第3話「『ダスク・ムーバーズ』後編」
○「ダスク・ムーバーズ」開発会社付近・人気の無い道路(新玉と太郎が会った翌日・夜)
開発会社の男性社員が一人で帰宅中。その前に現れるジョーカー。
ジョーカー「ダスムバ公式宣伝大使・ダスムバ博士の中の人にして、カード開発部員・
出上「な、何ですかあなた! 本物のモンスター!?」
ジョーカー、出上に鎌を突きつける。
ジョーカー「いいかぁ? 死にたくなかったら、来週までに、バウンドレス・ウィキッド・ドラゴンに有利な魔法カードを、ルールで禁止にするんだ。お前の権限ならできるだろぉ?」
出上「ら、来週までなんて、できませんよ……。禁止カードの制定は年2回と決まってるんです……」
ジョーカー「ふぅん、そういうこと言っちゃうんだ」
ジョーカー、出上の頭上で死神の鎌を振るい、後ろにあった駐車禁止の標識を切る。
出上「ひぃぃぃぃ! わかりました! わかりました!」
倒れた駐車禁止の標識が、カードの禁止を示唆する画。
○太郎の同級生の家(同日・昼)
男子小学生が集まり、地べたでダスムバを遊んでいる。太郎と小学生Aの対戦をみんなが観戦。
小学生A「
小学生C「うわ、手札めっちゃ増えた! 戸門、これ次のターンからやりたい放題されるぞ」
太郎(ここで、相手の手札を捨てさせるカードを……)
×××
今朝、太郎の家での、ジョーカーとの会話の回想。
ジョーカー「オレはジョーカー! オレがお前を、『ダスク・ムーバーズ』の……そして学校の主人公にしてやる」
太郎「どうやって……?」
ジョーカー「カードゲーム漫画の主人公が毎回勝つのは、要は、その場の状況に合ったカードを都合良く引けるからだろぉ? お前にそのやり方を教えてやるってんだよ」
太郎「それって……」
ジョーカー「今はちょうど長袖の季節だから、その中にあらかじめ引きたいカードを……」
太郎「それって、イカサマじゃんか!」
ジョーカー「バレなきゃいいんだよぉ……。それに、ズルと言えば、ガキのくせに親の金に物言わせて高いカードで勝ってる同級生どもの方が、よっぽどズルだろうがよ」
太郎「……」
ジョーカー「ぎははははは、安心しろ……。オレは奇術師だ。お前の腕に憑いて、一瞬ですり替えてやるぜぇ」
回想ここまで。
×××
太郎「ドロー!」
太郎、オーラ(周りからは見えない)を帯びた手で、山札からカードを引く。幽霊のように半透明のジョーカー(同じく周りからは見えない)が指をパチンと鳴らすと、引いたカードが、袖の中のカードと一瞬ですり替わる。
太郎、引いた(ように見せた)カードを確認。そして即座に使用。
太郎「……来た! 魔法カード「エビング・ハウス」! 相手の手札をすべて捨てさせる!」
観客たち、どよめく。
小学生A「マジかよ! 俺のターン! クソ、何もできねぇ」
太郎(相手が手札を失って、魔法を撃たれる危険が無い今……)
太郎「ドロー!」
太郎&ジョーカー、引いたカードをバウンドレスにすり替え。
太郎「来たぜ! オレの切り札! バウンドレス・ウィキッド・ドラゴン!」
太郎、バウンドレスを場に出す。
観客たち、さらなるどよめき。
小学生A「頼むから魔法カード来てくれ!」
A、ドロー。
小学生A「ダメだ~!」
太郎「とどめだ! バウンドレス・ウィキッド・ドラゴンで
小学生A「これは完敗だわ……」
小学生C「すげぇ! 戸門、マジで主人公じゃん!」
太郎、戸惑うような笑顔。
太郎(これが……主人公……)
盛り上がるグループを、訝しむ目つきで眺める小学生B。
○花布堂・バックヤード(同週・数日後・昼)
新玉、机の上に大量のカードと、漫画『ダスムバ』の本を広げて、スマホを見ながらデッキ考え中。
そこへホカゲがやってくる。
ホカゲ「おっ、勤務中にカード遊びか。良い感じにサボり癖がついてきたな、新人!」
新玉「楢原さんに許しは貰ってるよ。来週も太郎くんの遊び相手になるために、デッキ組んでるんだ」
ホカゲ「お前にサボり癖を植え付けたガキか。でも確かそいつ、金が無くて強いカードが買えないって話じゃなかったか? 大人の財力で買い集めたカードで蹂躙するのかよ?」
