第6話 領都に行こう⑦

 夕方前。構は仕事から帰ってきた。他作業の待ち時間も多く、作業は少なかったが疲労は濃い。工具をしまうので軽トラごと工房前に突入だ。


「はーつかれた」

「うむ、ご苦労様だ。よくぞ帰った」


 構は仁王立ちのスフレにお出迎えされた。長身美女なので女仁王だ。

 何があったか不明だがご機嫌である。

 

「クッキーが夕食の準備をしている」

「あぁ、お酒が飲みたいんですね」

「そんなことはないぞ! 疲れてるだろうカマエ殿の慰労をだな」

「汗だくなんで、片付けて風呂に入ってきますよ」

「そ、そうか……」


 途端にシュンとなるスフレ。クッキーが忙しい今がいろいろ言われないで済むフリータイムなのだ。

 構は「風呂は寝る前にしますよ」と察した。美人に甘いともいう。


「そうか! 手伝うぞ!」


 パッと表情を明るくさせたしスフレが嬉しそうに見えないシッポを振っている、様に幻視した。少なくとも構には見えた。



㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢



 夕食も恙なく終わり、明日からの打ち合わせだ。構はいつものコーヒーで、スフレとラスクは紅茶だ。クッキーは片付けである。よく働くメイドさんだ。


「明日は何時に出るつもりで?」

「早い方が助かるな。通り道の村と街に顔を出して魔獣の被害がないか確認はしたい」

「俺っちとお嬢様で倒せるなら倒したいっすね」


 構は「魔獣か」と唸った。この森にいると分からないが、祖父が魔導具を作るほど被害があるのだろう。どんな魔獣なのかは構も知らないが、魔獣が出たならば領主の娘であるスフレは解決したいはずだ。構も協力するのは吝かではない。というか、祖父の作ったものが活躍するなら見てみたい気持ちすらあった。


「朝8時に出発したとして、領都に着く予定は14時だろうか。途中の村を巡回すると、もう少しかかるかもしれん」

「それより早いとお嬢様の用意がおぼつきません」

「む、寝坊はしていないぞ?」

「きちんとお化粧はしていただきます」


 主人たるスフレが押され気味だ。お世話係は強い。


「じゃあ7時には食事で、8時には出るということにしましょう。俺もその予定で準備するんで」


 構とて着替えなどの準備は必要だ。ひっそりとお土産も買ってきたし、あの蜂蜜酒も持っていくつもりだ。向こうで使うかもしれないので工具とベルーイゲンの木も持っていく。軽トラで行くので荷物があっても問題はない。


「昼食は作ったものを持っていきましょう」


 昼食はお弁当があるらしい。構はおにぎりを持っていくつもりだ。


「またあしたー」


 解散就寝となった。

 翌朝。朝食をとって荷物を軽トラに積んでシートをかぶせた構は、ふと気が付いた。


「軽トラで行くつもりだったけど、柵を超えられないじゃん」


 柵にあるドアは人用であり、車など通れるはずもない。加工すればいいのだが今からでは遅い。


「しくじったなぁ……」

「カマエ様、問題ありません。森を出るまでこのケイトラごとマジックバッグに入れてしまいましょう」

「そんなことできるの?」

「造作もありません」


 クッキーが肩掛けのポシェットを軽トラに当てると、軽トラが消えた。

 涼しい顔のクッキーがスカートをつまむ。構は「信じられん」と言う顔だ。いかん、物理法則がふて寝をしてしまう。


『朝から騒がしいねぇ』


 空から巨大な白いロップイヤーことママウサギが降りて来た。音もなく着地すると、構の前に歩いて来る。


「おはようママさん」

『あぁ、おはよう。出かけるんだって? 留守は妾たちに任せてお行き』

「あれ、ママさん知ってたの?」

『妾たちの耳はいいからねぇ』


 ママウサギがニヤリとする。森がガサゴソし、チビウサギとチビヨツデクマがわらわら出てきた。


『『『『ルスバーン』』』』

『『『『マカセロ』』』』


 チビウサとチビヨツデクマはあいさつもそこそこにそのまま畑に行ってしまった。


『トリー』

『コケー』

『グワー』


 畑でキャベツを食べていたロードコッコ3羽とわちゃわちゃしている。

 構は、チビたちだけで大丈夫かなと心配になるがママウサギとシュウチョウもいるしなと割り切った。

 家には不在を伝える紙を玄関に貼っておいたので訪れる人がいても留守だと分かってくれるはずだ。泥棒が来ないことを祈る。


「うわ、ハネウサギとヨツデクマのちんまいのがあんなにいるっす」


 ラスクは驚いているがスフレはママウサギと何やら話をしている。長身のスフレと2メートルほどのママウサギ。ほとんど同じ背丈だ。

 背が高くていいなぁと構はのんきに眺めていた。


『いいだろう。カマエ。森を出るまで妾があんたを運んでやる』

「ほひょ?」


 突然振られた構は素っ頓狂な声で応じた。


『では行くぞ』


 構はママウサギにがしっと抱き上げられた。スフレらはロードコッコーに乗り終えている。


『先に行くよ』


 ママウサギがふわっと浮かび上がり、木々の上を飛び始める。ロードコッコ3羽が森の中を追いかけた。

 飛ぶこと10分で視界から森が消え、草原が広がった。ドローンからではわからなかったが、森は少し高くなっているようで、なだらかにくだる草原が地平線まで続いている。


「おおおお、北海道でもこんな景色はないぞ!」


 視界いっぱいに広がる草原に構は大興奮だ。モニター越しに見る景色は美しいがどこか狭苦しい。自分の目で見る景色には遠く及ばない。


『ここから先には獣もいるけど、魔獣も発生する。気を付けな』


 ママウサギにおろされ、構は自分の足で立った。くるぶしを超える丈の草が風に揺れている。小さな花を咲かせた草もある。空は青く晴れ渡っていた。構の心が高揚していく。


「空は速いな」


 森をかき分け、ロードコッコ3羽が出てきた。スフレの髪に葉っぱが絡まっている。強引に藪を抜けたようだ。


「ケイトラを出しますね」


 ロードコッコから降りたクッキーがポシェットから軽トラを取り出す。

 意味が分からんと呆ける構えだが正気に戻り軽トラをチェックする。キーを捻れば、キュキュキュドゥンとエンジンがかかる。


「計器類に異常表示は無し! じゃあ行ってきまーす」


 構はママウサギに手を振って運転席に乗り込んだ。






この話で第1章が終わるので次の第2章へ続くのですが、公開前にちょっとインターバルを取ります。数日程度の予定です。

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