超大陸旅行記

初空 林檎

超大陸旅行記

光に包まれる。

紫立った気の塊に、澄んだ、少し違う空気が混ざってくるような感覚がした。

久しぶりだ。

何年ぶりだろう、いや、何十年ぶりになるのだろう。

右手には地図を持っている。

部屋中探し回って、やっと見つけた想い出の地図だ。

今、向こうはどうなっているのだろう。

楽しみだ。

旅というものは、いつになっても、いくつになっても、楽しみなものなのだ。



***



確か、ここを抜けると森に出たはずだ。


さらなる光が差し込んでくる。

そろそろじゃないだろうか。

そんな気がする。


もっと強く穿ってくる光に、思わず目を閉じたまま、突き進んでいく。

風の中を、抜けていく。

そして、今、“水”の中を抜けた気がした。


ん、いや、確実に水だった。


なんだ、今のは。

森じゃない。

おかしい。昔は確かに森へと抜けたはずだ。

変わった、のか……?


ふと辺りを見渡すと、そこには遠くまで続く、大きすぎる湖が広がっていた。

これはもう、海と言うべきではなかろうか。


「はて……、」


通る場所を間違えたか、いや、間違えようもない路だったしな。


足元に目を向けると、透き通った薄浅葱の水塊の下に、沈んだ遺跡が確認できた。

私はどうやら、あそこから出てきたらしい。

にわかに信じられない。


まぁ、なんだかよく分からないが、これもまた旅の余興だと思おう!

身なりを整えて、っと……、よし。

それでは、旅を始めようか。



***



人の営みが見える。

小さくても、賑やかさが感じられる。


どうやら地図によると、さっきの場所は“魚族領(ぎょぞくりょう)”らしい。

今は半砂漠地帯の上を通過しているところだ。

ここは見ての通り“人族領(じんぞくりょう)”というらしい。

そんな名前もついていたっけか。

随分とまあ栄えたものだ。


この大陸は、『アエルテ(Aerthe)』という。

まるで、頭部と尾が龍、胴体が人で、コウモリのような羽根を持ち、下半身が魚、いわば、飛べる龍面人魚といったような形状をしている。

非人為的にこんな形が造形できるものなのかと、自然の偉大さを感じざるを得ない。

全部で四つのエリアに分かれており、魚の下半身が魚族領、人の上半身が人族領、龍の頭部が獣族領(じゅうぞくりょう)、大きな羽根部分が魔族領(まぞくりょう)だ。獣族領のさらに向こうにも“小島”がいくつかあるらしいが、それは何だかよく分からない。