新玉、ニヤリと笑う。
新玉「いや、単に強いデッキを組んでるわけじゃないんだよ」
ホカゲ「ほーう?」
新玉「ダスムバの漫画を読んでわかったんだけど、漫画のキャラは、それぞれの個性に合ったカードを使うんだよね。熱血な主人公は、ヒロイックな炎のドラゴンを使うし、知的なクールキャラは、知識の象徴である手札を増やす戦略を使う。死を司る敵キャラは、倒されたモンスターを復活させるカードを使う……って感じで」
ホカゲ「なるほどなぁ……。それでいうと、陰湿なキモオタのくせに炎の魔法使いやってる楢原は、キャラ設定失敗してるな」
新玉「あと、これは宣伝のための漫画だから当たり前だけど、最新のカードしか出てこないね。何年も前に発売された、もう売ってないパックのカードを活躍させても、それに憧れた読者は新商品を買わないから」
ホカゲ「つまり、何が言いたいんだよ」
新玉「つまり僕がやろうとしてるのは……何だこれ!?」
スマホでSNSを見ていた新玉、何かに驚く。
ホカゲ「どうした?」
新玉「急に、新しい禁止カードが発表されたんだ」
ホカゲ「禁止カードなんてあるのか」
「糾弾する凶弾」をはじめとする魔法カードの禁止を知らせる、ダスムバ公式SNSの投稿。
新玉「うん。運営が強くしすぎちゃったカードは、ゲームバランスを守るために、ルールで禁止されることがあるんだけど……でも、こんな急に……。それにこれ、バウンドレス・ウィキッド・ドラゴンを破壊できる魔法カードばっかりだ……。ネットもざわついてる。「こいつらを禁止する意味がわからない」って」
ホカゲ「その、バウンドなんとかって、例のガキのお気に入りカードだったよな? ガキのお気に入りにとって都合の悪いカードだけが、いきなり不自然に禁止されたのか?」
新玉「まさか……」
新玉・ホカゲ「トートロル!」
○軽田ビデオ・対戦スペース(翌週・休日・昼)
店が主催する、ダスムバの大会が開かれようとしている。参加者は主に、太郎、小学生A、B、Cを含む男子小学生たち。
対戦表が書かれたホワイトボードの前で、店長が開会の挨拶。
店長「えー、それでは軽田ビデオ、ダスク・ムーバーズ公認大会を始めます。ルールとマナーを守って、楽しんでください!」
1回戦、太郎は小学生Bと対戦。
太郎・小学生B「対戦、よろしくお願いします」
B、丁寧に挨拶しつつも、太郎を怪しむ目つき。
小学生B「魔法カード「持続可能な破壊目標」を発動。相手のエネルギーゾーンのカードを破壊」
太郎(ここは、エネルギーゾーンを回復するカードが欲しい……)
ジョーカー(ぎはは、任せとけ)
太郎「ドロー!」
半透明のジョーカー、指パッチン。太郎の引いたカードが、超スピードで袖の中のカードとすり替わる。
太郎「アイテムカード「ド根性へちま」発動! こいつが場にあれば、毎ターン、エネルギーゾーンを1枚ずつ増やせる!」
その瞬間、Bが身を乗り出して、机越しに太郎の手首を掴む。
太郎「え……」
小学生B「店長さーん! 来てください!」
店長が来る。
店長「どうしましたか?」
小学生B「こいつの袖、まくってください」
店長「え?」
小学生B「こいつ、イカサマしてるかもしれないんです」
太郎「し、してない……!」
店長「……失礼」
店長、太郎の両腕の袖をまくる。すると、バウンドレス・ウィキッド・ドラゴンや、エビング・ハウスをはじめとする強力なカードたちが、バラバラと出てくる。
太郎「……なんで……」
小学生B「戸門、どう考えても引き良すぎなんだよ。お前のデッキ、パックから出たカードの寄せ集めだから、同じカードは1種類につき1枚しか入ってないはずだろ。それなのに、状況に合ったカードが安定して引けるのは、やってるとしか思えんかった」
店長「はぁ……。大会の最初に言ったよね。「ルールとマナーを守って」って。なんでこんなことしたの?」
気づけば、周りの参加者たちも対戦を中断し、太郎を軽蔑の眼差しで見ている。
太郎「……」
Bは手首を放さない。太郎、涙目。
小学生B「まあ、気持ちはわかるよ。お前、漫画の主人公に憧れてたもんな。でも現実見た方がいいって。お前は、卑しいイカサマ師の悪役で、切り札のバウンドレスは雑魚だよ」
