第4世界 プラズマ
36話 ここで、終わろうと思った
氷が解けたのは、日が高く昇った頃だった。
「……っ、寒みい……」
マークは、震える体を抱えながら立ち上がった。隣で、イズマとグレンも、それぞれ体を起こしている。
「……行っちまったな」
グレンが、ぽつりと呟いた。
誰も、それに答えなかった。
***
老人の家に戻っても、マークは口数少なだった。
「マーク、ご飯――」
「……いらない」
マミの声にも、生返事しか返さなかった。
窓の外、花畑を眺めながら、マークはただ座り込んでいた。
――十年間、一緒にいたのに。
――なんで、俺は止められなかったんだ。
考えても、答えは出なかった。ただ、胸の奥に、重い石を飲み込んだような感覚だけが残っていた。
***
「なあ、マーク」
イズマが、静かに声をかけた。
「クリスタル、これからどうする」
「……知るかよ」
マークは、俯いたまま答えた。
「もう、どうでもいい」
「は?」
「ビビットもいねえのに、クリスタル集めて、何になるんだよ」
その言葉に、部屋の空気が重くなった。
「……もう、やめる」
マークは、力なくそう呟いた。
十年かけて追い求めてきた「帰る」という目的すら、今のマークにとっては色褪せて見えた。
***
「――たった一度負けただけで、諦めるのか」
不意に、冷たい声が響いた。
「な――」
振り返ると、扉のところに、白衣を纏った白髪の少年が立っていた。
「ベロニカ……!」
第1世界で、マークを一蹴した張本人だった。
「てめえ、なんでここに……」
「君がその程度の人間なら」
ベロニカは、感情のない声で続けた。
「ビビットが君を育てた十年間は、何だったんだろうね」
「――っ!」
その一言が、マークの胸に鋭く突き刺さった。
***
「なんだよ、それ……」
拳を握りしめ、マークは立ち上がった。
「お前に、何が分かるんだよ」
「分からないさ。だから、聞いている」
ベロニカは、静かにマークを見据えた。
「君は、このまま何もせず、ビビットが連れ去られたことを受け入れるのか」
「……っ」
「それとも」
一拍置いて、ベロニカは続けた。
「もう一度、立ち上がるのか」
その言葉に、マークの中で、何かが小さく動いた。
***
「……立ち上がって、どうなるんだよ」
「今のままでは、また同じように負ける」
ベロニカは、淡々と告げた。
「僕が、鍛えてあげよう」
「は?」
「君に足りないのは、力じゃない」
ベロニカの目に、初めて――僅かな熱が宿った気がした。
「覚悟だ」
***
その言葉が、マークの中で反響した。
――覚悟。
――俺には、それが、足りなかったのか。
拳を握る手に、力がこもった。
「……分かった」
マークは、顔を上げた。
「やってやるよ」
「マーク……」
イズマが、驚いたように見つめる。
「クリスタル集めるのは、まだやめねえ」
マークの目に、再び光が戻っていた。
「ビビットを、取り戻すためにも」
ベロニカは、それに応えるように、僅かに口の端を上げた。
「では、来い」
その体が、静かに空間を裂き始めた。
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