【漫画原作応募用脚本】亜斗璃-ATORI-

東條零

第1話

■ 雪原


 雪解けの来ない雪の都。那岐なぎの里。

 雪で白くなった霊峰、白麓山はくろくさんがそびえている。


 遠景からカメラ寄る。


 巨大な月が覆い被さるように夜空に浮かんでいる。

 月を背負って立つ少年(偉須火イスカ)の長い髪が風になびいている。

 少女(亜斗璃アトリ)を片手で抱き、もう片方の手に持った長い剣を、少女の喉元にすらりとあてがっている。

 二人は双子。

 亜斗璃の潤んだ瞳。

 その額には、天使の翼と剣を模した紋章がある。

 亜斗璃の目尻を涙が伝う。

 額に黒い布を巻いた偉須火の、意志の強そうな瞳。

 亜斗璃、目を閉じる。

 堕ちてきそうな月。


偉須火(モノローグ・以下M)「もし、おまえの頭上に運命が堕ちて来るのなら……。俺は、運命に抗う悪魔になろう――」



〇タイトル「亜斗璃-ATORI-」



■ ボロボロの教会(亜斗璃と偉須火の家)


 亜斗璃が唄っている。

 雪が穴の空いた屋根から降り込み、礼拝堂で跪きうなだれる数人の頭に降り積もっている。

 皆、粗末な服装で、くたびれている。

 亜斗璃が唄うと、温かな癒やしの風が吹くイメージ。

 額の天使の翼の形をした紋章が輝く。

 教会の中の雪が溶けていく。


 唄い終わる亜斗璃。

 一同が、口々に「ありがとうございます」と言っている。


老人「ありがとうございます、亜斗璃様。背中の痛みが和らぎました」


母親「(赤ん坊を抱いている)この子も、久しぶりに安らかに眠れたようです」


亜斗璃「(額の紋章を隠すように白い布を巻きながら)良かった……。でも、わたしは、痛みを和らげるだけだから、ちゃんと薬師のところに行って、薬湯、もらってね」


 亜斗璃、額の紋章を隠す布を巻き終える。はちまきのような感じ。後ろはリボン結びになっている。


老人「なんのなんの。亜斗璃様の唄が、なによりの薬ですわ」


亜斗璃「ありがとう。早く、伽那璃かなり様みたいに唄えるようにがんばるね(微笑む)」



■ 伝説の唄姫、伽那璃のイメージ


 豪華な宮殿のステージで、カナリアのような黄金の衣装を着て、優雅に唄う。

 額には、亜斗璃と同じ紋章。


 亜斗璃、うっとりした目で思い出すように。


亜斗璃(M)「伽那璃様の唄は、魂の微笑み……。わたしも、いつかあんな風に……」



■ イメージ戻り、教会


 偉須火、奥から小盆を持って現れる。

 偉須火も、額に黒い布をターバンのように巻いている。


偉須火「(笑顔で)甘露酒です。どうぞ。あたたまりますよ(小盆に載せた器を配る)」


老人「おお。これは、偉須火様。ありがとうございます(器を受け取る)」


偉須火「ぼくには、何の力もありません。こうして、みなさんのお世話をするくらいしか……。ですから、どうかそのような呼び方は……」


母親「何をおっしゃいます。私たちに安心を与えてくださいます亜斗璃様の、双生の兄上様ではありませんか」


 偉須火、黙って微笑む。

 慈愛に満ちた天使の微笑み。

 偉須火、亜斗璃にも器を手渡す。


亜斗璃「ありがと(見つめ合って微笑む)」



■ 樹氷の森


 枯れた木々の間で、鳥がさえずっている。

 樹氷がキラキラ輝いている。


亜斗璃「えっと……。この辺でいいよね……」


 亜斗璃、背の低い木の、細い枝に果実(鳥の餌)を刺す。

 雪の塊が、亜斗璃の頭に落ちてくる。


亜斗璃「きゃっ!」


ソウル(OFF)「や~っ! わりぃわりぃ!」


亜斗璃「(泣きそうな顔で木を見上げる)誰っ?」


 木の上は、太陽の光がまぶしくてよく見えない。黒い影が判る程度。