遺跡を通過した。

地図には“Mir.”とだけ記されている。

正式名称は不明だ。


人々に近づいて耳を澄ませると、同じように聞こえても、よく聞くとそれぞれ違う言語を話していた。

これは、国をまとめるのが大変なのでは。

しかし、どうやら使っている文字は皆一緒らしい。

どういう経緯があるんだ。



遺跡のある街から、海の方へと進む。

龍面人魚の手に当たる半島部分が見えてきた。

本当によくできた形をしているな。


だが、向かう途中で、嫌なものを見た。


何やら騒がしいと思えば、人間は紛争をしていた。

そこの国も、近くの別の場所でも、真っ赤に染まって死んだ兵士や、逃げ惑う民がわらわら居た。

なんてちっぽけなんだろう。

彼らにとってはくだらなくないのかもしれないが、私にとってはくだらなく見えた。

何の争いかは皆目見当もつかないが、もっとやりようはあるはずだ。


私は、海を往くのをやめ、沿岸の陸地を往くことにした。


少し進んだところにある、先程断念した半島の付け根辺りにある国も、若干おかしかった。

街はよく整理されているが、血の気が無い。

そこだけ、妙に真っ青な空気をしていた。

人は居るには居るが、生気が無い。

目が洞のように真っ黒だった。

不穏なチャイムが鳴ると、人々はすぐさま一斉に立ち上がり、南西の方角を向いて、胸に手を当て、空を仰ぎだした。

石炭袋のような、その漆黒の瞳は、瞬くことも知らない。

彼らは今、何を見ているのか。

何を見ようとして、何を見られているのか。


それは少なくとも、上空の私でないことは確かだった。



***


「おかーさん、見て見て!お空にプテラノドンさんがとんでるよー!」

「しっ、静かにしなさい。今は『誓いの時間』でしょう。」


***



そう、私は今、空を飛んでいる。


この人族領を旅するつもりはさらさらなかった。

思いがけない場所に出たから、思いがけない場所を視察しているだけである。

余興だとか、旅の始まりだとか言ってみたが、実は地図が読めなくて半分迷子だったのである。

地図は大事だ。

在って助かった。

失くしたらもう帰れないな、とまで思った。


心臓のような形をした小さな湖を越える。

確かそろそろ賑わったバザールが……、なんてことだ。

破壊されている。

それもかなり前らしい。

既に残骸も朽ち果てかけている。


それに人気も少ないし、居たとしても、かつてのような活気は見受けられなかった。

何かこう、先程の腕の付け根の国に似た、沈んだ空気を感じる。

そういえば、どちらの国も、紛争をしていたのを見た二つ目の地域も、この中央の大国に接した国々だな。


「……不吉だな。」


この大陸の人間社会がこれ以上爛れないことを願うばかりだ。



山間にも、僅かながら人が住んでいるらしい。

深い岩の渓谷に、小さな小さな集落があるのが見えた。


指をさされている。

気づかれたのか。

マズい、逃げねば。


私はそうしてまた、空に翼を広げた。


にしても、別に翼竜は珍しいものではないはずだ。

ならばなぜ、私を物珍しそうに指差したのだろう。





龍面人間でいう首の辺りを横切っている、長い長いフェンスを越えると、そこにはまた違う景色が広がっていた。

“獣族領”。その名の通り、人はおらず、獣だけが住んでいるエリアである。


「獣族、だからなぁ。まぁ、大丈夫だろう。」


人族領上空のときよりも、ラフな格好にしてみる。

というか本来の姿そのままだ。

でもきっと馴染めるだろう。

“獣族領”であるしな。


領空に入ってすぐ、巨大な火山が見えた。

私よりも遥かに大きい。

こんなのが噴火したら一溜りもないだろう。

麓の街で、子供たちが元気に遊んでいる。

ああいう未来ある子たちが、きっと火山噴火のような未曾有の大災害を救うことになるのだろう。


ただ、そういえば、この辺りは昔はもっと違う雰囲気だった気がしている。

かつて在ったような建物も遺っていなくはないが、かなり古ぼけた容貌だ。

さらに北に進んで往くと、何となく、状況が解った。


国が変わったのだ。

恐らく首都と思われる都市には、昔のような荘厳さや素朴さは一切失く、テラテラした不気味なほど白飛びした新しい景観だけが存在していた。


人気はあるが、これも見たことがある。

盲信的に、何かを失くしたように空を見上げ、存在し得ないモノを崇めている。

それを、感じた。


己の偉大さを喧伝して、人民の脳味噌を洗い、有無を言わさず、その汚い足で導く“救世主”など、この世には絶対に無い。

そうだというのに、人だけでなく、獣の世界までそうなのか。

綺麗な世界など無いのだな。

私は悲しくなった。


さて、そんな斯の領都は果たしてどんな様子だろうか。


私は北東に向かって行った。



***



「陛下、こちらがご所望の品にございます。」


「……ほう、ご苦労。」


差し出された籠から1つの瓶を取り出して、射し込む日光に内容物を照らす。

波紋のような水色は、彼の目に映り、彼は舌舐めずりし、恍惚の様を呈していた。


「――ときに陛下、遮るようで申し訳ないのですが、この街は良質な辰砂(シナバー)が多く採れますでしょう。故に、“そちらの品”を生産している家はウチ……私の工房の他に五件ほど存在するわけですが……、」

「が、なんだ。」


玉座に座った彼の、低く唸るような一言に、思わず耳が畳まれてしまう。


「……以前、品質調査を行なった際、私の工房がいちばん効き目を残しており、なおかつその日に使用できた検体が最も多い、つまり、大量に生産が可能である、という結果が出ました。こちらが、その調査書にございます。」


少し震えた手で、一枚の紙を手渡した。

捏造とは、究めたところで損は無いものである。


彼は、その紙に少しも目を通さず、相手を見た。


大きな耳と尾を持った、汚いどどめ色の、一人の商人の男である。

未だ耳は畳まれたままだった。

玉座の男は、続けた。


「それで、こんな紙を渡してまで、貴様はなにを施してほしいのだ。」


「陛下は今、ウ……私の工房以外にも、三件から“そちら”の買付をなさっておりますでしょう!、それを、私の工房からだけ、買っていただきたいのでございます……、どうか……!!!」


