39話 墓前の誓い


森の外れ、小さな石が積まれただけの墓の前で、グレンは膝をついていた。


「……ブグン」


低く、名を呼ぶ。


石の下には、まだ意識を取り戻さない弟が眠っている。マミの祖父にあたる老人の家で、手厚く看病を受けながら。


だが、グレンがここに来たのは見舞いのためではなかった。この場所は――かつて、幼い頃に二人でよく遊んだ、思い出の場所だった。


***


「俺が、弱かったせいだ」


拳を、地面に叩きつける。


「お前を、あんな目に遭わせちまった」


風が、木々を揺らして通り過ぎていく。答える声は、もちろんなかった。


「……もう、二度と」


グレンは、ゆっくりと立ち上がった。


「同じ思いは、させねえ」


その目に、これまでにない静かな決意が宿っていた。


***


グレンは、近くの岩場へと移動した。


そこで、自らの体に炎を纏わせる。


「うおおおおおおっ!!」


轟音とともに、業火が全身を包み込んだ。


肌が焼ける感覚。だが、歯を食いしばって耐える。


――もっと、強く。


――もっと、速く。


炎の中で、意識を研ぎ澄ませていく。


一時間、二時間。


灼熱の中に身を置き続けながら、グレンはひたすら自分の限界を押し広げていった。


***


「はあ……はあ……」


炎を纏うのをやめ、膝をつく。全身から、汗が噴き出していた。


「……まだ、足りねえ」


もう一度、炎を纏う。


繰り返すたびに、耐えられる時間が延びていく。纏う炎の密度も、増していく。


数日が経つ頃には、グレンの纏う炎は、以前とは比べ物にならないほどの熱量を帯びるようになっていた。


***


だが、グレンが目指していたのは、単なる火力の強化だけではなかった。


懐から、洗脳のクリスタルを取り出す。ローズラから奪い取った、あの結晶だった。


「……どう使えば、一番効果的か」


クリスタルを見つめながら、静かに思考を巡らせる。


「力だけじゃ、いずれ壁にぶつかる」


グレンは、静かに呟いた。


「アヌーは、力でも技でも、規格外だ。……真正面からじゃ、勝ち目は薄い」


***


その日から、グレンは戦い方そのものを見直し始めた。


洗脳のクリスタルの力を、様々な形で試していく。


相手の視界を惑わす。動きを一瞬止める。判断を狂わせる。


正面からの力比べではなく、隙を作り出し、そこに炎を叩き込む――そんな戦術を、徹底的に磨いていった。


「……悪くない」


自分の変化を確かめるように、グレンは拳を握った。


***


ある夜、グレンは再びブグンの眠る老人の家を訪れた。


「……まだ、目を覚まさねえか」


眠る弟の顔を、静かに見つめる。


「悪いな、ブグン。……お前を守れなかった分、強くなってから戻る」


その手に、そっと触れた。


「今度こそ、絶対に――お前を守れる兄貴になる」


小さく呟いて、グレンは静かに部屋を後にした。


***


外に出ると、夜空に星が瞬いていた。


「……焔、洗脳、策略」


グレンは、自分の拳を見つめながら呟いた。


「これが、俺の新しい戦い方だ」


以前の、ただ力任せに炎をぶつけるだけの戦士は、もういなかった。


弟への誓いを胸に、グレンはまた一人、静かな夜を歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る