魔砲少女と魔女騎士見習いは、今日もキスを交わし合う
亜麻ハル
第1章 ガール ミーツ ガール
第1話
『……ザザッ…………こちら本部。タクティカル・コード『星撃ち』、応答を求めます』
11月22日、夜22時。多くの人々がすでに帰宅の途に就き、一部の者たちが眼下にある東京の摩天楼の中で酒と享楽に酔いしれているその頃、私は寒風吹き荒れる空の上に立って、その時を待っていた。
耳を覆い隠す、毛先に少しだけシャギーを入れてもらった私の黒髪が摩天楼上空を吹き抜ける突風に煽られて舞い踊る。背中の腰上まで伸ばした髪はバサバサと宙に広がり風が止むとふわりと、元の位置に戻ってきた。
空中に浮かんだまま直立し、待機していると、私の耳に取り付けたオープンイヤー型のイヤホンから、遠く離れた本部に居るオペレーターからの通信が聞こえてきた。
「こちら『星撃ち』、現在、予定通り作戦空域に滞在中。どうぞ」
早く始まらないかなぁ、と思いながら、オペレーターに返事をすると、待ち望んでいた通り、間もなく事態が発生すると測定されたことが伝えられてくる。その情報に、ようやくか、と思いながら、私は自分の相棒であり、信頼を置いている魔砲杖『アズールロッド』に声をかけた。
「アズール、1分後に対象が顕現。10秒前には隠蔽と封鎖の結界の発動をして。範囲は……そうね、周囲500メートルでお願い」
『Yes.Understood, my mistress.』
いつも通りの機械音声で、アズールロッドが私の指示に返事をしてくれる。そうして先ほどの指示を出してから45秒後に、アズールロッドが自動演算処理による魔法陣を空中に描きだしはじめ、5秒後には私を中心とした周囲500メートルの空間を外部から光学的には完全に認識できないよう、そして結界内部に居る
「さ、お仕事の時間ね」
手に持っていた魔石を口に含む。すぐにその口に含んだ魔石から、アズールロッドが私の身体から吸い出した分以上の魔力が私の身体へと流れ込んでくる。身体中を駆け巡るその熱さにびくん、と一瞬だけ身体を震わせた後、私はアズールロッドの先端、まるでバズーカ砲の砲口のような形となっている部分を身体の前方に向けて構えた。
それと同時に、私の眼前、それまで何も無かったただの空の上の空間に縦横10メートルくらいの歪みが発生しはじめる。その歪みで夜空の星と地上から来ていた光が捻じ曲がり、黒と紫が混じってできた孔の奥から、この地球上には本来存在していないはずの胴体が無数の触手でできており、頭部が無数の目玉でできた怪物が姿を現そうとしてきていた。
「はぁい、こんばんわ。ようこそ、地球へ。――そして、さようなら」
私の身体から、手で掴んでいる部分を通してアズールロッドが私の体内を駆け巡っている魔力を一気に吸い出していく。その吸い出されていく感覚に耐えながら、私は私で地上へと落下しないよう、飛行魔法の維持に取り組んだ。
もっとも、耐える必要があった時間は3秒程度だ。その間に口に含んで補充した魔石分の魔力を全て私の身体から吸い出したアズールロッドは、砲口の先端にその吸い出した魔力を圧縮した球状にする形で貯めこんでいた。
「彼を穿て、マナ・ブレイカー」
『Execute. Activating annihilation magic.』
事前に定められている私の
何十年も前の頃から、どう見てもこの地球上とは異なる世界からやってきているとしか思えない姿と力を持った怪物たち――通称、魔物――が、この世界には現れるようになった。
そんな魔物たちに対抗し人々を護るべく、世間には秘密裡に自衛隊の中に作られた秘密特殊部隊『
ちなみに、まだぴっちぴちの、花も恥じらう15歳の黒髪姫カット美少女だ。
私は5歳の頃に両親を亡くした後、身寄りがなく国の施設に引き取られた。そこで偶然にも類稀な魔力制御能力があるということが判明したせいで、否応無しに退魔班所属ということにされてしまったのである。
さらにその後はそこで出会った魔砲杖『アズールロッド』に主として選ばれてしまったということも有って、幼い頃から何度も対魔物作戦の現場へと出撃していくことになってしまった。