その時、ジョーカーが実体化。
ジョーカー「
小学生B「なんだこいつ!?」
B、手首を放す。ジョーカーに驚き、恐れる一同。
ジョーカー「主人公の恥ずかしいトコを見ちゃった奴らは、皆殺しだぁ~!」
鎌を出現させるジョーカー。
そこへ楢原(生身)が現れ、ジョーカーに掴みかかる。
ジョーカー「なんだお前!」
店長「楢原さん!?」
楢原「皆さん、下がって!」
楢原、生身の格闘でジョーカーと渡り合い、一撃を入れる。
ジョーカー「クソォ、ここは退くぜ!」
ジョーカー、三日月型の乗り物を出現させ、それに乗り、飛んで逃げていく。
楢原「待て!」
楢原、ジョーカーを追う。
机や椅子が倒れる中、物陰に隠れるなどし、何が何だかわからない一同。
小学生B「戸門……何だよ、あれ!? お前がけしかけた化け物か!?」
太郎、泣くしかない。
そこへ、新玉がやってくる。
新玉「落ち着いて! 太郎くんは悪くない!」
太郎「……お兄さん……悪いよ。悪いんだよ! 俺が悪いんだ! 「イカサマを教えてやる」っていうあいつの誘いに乗って……!」
新玉「わかるよ……。「自分のせいだ」って思う気持ちも含めて、わかる。実は僕も、あれと同じような怪物を生み出しちゃったことがあるんだ」
太郎「……?」
○田舎道(直後)
上を飛ぶジョーカーを、走って追う楢原。
ジョーカー「バーイバーイ!」
楢原「ホカゲ、飛べるか」
楢原、走りながら肩掛けカバンを開けると、ホカゲが飛び出す。
ホカゲ「任せとけ!」
ドラゴンの翼ではばたくホカゲに掴まり、飛び上がる楢原。
ジョーカー「な、何~!?」
楢原&ホカゲ、ジョーカーに追いつき、上に回り込んで蹴り落とす。
ジョーカー「うわ~!」
採石場的な、人目につかない、開けた場所へ落下。
地に落ちたジョーカー、優雅に降り立つ楢原とホカゲ。
ジョーカー「クソォ、太郎は……バウンドレスは……最強でなきゃいけねぇ……」
ホカゲ、ベルトになって楢原の腰に巻きつく。
ホカゲ「観念しな~」
楢原、抜刀。炎に包まれた後、黒い鎧を纏う。
ジョーカー「こうなったら、オレのとっておきの奇術を見せてやる……」
ジョーカー、指パッチンすると、バウンドレス・ウィキッド・ドラゴンと同じ姿の巨大ドラゴンに。
ホカゲ「お、お、お?」
楢原「何……!?」
ジョーカー「ぎはははは! オレ自身がバウンドレス・ウィキッド・ドラゴンとなり、最強伝説を現実のものにしてやるってんだよぉ~!」
○軽田ビデオ・対戦スペース(直後)
新玉がトートロルの説明をした後。
太郎「ダスムバの漫画の物語と、それに感動した俺の心から、あのトートロルが生まれたってことね……。やっぱり、俺が悪いじゃん」
新玉「……自分が悪いって思う気持ちを、抑えることはできないよね……。でも、トートロルが君の心から生まれたなら、そんな君の心には助けが必要だ」
新玉、倒れた机と立て直し、数個のデッキケースを取り出す。
新玉「この一週間、ダスムバのこと勉強して、デッキ組んできたんだよ」
太郎「大人が本気で組んだデッキに、俺の雑魚デッキじゃ勝てませんよ。イカサマでもしなきゃ」
新玉「それが、ただの強いデッキじゃないんだな」
太郎「?」
新玉「これは、ダスムバの漫画のキャラたちが使ってるデッキの再現だよ。公式なリストは出てないから、1コマ1コマ写ってるカードを確認して、同じカードを買い集めた」
太郎「何のために、そんな……」
新玉「(店内一同に)みんなも聞いて! 僕は、「ごっこ遊びとしてのダスムバ」を提案したいんだ」
小学生A「ごっこ遊び?」
以下、新玉の説明に適宜イメージ画。
新玉「カードゲームを本気で勝つためだけにプレイしようとしたら、高いカードを何枚も集めないといけない。でもそれには、置いて行かれる人もいる。そうじゃなくて、漫画のキャラが使ってるデッキを再現したデッキで、キャラになりきって遊ぶんだ。漫画キャラのデッキは、現実では強くないことが多い。強さよりもキャラの個性に合わせたコンセプトが優先されてるし、最新カードしか使わないから。だからカードも比較的簡単に集められる」
