元へ戻ってきた。
「スミスって……本当に女の子だったんですね」
「お前なぁ……まぁ、お前の中の女の子の基準がマリーなのは解るが、だからってスミスをずっと男と思っていたのはいただけないな」
「だって男口調ですし……」
「仕草とか案外女の子していると思うが……」
劣悪な環境で育ったニーアに判断せる事自体、間違いなのはヒューマだって解っているがまさかここに至るまで彼女を女の子と思っていなかったとは。流石のヒューマも想定外であった。
ニーアの女の子を見る目に軽い失望を覚えながら、ヒューマはふと真面目な表情に切り替えた。それを見て、ニーアの気が引き締まる。
「ホウセンカは今後、キノナリの安静を待たずに次なる戦場へ赴く。俺達はツバキが集めた傭兵団だ。戦いが終われば次なる戦いへ赴く」
「子供達は?」
「テルリに懐きすぎたようでな。アルネイシアで降ろすつもりだったが、しばらくはホウセンカが保護する事になった」
その判断はヒューマからすればあまり正しい選択とは言えなかったが、長年の相棒がどうしてもと言うのだから受け入れるしかなかった。それに、護る対象が増えるのはその分の責任感も増して、ヒューマの中の緊張感が増える。ヒューマの中の戦う理由に重みが増すわけだ。
だがそれはあくまで子供達の話であった。ここから先は、ニーアという少年のこれからの話だ。
「ニーア、お前はどうする?」
「…………」
「正直、俺はお前を信頼している。だが、お前の選択にケチをつけるつもりはない。選択者はお前だ。お前が選ぶ道を言ってくれ」
ヒューマの想いからすれば、これからも一緒に戦っていきたいと思っている。出会いこそ偶然であり、最初こそは彼を戦いに巻き込みたくはなかった。だが、共に戦う内にニーアという存在はヒューマにとって頼れる仲間になっていた。
だからこそ、ヒューマはニーアの選択を聞きたかった。
ニーアはほんの少しだけ考えて――――そして、やはりレインに告げたあの時と同じ言葉をヒューマに告げる。
「僕は、この街に残ります。マリーと一緒に決めたんです」
「そうか……」
ニーアの言葉にヒューマは目を伏せる。ニーアがそう選択をする事は薄々と感じてはいた。
ヒューマがニーアが抜ける惜しさに歯を噛む中、ニーアは買い物を楽しむ女子組を見つめながら語る。
「戦う事は間違いじゃありません。でも、僕はそれだけが全てじゃないと思っています。この平和な街で生きてみたいんです」
それは、あの戦争の中で生き抜いた少年が求めた言葉であった。平和。それを教えてくれたこの街で彼は生きていきたい。戦いから逃げるのではなく、その平和を享受してみたいと願ったのだ。
ニーアのその言葉に諦めが付いたのか、ヒューマは伏せていた目を見開き、ニーアと同じ視線の先を見つめながら彼の道を祝福する。
「ニーア。この世界は広い。だがこの世界は繋がっている。永遠の別れではない。だからこそ、俺はお前のその選択を正しいと思うし、さようならとは言うつもりはない」
「ヒューマさん……」
「俺達の家をお前に貸そう。貸すだけだ」
それはヒューマなりの繋がりの残し方であった。それほどニーアとの別れはしたくはないのだ。彼を助けてきたつもりであったが、いつの間にか教えられていた事がある。
ヒューマのそんな名残惜しそうに思ってくれる事にニーアは心の中で感謝した。だからこそ、彼に最後に大切な者を手渡す。メモリーデータだ。
「これは?」
「ある真実が入ったデータだ。お前の過去を知る事が出来るかもしれない物だ」
アカルト元議員の情報が入ったデータを手渡す。元々は渡す予定もなかった物であったが、彼の決意を聞いて渡さざる負えなくなった。
何時の間にか自分よりも強い決心を抱いていたニーアに、彼にとっての真実を託す。
「興味があれば見ればいい。それはお前が決める事だ」
ヒューマの一言にニーアは小さく、はいと呟く。彼にとってそれは今の自分を揺るがすかもしれない玉手箱だ。だからこそ、ヒューマの選択肢はとてもありがたく感じた。
アルネイシアの日中は刻一刻と進んでいく。それは別れへのカウントダウンであった。
◇◇◇◇
別れはいずれ来る。ただ世界の中で生きているのであれば、それは永遠の別れではないだろう。このご時世、通信などの手段もあるのだ。物理的な別れこそすれど、精神的な別れは早々ないだろう。
だが、彼を知ってもっと近くにいたいと思っていた人物もいる。
「はぁ……」
ホウセンカの甲板で一人黄昏るのはスミスであった。ホウセンカはアルネイシアを離れていく。このホウセンカに自分が好意を抱いた人物は乗っていない。彼はアルネイシアに残る選択をした。スミスも残ろうかと考えたが、彼女の中にある夢はその選択を許さなかった。
「……キス、結局できなかったな……」
帰ってきたらキスをするという約束も、結局はスミスの勇気がなくて果たされていない。口惜しい。これまでずっと話をしていた恋する相手が突然としていなくなったのだから。
それに、マリーという強大なる
「……もっと女の子らしく、なるべきなんだろうなぁ……」
恋を知って、自分を見つめ直した少女は自分のこれからを見つけたいと願う。世界は繋がっているのだから、彼らともいずれ再会できるのだから、せめてその時までに誇れる自分になろうと決意をするスミスであった。
◇◇◇◇
「世界は変化している」
ツバキの個室でツバキにそう語ったヒューマはいつもと違って遠い目をしていた。ワインを飲み交わしていた事もあるが、どうにも酔いで己を見つめ直していたらしい。
「人は変わらない。でも、俺達は変える事は出来た」
かの少年の運命を。それは小さくて世界から見れば砂みたいにちっぽけだろう。でも、ヒューマからすれば彼という存在は、前に進むと言う希望的思考を教えてくれたのだ。
「俺達が前に進むしかない」
「そうね……現在だけではなく、未来のためにも」
世界がどうなるかは解らない。でも、現在を創り続けている者達は現在を生きるしかない。そしてそれがいずれ未来へ続くと信じて――――
ホウセンカは海を行く。ある少年との別れを越えて、いずれ来る再会を信じて――――
◇◇◇◇
「蒼海は今日も綺麗だ」
早朝。ヒューマから譲れた家の外に出て街を眺めていた彼は、ふと横から見える蒼海を見つめてそう呟いた。あの日から何も変わっていない。海はいつまでも空を写し、人を映し続ける。
彼は今を生きている。生きる事で未来へ希望が繋がる事を信じて。
「ニーア。ご飯だよ!」
「あぁ、マリー。今から行くよ」
今日も仕事を始める。新たに始めた仕事は順調に事が進んでおり、今ではアルネイシアの代表的な郵送業を担うようになっていた。
これは、彼が選んだ再会への選択であった。この仕事をしているといずれ彼らとも再会できると信じて。
「行こう」
ニーア・ネルソンは愛機に――――自分にそう告げて今日が始まる。蒼海を駆け抜けるために。蒼海を生きるために。真実を受け入れるために――――
――――蒼海は今日もニーアを祝福する――――
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