43話 二日前
王宮の外壁沿い、クルットに連れられてマークは歩いていた。
「継承式まで、あと二日か」
「はい。準備で、国中が慌ただしくなってます」
見渡す限り、国民たちが忙しそうに行き交っている。装飾を飾り付ける者、食料を運ぶ者――誰もが、来るべき日に向けて動いていた。
「なあ、クルット。……もっと、ビビットのこと教えてくれよ」
マークが尋ねると、クルットは嬉しそうに頷いた。
***
「俺が助けられたのは、五年前でした」
歩きながら、クルットは語り始めた。
「川に落ちて、流されて……もう駄目だと思ったとき、ビビット様が飛び込んできてくれたんです」
「王族なのに、自分で助けに来たのか」
「はい。周りは止めたそうですけど、『目の前で誰かが死にかけてるのに、黙って見てられるか』って」
その言葉に、マークは思わず笑みをこぼした。
「……そういうところ、変わってねえな」
「え?」
「いや、なんでもない」
十年間見てきたビビットの姿と、目の前で語られる話が、ぴったりと重なった。
***
「それだけじゃないんです」
クルットが、さらに続けた。
「ビビット様が国を出た後、この国は何度も財政難に苦しんできました。……でも、民のために何かできないかって、いつも考えてる人が、たくさんいるんです」
「ビビットが、いなくても?」
「はい。……あの方が示してくれたものが、まだこの国に残ってるんだと思います」
その話を聞きながら、マークは静かに空を見上げた。
――ビビットは、ただ俺の相棒ってだけじゃない。
――この国にとっても、大事な存在だったんだな。
改めて、その重みを噛み締めていた。
***
一方その頃――王宮の一角、豪奢な部屋の中で。
「継承式まで、あと二日か」
ボルテックが、窓の外を睨みながら呟いた。整った顔立ちに、抑えきれない苛立ちが滲んでいる。
「ボルテック様」
背後から、静かな声がかけられた。全世界政府の礼服を纏った男――ブライダルだった。
「手筈は、整っておりますか」
「……ああ」
ボルテックは、拳を握りしめた。
「アンクル5も、既に配置についている。継承式の当日、必ず――」
「王座は、あなたのものになります」
ブライダルが、静かに口の端を上げた。
「あの、逃げ出した弟などより――あなたの方が、この国に相応しい」
***
「……分かっている」
ボルテックは、窓の外に広がる国民たちの姿を見下ろした。
「俺が、この国を救ったんだ。財政難を解消したのも、俺だ」
「その通りです」
「なのに、なぜ……父上は、まだあいつを選ぶ」
拳が、震えていた。
その奥に渦巻く感情は、単純な野心だけではなかった。認められたい、という切実な思いが、確かにそこにはあった。
「ご安心を」
ブライダルが、静かに告げた。
「継承式の日、全てが変わります」
窓の外、夕日に染まる城下町を、二人の影が静かに見下ろしていた。
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