第36話:名前―Date―
海賊の拠点の探索は続いている。その中で仕事がないテルリは子供達にホウセンカの中を歩いて説明していた。彼らは図解で説明しても理解が難しいから、こうやって歩いて見せたほうが手っ取り早いのだ。
昨日、ヒューマと話した彼らの処遇。その話がこのホウセンカウォーキングを実行されているのは言うまでもない。空軍、海上防衛隊に引き渡すのは確かに良い事かもしれないが、確かな安全であるかと言えばそうではない。自分達の目で、見届けたいのだ。
「ケッ、自分勝手も甚だしいぜ」
「テルリー、どうしたのー?」
「いや、なんでもねぇ。ほら、次行くぞー」
茶髪で腰ぐらいまで伸ばされている髪を持つ、推定八歳の少女が悪態を吐くテルリの名前を呼び、テルリは我に返る。そう、ここで苛立っても仕方がないのだ。元々、これに関してはニーアが、いや十年前のあの時から心の中で決めていた事だ。当時、年長であったテルリにとってはキノナリ達も子供だったのだから。
子供は先程の茶髪の少女以外にも、黒髪が刈り上げられている推定九歳の褐色の肌を持つ少年、薄い金髪で碧眼を持つ、身なりを整えればそれこそどこぞのお嬢様に見える推定七歳の少女、灰色の髪を持ち鋭い目つきの十歳の少年。これにマリーを加えて救出できた子供達だ。彼らに真っ当な名前はないようで、正直呼び名に困っているのが現状だ。
「んぁ……えーと、チャッコ」
「んん? 私ぃ?」
「そうお前。そっちは危険だからこっちにきなさい」
だから、テルリは彼女達に新しく付けた名前で呼ぶ。どうやら海賊は、元々の名前がハッキリと判っている子供以外は数字で読んでいたようだ。だから、できるだけその数字に抵触しない名前を付ける事にしたのだ。
「テルリー、ここ面白い音なるー!」
「こら、カナ。ホウセンカの鉄柱を叩くな。響く!」
「あ……ぅぅ」
「あ、ちょっと待て。泣くな。泣くなよ、おい」
カナと呼ばれた金髪の少女はどうも泣き虫らしい。少し叱っただけですぐ泣いてしまう。普段は好奇心が旺盛な子供だが、それゆえに泣き顔はすごく心に来ると言うか何というか、とテルリはウガガガガ、とあわあわとしていると、
「ん……美味しそうな匂い……」
「あ、こら、ボ――――」
「ボブ。行くなら皆で行くよ。だよな、テルリ?」
食堂から漂う料理の匂いに釣られて勝手に行動しようとする褐色肌のボブの手を掴んだのは、テルリではなく灰色の髪の少年だ。
「ほっ……お前は聞き分けが良くて助かるよ、レイ」
「当然だよ。俺は年長者だからな!」
そう言ってテルリに素直に褒められるのはレイだ。マリーがあぁなった事もあってか、年長者の自覚が芽生えているようで、テルリがいない時も率先して子供達を纏めている。
これらの名前はテルリだけが定めたわけではない。ヒューマ達で考え出した名前だ。だから名前の特徴はバラバラだが、それでも一度付けた名前だ、変えられない。それに、早く新しい名前を憶えてもらう事で、海賊にいた頃を忘れさせられる。そう信じるしかない。
「だが、まぁちょっち早いが、飯にするか。ほら、カナ。美味しいご飯を食べたら、元気になれるぞー」
「ぅぅ……ひっぐ……ぅん」
カナとチャッコを連れてテルリは食堂へ向かう。その姿はとても微笑ましいものであった。
◇◇◇◇
「ツバキ。調べてほしい事があるんだが」
「なーに? 久しぶりに二人きりの島のデート中なのに」
「海賊の島でデートはしたくないな」
そう言いながらもツバキはヒューマと横に並んで歩く。手を繋いでだ。テルリが見たら何か冗談をぼやきそうな状況である。正直、ヒューマはこういう事には慣れていないし、ツバキにデートなんて言われてドギマギしたのは言うまでもない。
だから、ヒューマは必死に自分のペースに持っていくために真面目な話をするのだ。
「アカルト・バーレーン議員の事だ」
「あら、また意外な。で、何で調べてほしいの?」
ツバキが意外そうな表情を浮かべたので、それがヒューマにとっては意外だった。変に高望みというか、ツバキなら気づいているんじゃないかと考えていたから、その反応に驚いたのだ。
「ギアアーマーの事だ。あのような兵器、世界機構が絡んでいる以外に考えられないだろう?」
「なるほどね。でも、海賊がギアアーマーを保管している施設から奪った物かもよ?」
ギアアーマーの開発者、トロイド・ハーケイン博士は以前からの悪癖で、開発の場が移る度に開発していた兵器をその場所に置いていく。恐らく、それを奪われてしまったのでは、というのはツバキの見解であった。
実際、あのギアアーマーは強力であったが、その全盛期を知っているヒューマ達からすれば、あれはまだ未完成の物だ。トロイド博士の置き土産を奪った可能性は確かにある。
「では別の観点からだ。海賊のギアスーツ、あと数の問題だ」
「なるほどね」
ヒューマの問題提起にツバキはうんうんと頷いた。ヒューマはツバキに遊ばれている感じがして嫌であったが、それが彼女の本質であるのだから仕方がない。
「一般の非政府組織にしてはあまりにも多い。だから、裏に何かしらのスポンサーがいるから、誘拐されたバーレーン議員を調べてほしいのね?」
「あぁ。バーレーン議員を恨む者がいればそうするだろう。世界機構にも優位に動けるし」
ヒューマの提案に解った、とだけ答えたツバキはトテトテとまるで童女のように駆けていく。変わらないな、とヒューマは思った。小さい頃からずっと、何も変わらない。夢想家でロマンチスト。なのにリアリストで、それでいて子供っぽい。そんな彼女だから、愛する事が出来たのだ。
ヒューマはゆっくりと歩きながら、振り返って手を振るツバキの元へ向かう。彼らに脅威が近づいている事も知らずに。
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