商人の男は、首を垂れた。

少しの沈黙が流れた後、玉座の男は席を立った。

そうして、額を床に付けた男の周りを、歩き始める。

豪華絢爛な長いローブが、ずるずると埃一つ無い床を舐めている。

彼の細く長い縞模様の尾は、そのローブの内側で、緩やかに揺れている。

商人の男は、垂れた首の耳も垂れ、その尾は体に巻き付いてしまっていた。


そんな垂れた耳に、どこまでも贅沢な身なりをした男は、顔を近づけて、囁いた。


「顔をあげなさい。」


商人の男は、恐る恐る、ゆっくりと、前を向く。

そうして、目の前の『陛下』は、口を開いた。


「別に構わんぞ。」


「陛下、!」


「ただ!……私の思惑は、知っているな。あの“小島”へ辿り着き、領都直轄地(りょうとちょっかつち)として、資源開発をする。その為には、この瓶詰めが大量に必要なのだ……、“碳鞏薬(エリクサー)”がな。叶うなら、旧帝國七要家(きゅうていこくしちようけ)の錬金術師を懐柔したいところだが……。この計画が、誰かの失敗で頓挫しようものなら、其奴は、私の顔に、私という“王”の顔に、泥を塗ることになる。……わかるな?」


「……えぇ、承知しております、。」


「これは他言無用だ。お前が、相応の質と量を揃えた碳鞏薬(エリクサー)を狂いなく生産でき、誰一人として外部に漏らさないことが守れるなら、お前の頼みに乗ってやろう。金も弾むぞ?、…………いいな?」


「……はい。……是非。」


王は、にやりと鋭い牙を見せるように笑って、己の玉座に戻っていく。


商人の男は、その安堵と快感に、大きな耳を従来の船の帆のように建て戻していた。


狐(きつね)借虎威(とらのいをかる)。


汚らしいのは、商人の狐の形だけではなかったらしい。



虎の王が玉座に腰掛けんとしたとき、


「陛下!大変です!」


巨大な扉が勢いよく開かれた。


「ヒュドラーが!!、領都内南西の空に、ヒュドラーが確認されました!!」

「何!?、ヒュドラーだと!?」

王は叫ぶ。


「至急、領軍隊を対象の追放にまわせ!火薬、弾薬、使えるものは全て使って、せめてこの城だけは守り抜くのだ!!」

「ですが、火器を使用すれば、都民にも被害が……!」

「この際構わん、金ならある!、王の為に死ねて本望だろう!」

「陛下……、」

「私に逆らうのか!!」

「……はっ。」


走り去っていく家来をよそに、王は一人呟いた。


「にしても何故、ヒュドラーが……。領内どころか、この大陸には存在し得ないはず……、というか、ヒュドラーとは、如何なる怪物であったか……。」


商人の男は、未だ状況も飲み込めない様子で、視線を迷わせていた。


「あっ、へ、陛下……、」


「なんだ!!」


「その……、ヒュドラーというのは……?」


「……怪物だ。」



***



何が起こっている。

何故、私はこうして、地上の数多の軍員から、槍やら矢やらで攻撃を受けているのだ。


何もしていない!

何もしていないのに!!


幸い、避けたり弾き飛ばせたりして、喰らわないで逃げられているが、このままでは疲れる。

私はここに疲れに来ていない。

日頃の些細な疲れを癒しに来たのだ。


全く、邪魔しよってからに!


周りに鳥の軍員が増えた。

軍の腕章らしきものを着けているのが分かる。


真隣から矢を射られるのは初めてだ。

いや、下からも初めてだが。

これは逃げ切ったらへとへとで旅どころじゃないだろう。


三つほど弾薬を投げつけられたのを感じた。

野蛮な野郎どもだ、と思った。


と、その時、さくっ、という音を聞いた。

確かめると、右手の地図の右上部分に、矢が貫通して刺さっているのが見えた。


まずい。

地図を破られては帰れない。

せっかく持ってきた古の地図だ。

昔の旅の記憶もここに詰まっている。

地図は守らなければ。


と思ったのも束の間、地図が手から消えた。


取られたのだ。


なんてことをしてくれる、と近くの鳥軍員を突き落とそうと見ると、地図は持っていない。


「!?!!!、」


周囲を見渡しても、軍員誰一人として地図を持っていなかった。

おかしい。

そういえば、取られた時の感覚も変だった。

掴んで奪われた感覚でも、矢で撃ち落とされた感覚でもない、ただ、狙ったような鋭い“風”が地図を誘っていったような感覚があった。


風?