 手をかざして上を見る亜斗璃の目の前に、男が飛び降りて来る。


ソウル「よいせっ!」


 男がかっこよく着地する。

 ごつい戦士の装束を身にまとったソウル。

 驚く亜斗璃。

 ソウル、ニパッと破顔する。


ソウル「ごめんな~。ちょっと寝返り打ったら、バサッと落ちちゃったわけよ。わざとじゃないぜ(ひょいと手を伸ばし、亜斗璃の肩の雪を払う)」


亜斗璃「(さっと身をかわして)け、けっこうです」


ソウル「取って喰いやしねぇからさ、赦してくれよ、な?(片手で拝む真似をする)」


亜斗璃「(警戒した上目遣いの視線)…………」


ソウル「ダメ?(真似して上目遣いの視線)」


 亜斗璃、きょとんとし、吹き出す。


亜斗璃「(笑いながら)おかしな人……」


ソウル「ははっ。やっと笑った。お嬢ちゃん、笑った顔、すげぇ可愛いぜ」


亜斗璃「(困ったように)え……」


ソウル「あ、困った顔も可愛い。くるくる変わるんだなぁ。あ、俺、ソウルってんだ。お嬢ちゃんの名前は?」


亜斗璃「(ためらいがちに)亜斗璃……」


ソウル「(ニッと笑って)名前まで、可愛いんだな。気に入った。デートしようぜ?」


亜斗璃「(戸惑って)えっ……?」


 ソウルの右肩に、剣の切っ先が乗せられる。

 ソウル、ビクッとする。


偉須火「拐かしか、物取りか? 生きて帰れると思うな」


 偉須火、右手に持った剣を、背後からソウルの右肩に乗せ、首筋につきつけている。


ソウル「げっ……、俺様としたことが、不覚……」


 ソウル、両手を肩の高さまで上げる。


亜斗璃「偉須火!」


偉須火「(ソウルに)名乗れ。それともこのまま首をハネられたいか?」


ソウル「……ったく、せっかちな野郎だな……。俺は、イダリが国の国王、蒼雷ソウライ王が三男、蒼流ソウル


亜斗璃「(驚いて)王子様?」


偉須火「ふうん。供もつけずに、ちゃらんぽらんで不用心な王子様だな。那岐の里に近づく目的は?」


ソウル「唄姫を我が神殿にお招きしたい」


偉須火「(目を細める)は?」


ソウル「正式な使いを派遣する前に、下見というかなんというか……」


偉須火「目的は?」


ソウル「我が都には原因不明の奇病が蔓延し、父、蒼雷王もその病に倒れた。那岐の里には、どんな病もを唄で癒す巫女が居るという。是非とも、慈悲におすがりしたい」


偉須火「(剣を収める)残念だったな。あいにくと、唄の巫女は多忙だ」


 ソウル、ゆっくりと偉須火を振り返る。


ソウル(M)「同じ顔……双子……?」


ソウル「こっちの可憐なお嬢ちゃんとは違って、えらく食えねぇ小僧じゃねぇの」


 偉須火、無視して亜斗璃を庇い、促す。


偉須火「(ソウルを睨む)自分の国に帰れ」


ソウル「待てって。一方的じゃねぇか、てめぇも名乗りやがれ!」


偉須火「おまえが捜している唄姫の兄、偉須火だ」


ソウル「(驚く)なん……」


偉須火「決闘なら相手になろう。だが、王子の死体を送りつけられては、おまえの国も黙ってはいまいな」


亜斗璃「やめて、偉須火」


偉須火「亜斗璃は黙って……」


ソウル「そんな物騒な話じゃねぇって」


偉須火「唄姫は里の巫女。鳥のように狩られて、血を吐いて死ぬまで唄わされた歴史を知らないとでも?」


ソウル「勿論、充分な報酬は払うし、最大限の敬意を持って接する!」


偉須火「みんな最初はそんなふうに言ったらしいな」


ソウル「(必死に詰め寄る)だからっ!」


偉須火「帰れ」


 偉須火、亜斗璃の腕を掴み、強引に引っ張る。


偉須火「行くぞ」


亜斗璃「(後ろ髪をひかれるように)ソウル……」


