第62話:停止―Wallow―

 レインがアサルトライフルを構えて接近してくる。ニーアもまた右腕のガトリングガンを構えながらもレインに向かって接近する。バイザーに映ったターゲットカーソルがレインを捉え、ニーアはガトリングガンの残弾を確認し射撃を開始する。

 数回転をした後にガトリングガンの銃砲から銃弾が零れ出す。しかし、レインはその数回転の間にも射線から回転するように移動する。放たれた銃弾は空を撃ち、その標的であったレインは移動しながらもアサルトライフルの銃口をニーアの頭に向け引き鉄を引く。撃ち放たれる弾丸。ニーアはその銃弾を――――紙一重であるが躱した。


「動きが良くなっているッ!!」


 レインはニーアの反応速度が上昇している事に歓喜の言葉を上げる。ニーアだってこの数週間の間、何もして来なかったわけではない。ユカリとの模擬戦形式での決闘でギアスーツの動きを更に磨いてきた。頭はギアスーツにとって最も解りやすい弱点であり、熟練者ならばそこを狙うのが必然である。だからこそ攻撃のイメージはヘッドショットにあるとし、攻撃されると感じた瞬間に全身のバーニアで射撃を避ける事で回避する。幸い、頭というパーツは胴体と比べて小さく、多少の噴射で攻撃を避ける事は容易だ。

 勿論、それだけではない。サバイヴレイダーのヘルメットの感度も良いのが効いている。射撃戦に重視したモードから咄嗟に回避の警告を鳴らす。その速度はカルゴと比べてほんの数秒の差ではあるが、戦場においてその数秒は命を救う数秒だ。

 スミスとユカリに感謝しつつも、ニーアはバーニアで肉体を翻しながらもレインの動きを追う。厄介なのは、先程の回避を手助けした彼の経験の直感と、その左脚にあるスラスターだ。

 スミスの見立てでは、あのアルカードという機体は外見上は左右非対称で非常にバランスが悪く見える。しかし、その機体性能上では実はバランスが取れている機体であると語った。右肩のドリルアンカーは重装甲の機体に深手を負わせるために。左肩のキャノン砲は砲撃戦、右脚のレドームはそれを支えるために。そして左脚のスラスターは奇怪な軌道を描く事で回避運動を取りやすくするために。

 それぞれに意味がある――――いや、むしろ数人でやる事を一人で行えるようにしたオンリーワン機。それがアルカードである。


「ならッ!」


 ニーアはレインが歓喜しているその隙を狙い、OSに語りかけて現在使用できる射撃武装を起動させる。OSに負担をかけるのは承知だ。そうでもしないと、レインという男を破るのは不可能。コアスーツの反動制御が沈まない事を祈りつつも、ニーアはレインを睨む。

 複数出るターゲットカーソル。しかしどれもが通常よりもカクカクとした動きとなっている。OSの処理落ちだ。一つのOSに複数の武器の起動プログラムを要請したのだ。多くても五つの武器の並列使用は予測されているが、それ以上となると限界と訴えかけてくるのだ。

 だが現状においてターゲットカーソルなど必要なかった。あくまで銃口がレインの方向へ向いていればいい。


「一斉射撃ッ!!」


 ニーアはサバイヴレイダーに無理矢理にも引き鉄を引かせる。両手のライフル、両脚部のグレネードランチャー、右腕のガトリングガン、両肩のレールガンとキャノン砲、背部のバズーカとミサイルが一斉にレインを襲う。OSが悲鳴を上げるようにエラーを吐き出しニーアの視界を幾つか赤に染めるが、それでもレインの動きを睨む。

 レインが不敵に笑ったような気がした。バイザーに隠されているはずの表情をニーアは不思議と認識できた。そしてそれは直感的警告とそのなる。

 レインの周りで爆発が起こる。ミサイルとグレネードランチャーの誘爆だ。だがしかし、それで止めを刺したなんてニーアは思えなかった。


「――――ッ!?」


 その予感は的中する。熱量の残った煙が晴れる前に、その煙を突き破るように何かが飛んでくる。キャノン砲による砲撃かと最初は思ったが、その質量の違いに驚く。ニーアは警戒心もあってその攻撃の射線であった胴体から避けようとするが思いの外に早いその攻撃を避けきれずに右肩の装甲に激突してしまった。その時点でやっと、その攻撃の正体を掴む。ドリルアンカー。元々は削岩機であったそれをニーアに向けて投げ飛ばしてきたのだ。

 その背面にはバーニアが仕込まれており、銃弾とも見間違えるような速さでニーアの右肩の装甲を砕く。ニーアはその応酬として攻撃を受ける反動と共に右腕のガトリングガンをパージしバーニアを起動させる。OSに刻まれるエラーの代わりに放たれるガトリングガンという名の質量弾。それは煙を割いたレインの左肩に当たるが、爆発するほどの火薬など積まれておらず、装甲を弾き飛ばす程度でしかダメージを負わせられない。