風……。



いつの間にか、領都は疾うに抜けていて、軍の奴らも追いかけるのを辞めたらしかった。

ふぅ。

鬱陶しいやつらが消えて、せいせいしたな。


だが、地図を失くしたことには変わりない。

さて、どうやって帰ろうか。

そういえば、この辺りは少し見覚えがあるな。

前に見た景色はこんなだったはずだ。

きっと、あの森も近いのだろう、恐らく。


微かな土地勘を頼りに、私は帰路を目指しはじめた。



***




ここまで長かった。

もう無いのかとすら思ったが、やっと辿り着いた。


この“ポータル”に。


これで、向こうの大陸に帰ることができる。


――私の故郷、『グラベレ(Glabele)』に。


あとは、ここを来る時と同じように潜るだけで……、


「あれ!?」


いきなり、後ろから驚くような声がした。

振り返ってみると、


「ミドさん?ミドさんですよね!?」


「お前は……、妖族の!?」


「やだなー、もう。“魔族”ですよぉ。でも、概ね正解です。昔もここでお逢いしましたかね。改めまして、研究者をしております、アムリヌ、と申します。お久しぶりですね、ミドさん。」


にやにやと、気味の良さそうで、もはや不気味な微笑みを浮かべて、彼はそういった。


「そういえば、そんな名前だったか。……というか、ミドさんはどういう意味なんだよ、掠りもしてないぞ!」

「え、緑だからですよ?」

「安直だな!」

「大丈夫です、あなたの個体名は知りませんが、種族名ならもちろん知っています。“アババイソイ・ドレイク”。こっちの大陸で言われるところの、ドラゴン、ですか。」

「ふん、まぁ、そんなところだ。」

「えー、つれないですねぇ、ねぇねぇねぇ、個体名なんて言うんです?教えてくださいよぉ、僕とあなたの仲じゃないですかぁ〜。」

「そこまで仲良くない。」

「んぇ〜〜。」


抱きついてきた魔族の男が渋々といった様子で離れていく。


「あ、そうそう。これ、あなたのですよね。」


そういって、彼は、背中の長い筒から、ある紙を取り出した。


それは、さっき失くした私の地図だった。


「あ!、それは!」

「お、ビンゴですか?良かった良かった。」

「何故、お前がこれを……!?」

「あぁ、実は獣族領軍隊に魔族のスパイがいるんですよ。どうやら、領都内に現れたヒュドラーがミドさん(の種族のドレイク)らしいということで、もしかしたらと思い、他の軍員どもにあなたの荷物が盗られないようにと、先に保護させておいたんです。」

