神を殺したのは誰か【神格鑑定局】
@chiisanasakurannbo
第1話
神格鑑定局受付。
平日の昼下がり。来訪者もまばらな受付で、一人の男が職員を相手に粘っていた。
よれたシャツに無造作な髪。およそ国の機関を訪ねる格好には見えない。
「神格鑑定局は民間の機関ではないんですけど」
受付の職員は困ったように男を見る。
「そういわずに草間局長にお話ししたい事案がありまして、くしゅん」
男は言葉の途中でくしゃみをすると、慣れた様子で鼻をすすった。
そこへ通りかかった松倉が足を止める。
「こいつは?」
「真岸っていう記者らしいです。一応草間局長と知り合いのようですが、面会をしたいと聞かなくて」
職員の声には、どうしたものかという困惑がにじんでいた。
松倉は真岸と呼ばれた男を上から下まで眺める。真岸はそんな視線など気にも留めず、愛想よく頭を下げた。
「いいだろう、俺が今いったん聞いてやる。必要であれば上にとおす」
「ほんとっすか」
真岸の顔がぱっと明るくなる。
「とりあえず中で話を聞こう」
松倉に促され、真岸は受付を離れた。
一般の来訪者が立ち入れる場所を抜け、二人は鑑定局の中へと入っていく。真岸は珍しそうに辺りを見回した。
「へえ、こうなってるんすねえ」
「お前、来たことなかったのか。草間局長と知り合いというのは嘘か?」
松倉が横目で睨む。
「くしゅん、嘘じゃないっすよ。こう見えて自分、鼻が利くので。異能者は鼻で分かるんです」
「へぇ」
松倉は大して興味もなさそうに返した。
「だから自分は重宝がられてるんっすよ。ある方面ではですけど」
通された部屋で、真岸は勧められるより先に椅子へ腰を下ろした。
松倉もその向かいに座る。
「それで、話を聞こうか」
「実はこんな手紙がうちのスパナ日報に届きまして」
真岸は鞄を探り、一通の封筒を取り出した。
使い古された鞄とは対照的に、封筒は折れないよう丁寧に保管されている。
松倉は差し出された封筒を受け取った。
「真岸って、お前に直接ということか」
「はい」
中から便箋を取り出し、松倉は文面を目で追う。
「『御嶽の奥地に宗教集団、紅の不死鳥という集団があります。教祖の血肉をくらうことで信者の傷が立ちどころに治る。でもそれはインチキです。どうか真岸さんの力でインチキを暴いてください』」
そこで読むのを止め、封筒を裏返した。
「差出人はないな」
「そうなんすよ。どうして自分の名前を書かなかったのか、書けない事情でもあったのか、自分にはわからないっすけど」
先ほどまでの軽い調子を少しだけ潜め、真岸は机の上の手紙を見る。
「なんかやばいところだったら困るじゃないですか。インチキなんて書いているけど、本当の神格がいるかもしれない。そしたら、一般市民の俺なんてあっという間に殺されますよ」
冗談めかした口調ではあるが、言っていること自体は笑い話ではない。
神格が関わっている可能性がある以上、ただの宗教団体への潜入取材とは話が違う。
「それにあなた方にも悪い話じゃないっすよね。これは情報提供と共同捜査っす」
「ふむ」
松倉は返事をせず、もう一度手紙に視線を落とした。
教祖の血肉をくらうことで傷が治る。
荒唐無稽な話だ。
だが、荒唐無稽だからという理由で切り捨てられないものを扱うのが、神格鑑定局という組織だった。
そのとき、部屋の扉が開いた。
「失礼します」
若い男が三人分の茶を載せた盆を手に入ってくる。
神格鑑定局に入って一年になる新人、弐ノ関亮太だった。
亮太が机に湯呑みを並べている間にも、松倉の目は手紙から離れない。
「確かに怪しいことこの上ない手紙だ」
「でしょ。じゃあ行きましょうよ。いざ紅の不死鳥へ!」
真岸はもう出発する気満々らしい。
松倉はそんな真岸を無視して、茶を置き終えた亮太を呼び止めた。
「亮太」
「俺ですか?」
盆を抱えたまま、亮太が振り返る。
「亮太、お前、まだ現場に出たことなかっただろう?」
「そうですけど」
なぜ今それを聞くのかと、亮太は首を傾げた。
「そしたら、お前もついてこい。初現場だ」
一瞬、亮太の動きが止まった。
「いいんですか」
「ああ」
松倉は手にしていた便箋を机へ置いた。
「これは俺の勘が正しければ、ただの事件では済まない」
何の変哲もない一枚の便箋。
そこに書かれた『インチキ』という言葉を、松倉はじっと見つめていた。
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