45話 さよならじゃねえだろ


継承式当日。王宮前の広場には、既に多くの国民が集まっていた。


「今日だ……」


物陰から様子を窺いながら、マークは拳を握りしめた。隣には、案内役を買って出てくれたクルットの姿がある。


「マークさん、緊張してますか」


「……当たり前だろ」


十年間一緒だった相棒に、これから何を言うべきか。頭の中で、何度も言葉を組み立てては、崩していた。


***


同じ頃、別ルートから王宮に近づいていたイズマとマミ、そしてグレンも、それぞれ異なる目的を胸に、城壁の内側へと足を踏み入れようとしていた。


偶然にも――その全員が、ほぼ同時刻、王宮の中庭付近に辿り着いていた。


「――お前ら」


「イズマ……グレンまで」


互いの姿を認め、一瞬、誰もが警戒する。だが、それぞれの視線の先には、既に別の光景があった。


***


中庭の奥、儀装を纏ったビビットが、静かに歩を進めていた。


「――ビビット!」


マークが、思わず声を上げた。


振り返ったビビットの目が、大きく見開かれる。


「マーク……!」


駆け寄ろうとしたその足を、マークは止めなかった。だが、口から出た言葉は――感動の再会とはほど遠いものだった。


「さよならじゃねえだろ!!」


「――え」


「勝手に居なくなんなよ!!」


怒鳴るような声に、周囲の国民たちがざわめいた。だが、マークは構わず続けた。


***


「十年だぞ! 十年、ずっと一緒だったのに! あんな別れ方、ねえだろ!」


「マーク……」


ビビットの目が、みるみる潤んでいく。


「悪ぃ……本当に、悪かった」


震える声で、絞り出すように言った。


「……俺も」


一拍置いて、続けた。


「俺も、お前とまた旅をしたい」


***


その言葉に、マークの表情が、くしゃりと崩れた。


「だったら決まってんだろ!!」


親指を、勢いよく突き立てる。


「また、一緒に旅すんぞ!!」


「――ああ!!」


ビビットが、涙を拭いながら大きく頷いた。


その光景に、集まっていた国民たちからも、思わずどよめきが起こった。


イズマもマミも、グレンでさえも――しばし、その場に見入っていた。


***


だが、その空気は、長くは続かなかった。


「――感動の再会、悪いが邪魔するぜ」


低い声が、地響きのように轟いた。


「なっ……!」


振り返ると、獅子のたてがみを持つ巨躯の男が、拳を構えて立っていた。


「マグルス……!」


クルットが、震える声で叫んだ。


「アンクル5のリーダー……!」


***


マグルスが、拳を高々と振り上げた。


「――さあ、始めようか」


地面に、その拳が叩きつけられた。


ドゴォォォォォンッ!!!


轟音とともに、地面が大きく揺れ、王宮の一部が崩れ落ちていく。


「うわあああっ!」


悲鳴とともに、国民たちが逃げ惑う。


「マーク! 気をつけろ!」


ビビットが叫んだ瞬間、崩落の衝撃で、その場にいた全員が――バラバラの方向へと吹き飛ばされていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る