26話 凍てつく想い
マイルの力を宿した銃を構え、イズマは低く身構えた。
「行くぞ」
「来い」
グレンが、両手に炎を纏わせる。
先に動いたのは、イズマだった。
「うおおおおおおっ!!」
放たれた氷弾が、これまでとは明らかに違う速度で疾走する。
「な――速い……!」
グレンが咄嗟に炎の壁を展開するが、氷弾はそれを容易く貫いた。
「がっ……!」
肩を掠め、鮮血が飛び散る。
「……なるほど」
グレンは、傷を確かめながら口の端を歪めた。
「相棒の想いを乗せた一撃、というわけか」
「うるせえ……! お前に、何が分かる……!」
イズマは、次々と氷弾を放った。廊下の壁が、瞬く間に凍りついていく。
***
「悪くない力だ」
グレンは防戦に回りながらも、冷静だった。
「だが――」
炎の渦が、氷弾を蒸発させながら迫ってくる。
「感情に任せた攻撃は、単調になる」
「くっ……!」
読まれていた。イズマの氷弾が、次々と炎に飲み込まれていく。
「まだまだだな」
グレンの拳が、業火を纏ってイズマの腹に突き刺さった。
「がはっ……!」
壁に叩きつけられる。息が詰まり、視界が霞んだ。
「……立てるか?」
グレンが、静かに問いかけた。挑発でも侮辱でもない、ただの確認するような声だった。
「……当たり前だろ」
イズマは、震える足で立ち上がった。
***
――マイルなら、こんなところで諦めない。
――あいつは、いつだって、俺のために動いてくれた。
脳裏に、これまでの記憶が蘇る。
孤独だった自分の隣を、当たり前のように歩いてくれた相棒。
言葉を交わさなくても、いつも隣にいてくれた。
「マイル……」
小さく、その名を呼んだ。
銃身に纏う氷の輝きが、一段と強さを増した。
「……頼む。もう一回だけ、力を貸してくれ」
***
イズマの動きが、変わった。
これまでの感情に任せた連射ではない。一発一発に、狙いすました冷静さが宿っていた。
「――これは」
グレンが、初めて表情を険しくした。
氷弾が、炎の隙間を縫うように飛来する。避けても、避けても、次の一撃が正確にグレンを追い詰めていく。
「くっ……!」
肩を、脇腹を、次々と撃ち抜かれる。
「終わりだ」
イズマが、渾身の一撃を放った。
「うおおおおおおおおおっ!!」
巨大な氷柱と化した弾丸が、真っ直ぐグレンの体を貫いた。
***
ドゴォォンッ!!
轟音とともに、グレンの体が壁に叩きつけられた。
「……ぐ、う……」
崩れ落ちながらも、グレンはかろうじて意識を保っていた。
「……終わった、か」
イズマは、肩で息をしながら銃を下ろした。
「……マイル。……勝ったぞ」
呟いた声が、静かな廊下に溶けていった。
その目に、涙が一筋こぼれた。
「……もう、いいから」
自分に言い聞かせるように、イズマはそう呟いた。
「もう……悲しむのは、これで最後にする」
拳を強く握りしめ、涙を拭う。
そして、崩れ落ちたグレンを一瞥することもなく、扉の奥――クリスタルの気配がする場所へと、静かに歩き出した。
***
一人残された廊下で、グレンはゆっくりと体を起こした。
「……くそ、やられた……な」
血を流しながら、壁に手をついて立ち上がる。
そして、ふと――弟のことを思い出した。
「……ブグン」
無線のような連絡手段は、この世界にはない。ただの勘だった。だが、その勘が、ひどく嫌な予感を訴えていた。
「……あいつ、どこにいる」
満身創痍の体を引きずるようにして、グレンは歩き出した。
弟を探して。
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