 しかしそれで十分であった。なぜあの集中射撃を受けてもなお反撃できたのか、そして生き残れたのかを理解できたのだから。


「……バリア、ジェネレーター」


 そこにはホウセンカに搭載されていたようなバリアジェネレーター搭載されていた。先程の質量弾での攻撃で展開箇所は破損しているが、確かにあれはバリアジェネレーターだ。

 しかし思えば、あのギアアーマーにバリアジェネレーターが使用されたのもこの技術の応用だったのかもしれない。


「そうだ。我がアルカードは試作された実験兵器を詰め込んだ機体。私の部下、フレッドの使用していたバリアジェネレーターは勿論、君に与えたルドイックのドリルアンカーも、破壊されたシホのレドームも! この機体には私の過去が詰まっている!」


 元々はただのアークスであったその機体は、戦場に送り込んで死んでいった、部下であり生徒であった者達の残り火の塊であった。その残った兵器、装甲をかき集めて生み出された合成機キメラ。だからこそあの狂ったような造形であり、レインはそれを想いだけで使用しているのだ。

 しかしそれは過去に縋っているに過ぎない。ニーアはレインの異常さに怯える事無くハッキリと言葉を放つ。


「それが……どうしたッ!」


 アサルトライフルを牽制代わりにし、肩部のキャノン砲から砲弾を放つ。エラーのせいでターゲットは当てにならない。直感だけで引き鉄を引く。

 だがそんな砲撃が当たるわけがない。未だに左脚のスラスターが生きている事もあってか、レインは再びくるりと回転をしつつも左肩のキャノン砲で反撃しようとしたが、その放たれた砲弾はニーアにこそ向いた砲撃であったが当たりはしなかった。

 レドームが破壊され、精度が落ちたか。少なくともダメージは与えられていると判断したニーアは、赤に染まりつつあるディスプレイの中にある残弾の切れた武装を確認し、その武装のバーニアを起動させる。

 赤が一段と増す。OSがもう無理だと言っているのだ。エラーコードは滝のように流れ、システムは試行錯誤をしながら少しずつだが弱音を吐く。血の涙を流しているようだ。


「いッけェッ!!」


 だがここで歩を進めるのを止めるわけにはいかない。ニーアは残弾がないミサイルハッチとグレネードランチャーを発射させる。同時に、残りの残弾をありったけぶつけるようにバズーカやキャノン砲の引き鉄を引いた。しかし、実際に引き鉄が引かれたのは数秒後。OSがマヒしたのか、ラグが発生してからの射撃となる。

 その隙をレインが見逃すわけがない。


「どうしたッ!!」


 レインが質量弾を躱し、間隔の開いた銃弾の中を颯爽と駆け抜ける。その両手には例のトンファーが握られていた。接近戦を仕掛けに来たのだ。キャノン砲が役に立たないと理解したようで、咄嗟にこの銃弾の弾幕が張られる可能性がある中、近接戦闘に持ち込もうとする気概は勇気があるのか、それとも蛮勇か。

 しかしこの状況下で接近戦はニーアにとって辛い物がある。OSが死に体である状況で接近戦は更なる負荷のかかる戦闘への移行となるのだ。


「クッ!?」


 しかし、後方へ下がろうとするニーアの意志とは裏腹にサバイヴレイダーはその場から動く事をしなかった。コアスーツへの異常すら出てくる。まるで錘を着たような錯覚を覚える。肉体が、自由に動かない。ニーアはギリリっと歯を噛み、無理矢理にでもキャノン砲とレールガンのバーニアを起動させながらパージする。こればかりは処理が軽いのか、それともサバイヴレイダーが重くなる原因を捨てたかったのか――――結果的にOSに負担をかけるというのに、武装は質量弾となりレインへ赴く。

 だがレインの左足のスラスターがまだ生きているのか、軽快な動きで避けようとする。しかし、左肩のキャノン砲にぶち当たり弾き飛ばされる。レインはバイザーの中で唇を噛むが、それでも真っ直ぐに進む。


「動けッ!」


 ニーアは叫ぶ。サバイヴレイダーはそれに応えようとOSは無理をしてでもニーアに合わせようとする。そして、ぎこちない動きをしながらもアサルトライフルを捨てて、腰に差しているヒートソードに手をかける。そして一気に引き抜――――


「っ……!?」


 ――――けなかった。OSが赤に染まりきる。システムエラーの滝は湖を造りニーアをシステムごと溺らせる。機能が停止する。コアスーツが動かない。手も、足も、指も、首も、何も動かない。見えるのシステムエラーの文字だけ。埋め尽くされた文字の中で、ニーアは見えなくなった敵を見ようとするがバイザーは何も映さない。

 絶望の中、ニーアはあの虚ろな海へと回帰する――――

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