――おかげで修羅場を何度も経験してしまったせいか、感情を顔に出すのが苦手な女の子になってしまいましたよ。
とはいえ、魔力の制御能力に加え、どうやら戦闘センスとサバイバル技術にも天性の才能があったらしい私は、気づけばエースとしてこうして超が付きそうなやっかいそうな相手の出現が予想される作戦の際には、いつものように駆り出されることになってしまっている。
もちろん、命懸けの分(あと、たぶん口止め料込なんだろうけど)、お給料や待遇も孤児に対するものとしてはかなり良い方なので、しょうがないともあきらめてはいる。これがその辺の扱いが悪かったら、たぶんキレてた。
「うん、撃破できたっぽいかな。
あとはいつも通り、異界孔が閉じるのを現認し終えたら帰隊だね」
こっちに姿を現そうとしていた怪物は、さっきの私の一撃で見せてきていた上半身を完全に吹っ飛ばされ、空間に開いた孔、異界孔の奥へと吹っ飛んでいっている。
後は開いたこの異界孔がいつも通り閉じるのを確認したら、それで終わりのはずだ。
――いつもはそういうものだったので、今日もそうなるとばかり思っていたのだが、その日は何故か奇妙な現象が発生してしまった。
「ん?
あれ、なんか黒い穴がさらに開いてる?」
異界孔として発生した歪みは、これまでの前例通りなら這い出してこようとしたものを撃退しさえすれば、後はそのまま縮小していって消えて無くなるはずだった。
なのに、今回はその歪みの中心部分に黒い点のような何かが発生していることに気づく。
『wetem bartorium ad vistinia, Azuleload』
その黒い点に私が気づいた直後のことだった。
アズールロッドが意味不明な言葉を勝手に発し、震えだしたのだ。
どう考えても異常事態である。
「これは――本部、こちら『星撃ち』。今回のお客様にもお帰りは願えましたが……撃退後の異界孔になにやら黒い点のようなものが発生して…っ!?」
異常事態の発生に、即座に本部へと通信で報告を行おうとしていたところ、急にその黒い点が膨張して巨大な黒球へと変化し始めた。
黒い球面が私の方へと勢いよく迫ってくる!
即座に後方へと飛び退いて距離を取ろうとしたのだが、視界一杯に迫りくる黒の膨張速度の方が早い。くっ、間に合わない!
(飲み込まれる!)
そう思ったことで反射的に身体が強張ってしまった直後、私はその黒に飲みこまれ――そのままぶつりと、意識を失うことになってしまったのだった。
――そうして、一度は意識を失ったその後に、私は気を取り戻して目を開ける。
けれども、その時に私が目覚めたのは、その場所がどことも知れぬ深い森の中であった。
頭上に見える青空には、二つの大きな月が浮かんでいる。
そのことから考えて、どうやら私が黒に飲みこまれた後に目覚めた場所は、間違いなく地球ではない場所だったのだろう。すぐにそう結論付けた。
私の持ち物は、作戦行動のために装備していた退魔班の制服と、防寒・身分隠蔽のため用のフード付きマント。それに腰に着けていた作戦行動中に水分を補給するため用のお茶が入ったペットボトル。
そして後は、気を失った後もずっと手に掴み続けていた相棒のアズールロッド、ただ一本。
ここが地球でないというのであれば当たり前の話だが、本部との連絡は試してみたけれども繋がることがない。
どうやら私はほとんど身一つの状態で、ここがどことも知れぬ異世界の森の中に放り出されたみたいである。
そう今の自分を取り巻く状況を認識し終えた私は、すぐさまこう思ってしまった。
(あぁ、原隊に、地球へと戻る方法を見つけ出さないと)
後から考えればそれはきっと、幼少期からの洗脳に近い訓練と学習で与えられていた考えだったのだろう。
だけどもその考えがあったからこそ、私はすぐさま行動を起こすことができたし、そうして私の
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