小学生A「でもそれ、楽しいかな? やっぱゲームは勝ちを目指してこそでしょ」
小学生C「俺は楽しそうだと思う。結局イカサマだったけど、戸門が主人公みたいなプレイしてるの見て、めっちゃテンション上がったし! 俺もキャラのマネしたい」
小学生B「ルールをちゃんと決めれば面白いんじゃない? 要するにこれ、コンセプト指定、最新カード限定の縛りプレイってことでしょ? その中で勝ちを目指すのも悪くないじゃん」
新玉「もちろん、普通に遊ぶ方がいい子は普通に遊べばいいし、勝ちだけを目指して遊ぶ時があってもいいんだよ。ただ……」
新玉、太郎の方に優しく手を置く。
新玉「誰もが、何かしらの形で、遊びの輪に入れるようにしてあげてほしいんだ」
太郎、また涙があふれてくる。
小学生A「あー……戸門、ごめんな……。俺たち、戸門んちが貧乏なの知ってたのに……いや、知ってたから意地悪してたんだと思う。本当にごめん」
小学生B「俺はやっぱり、戸門が悪いと思うよ」
小学生A「お前っ!」
小学生B「でも、俺も嫌な奴だったな。現実は、誰が主人公とか誰が悪役とかじゃない……。ごめん。一緒に遊んでくれるか?」
太郎「うん……! こちらこそ、本当にごめんなさい」
○採石場(同刻)
ジョーカー(ドラゴン形態)の攻撃を、なんとか捌く楢原。避けては斬撃、避けては斬撃を繰り返すが、まったくダメージが入らない。
楢原「鱗が硬い……。どうすれば破壊できる……?」
ホカゲ「「破壊」……? そういやゲームでは……。おい楢原! 魔法だ! お前のキャラに似合ってねぇ炎の魔法を試してみろ!」
楢原「あ?」
ホカゲ「ダスムバでは、このドラゴンの弱点は敵の魔法なんだよ! それを再現してるとしたら、魔法なら効くかもしれん!」
楢原「賭けてみるか」
楢原、剣を鞘に納めて反撃をやめ、代わりに左手で魔導書を手に取り、右手の平に火球魔法をチャージしながら逃げる。
ジョーカー「オレは最強だぁ~!」
楢原、火球が十分巨大になったところでふり向き、ジョーカーにぶつける。
ジョーカー「ぎはぁ~!」
巨大な火球が直撃したジョーカー、倒れ、灰になって消滅。
ホカゲ「礼は新玉に言えよ? アイツがサボってカードやってたおかげだ」
楢原「だな」
○軽田ビデオ・対戦スペース(直後)
机や椅子を直し、新玉の持ってきた漫画再現デッキで遊ぶ一同。
太郎「とどめだ! バウンドレス・ウィキッド・ドラゴンで
新玉「この僕が……こんなのデータに無い!」
そこへ帰ってくる楢原とホカゲ。
ホカゲ「おいおい、人が命懸けで戦ってる間にカード遊びか」
楢原(お前、そのおかげで勝てたって言ってただろ……)
新玉「トートロルと戦う仕事は、楢原さんとホカゲを信頼してるから」
新玉に勝った太郎が、次は少年Bと対戦を始めている。
新玉「ありがとうございます。こっちの仕事は僕に任せてくれて」
楢原「ごっこ遊びですか……。一見、トートロルがやっていることと紙一重でもありますが……」
新玉「はい。独りよがりな物語で現実を歪めるのはダメだけど……みんなで話し合って、物語を演じるのは悪くないんじゃないかって」
楢原「これからも期待していますよ。新玉さんの仕事に」
店長「あの~、本の整理は……」
○軽田町にある病院・待合室(後日・昼)
診察室へ行く母親を見送る太郎。
看護師「戸門さん」
母「はい。(太郎に)行ってくるね」
太郎「行ってらっしゃい」
母「……太郎、最近顔明るくなったよね」
太郎「そうかもね」
母「ふふ、お母さんもなんか元気になるわ」
母親、診察室へ。
太郎、『ダスムバ』を読み始める。
太郎(俺は主人公じゃない……でも、毎日楽しいよ)
○花布堂(某日・夜)
楢原とホカゲの二人きり。
ホカゲ「この前新玉に言ってた、「抱いた怒りという感情を、割とすぐ忘れる」って話……矛盾してねーか? お前は、怒りを原動力に古本屋やってるみたいなもんなのによ」
楢原「さあな……。「感情」と「信念」は、また少し違うんじゃないか?」
(第3話、終わり)
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