 茫然としているソウルを残して、二人、去る。


ソウル(M)「(腰の剣に手をかけて)小僧……。俺に勝てるなんざ、マジで思ってんのかよ?」


ソウル(M)「だが……。ヤツの殺気……。あれはいったい……?」



■ 森の出口


 鳥がさえずりながら木々を渡る。

 不機嫌な偉須火が、亜斗璃の手を引いて歩いている。


亜斗璃「偉須火、そんなに怒らなくても……」


偉須火「怒ってない」


亜斗璃「うそ」


偉須火「気安くよその者と口をきくな」


亜斗璃「でも、悪い人じゃ、なさそう」


偉須火「おまえは、自分の立場を軽く見すぎている」


亜斗璃「(クスクス笑う)偉須火は心配しすぎだよ」


偉須火「俺は、宮廷で飼い殺しにされた過去の唄姫たちのことを忘れるなと言っているだけだ」


 偉須火、亜斗璃に背を向ける。



■ 樹氷の森


 ソウル、同じ場所で座り込んでいる。


ソウル「ったく。なんだ、あのオニイチャンは……。小僧のくせになんて目をしてやがる……」


 ソウル、里に来たときのことを思い出す。



■ 那岐の里、入り口(回想)


 ソウルが一人、雪道を、村へ向かって歩いている。

 村人が、見慣れないソウルを避けるように警戒して道を開ける。

 木で作ったリヤカーのようなものに、病人を乗せて運んでいく人が居る。

 子供を抱いて心配そうにしている母親が居る。

 咳き込む老人が、歩いている。


ソウル(M)「この里も、貧しい……」


ソウル「だが……」



■ ソウルの国のイメージ


 石畳の道が整備された王国。

 病にかかった人々が、道ばたのそこら中に倒れている。

 ソウル、拳をぎゅっと握りしめる。


ソウル「俺が、この国を救わねば……」



■ 那岐の里、入り口


 ソウル、道行く年寄りに声をかける。


ソウル「爺さん、この里には、唄で病を治す唄姫がいるって聞いて来たんだが?」


老人「さあな。知らぬよ……」


ソウル「隠すこたぁねぇだろ?」


老人「おぬし、どこぞの王国の者じゃろう? 今まで、あまたの唄姫が王国の鳥かごに押し込められ、喉が裂けて血を吐くまで唄わされたのじゃ……」


ソウル「えっ?」


老人「鳥かごの中では、うたうたいは生きられぬ。あの、聖なる山、白麓山はくろくさんの麓のこの里でしか、うたうたいは生きられぬのじゃ。ゆめゆめ、連れ去ろうなどと考えるでないぞ」


 ソウルが山を見上げる。

 雪に覆われた霊峰、白麓山がそびえている。 



■ 非業の死を遂げた唄姫たちの過去回想


 豪華な神殿。鳥の羽のような衣装に身を包んだ唄姫が、唄っている。

 苦しげに倒れる。

 額には、亜斗璃と同じ紋章。

 倒れた唄姫、衛兵に鞭で叩かれ、叫びながら身をよじる。

 倒れたまま鞭打たれる唄姫、血を吐いて動かなくなる。



■ 回想戻り、森の出口


 偉須火、亜斗璃の手を離す。

 浅くため息をついて、亜斗璃に背を向ける。

 亜斗璃、偉須火の背中からバックハグ。


亜斗璃「ごめんね」


偉須火「……」


 偉須火、自分の腹に回った亜斗璃の腕に視線を落とす。


亜斗璃「偉須火……(そっと背に頬を預ける)」


亜斗璃「ごめんね、偉須火。誰よりも、わたしのこと判ってくれてるの、偉須火だもんね」


 偉須火、亜斗璃に向き直り、抱きしめる。


亜斗璃「(偉須火の顔をなぞる)お願いだから、わたしのために、そんな怖い顔、しないで……」


偉須火「亜斗璃……」


 抱き合う二人のシルエット。


つづく

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