「情報伝達が早いのだな……、」

「魔族ですから。」

「あ、じゃあ、あの地図が消えたときの風の感覚も……!」

「あぁ〜、確かに。彼女は風魔法の家系の出自だったと記憶しています。」

「なるほど、やはり魔法だったのか。と言うか、地図の回収からお前に渡るまでが早くないか、今日のことだぞ!?」

「えぇ、魔族ですから!」

「しかも、矢に貫かれたはずの部分まで、綺麗さっぱり元通りだぞ……、」

「ふっふっふ……、それも、魔族ですから☆」

「三度言えるとは、万能な謳い文句だな。」

「魔族ですから。」

「それしか言えなくなったのか、お前は。」

「にしても、獣王ったら間抜けですよねぇ、ヒュドラーは本来、九つの頭を持った大蛇なはずです。こんな真緑のドレイクなわけがない。虎の癖に、馬鹿ですよ。」

「……今のは、上手いのか?」

「そういうことにしといてください。」



***



私は、アムリヌに、折角だからお茶しよう、と言いくるめられ、彼の後を付いて歩いていた。


「この大陸って、偶然にしては出来すぎた形状をしているよな。」

「えぇ、全くです。よくキマイラのようだと、形容されますね。」

「キマイラ、か……。龍面人魚ではなく?」

「ぶふっ、龍面人魚……。ふっ、ふふっ、龍面人魚ねぇ……、確かに、確かにねぇ……、ふふふっ。」

「そんな可笑しいか?」

「はい、可笑しいですが、言えてるので、使わせていただきます。」

「へいへい、そりゃどうも。」

「にしても、前足しか無いのに、よくそんなスイスイ歩けますよね、あなた。」

「伊達に長年生きてないわい。ちなみに、お前と最後に逢ったのは、あれはいつなんだ?」

「ん〜、多分、400年ほど前だったと思いますよ?」

「あぁ、それはそれは……。どの領地も変化していて当然か。」

「変わりましたよねぇ、特にこの150年くらいで、大きく変わりましたよ、アエルテは。」

「好きだったバザールが潰れていて驚いたぞ。」

「あぁ、マルカズ湖のほとりのですか?あれは、なんとも可哀想な立地だったとしか言いようがないですねぇ。」

「どこを見ても、なんかこう、街じゃなく、心が、汚かった。」

「あっはっは……、でも、所詮人間なんてそんなもんですよ。特に上に立つ奴なんかはそうです。自分の利益しか頭にない。あなたの言葉を借りれば、汚い。良くも悪くもね。」


彼はそう淡々と言い放ってすぐに、何か思い出したようにまた口を開いた。


「あ、そうだ。変わったことと言えば、最近、獣族領の樹海にある大火山が、噴火する可能性が高まってきているんですよ。まだもう数年は噴火しなさそうなのですが、そんなの私ら長命種にとっちゃ、すぐじゃないですかぁ〜。」


心から怯えているのかは分からないが、眉と糸目を途端に八の字にした。

本当に、万物を見くびっているようにしか見えない男である。


「それでね、私、これでも研究者なんで。火山の研究をしているんです。そうしたらですねぇ、やはり、地中に、と言うよりかは、あの火山本体が、テューポーンという最狂最悪の怪物なのではないか、という説が有力なんですよねぇ。」

「テューポーンねぇ。」


名前は何処ぞで薄っすら耳にしたことが、あるような、ないような。


「なんか、見せたくなってきちゃったなぁ。じゃあ、もう、そこまで言うなら僕の研究室来てください!ティータイムも名残惜しいですが、予定変更です!」


「別に何も言っちゃいないぞ?」


面白い男である。



***



「実は最近、何か手掛かりがあるかも、と思い、人族領北西の岩山の渓谷に調査に入ったんです。そこでなんと、見つけちゃったんですよぉ。これ。」


見ててくださいねぇ、と言って、彼は扉を開けた。

するとそこには、大きな縦長のガラスケースがぽつん、と光に照らされて、佇んでいた。


その中にあったのは、


「雄羊の頭に、獅子の体、鷲の翼を持ったような怪物・スフィンクスのミイラです。」


「ス……、フィンクス……、」


「実際にテューポーンと関係があるのかは詳しくは分かりませんが、領地を跨いでいるとはいえ、そこまで遠い距離でもありません。第一、テューポーンも、スフィンクスも、現世のアエルテには生息していませんから、きっと何か関係があるのでは、と踏んでいます。」


「はぁ……。」


見たことがある。

どこかで、見たことがある。


あ、あそこだ。


「……どうか、されました?」


「――ある。あるぞ、スフィンクス。」


「ある、って……、そりゃあ此処にはありますが……。」


「違う、故郷にだ。――『グラベレ』にだ。」


「……!!!」


「確か、これによく似た、古代遺跡のような構造物が、私の棲む国の隣にある。似た、というか、このまんまだ。これを石に置き換えれば、きっとああなる。」


「なるほど……。となると、アエルテとグラベレにも、何か関係が……?、ふっふっふっふ、楽しくなってきた!」




「研究という“旅”は、いつになっても、いくつになっても、楽しみなものなんだ!!!」




***



「それじゃあ、私はもう帰るよ。」


「えぇ〜、もっと居ましょうよ〜、まだお茶もしていないのに〜。」


「そんなことしたら夜が明けてしまうだろう。私はもう昼間の軍の攻撃のせいでくたくたなのだ。まぁまた、その内来るさ。」


「そう言って、また500年後とかなんでしょう?」


「……そうかもな。」


「ま、気長に待ってますよ。“魔族ですから”。」


「はっ、……良い使いどころだな。」


「あ、ちなみにミドさん、どこの“ポータル”からいらっしゃったんです?此処の“ポータル”から出てきた痕跡はありませんでしたけど……、」


「あぁ、それが、魚族領の遺跡?みたいなところの“ポータル”から出てきたらしくてな。あれは、お前さんたち妖……、魔族が新しく作ったのか?」


「……え、魚族領……?、そう、ですか……!それはどうも……!」


アムリヌは面食らった顔をして、少し考えたような仕草の後、なにか誤魔化すように受け答えた。


「はぁ?、……まぁ、良い。じゃあ、またな。」


「あっ、えぇ。また。」


そうして、ドレイクは元の大陸へと戻って行く。


きちんと、右手には、あの地図も握られていた。





「魚族領に“ポータル”……?、そんなとこに“ポータル”なんて本来無いはずだが……、これまた研究する価値がありそうだ。楽しくなってきたァ……!!!」



超大陸『アエルテ』。


その全貌を、彼らは、あなたは、まだ知らない。


これは、物語的プロローグである。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

超大陸旅行記 初空 林檎 @MewskyAppl3

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