24話 怪力比べ

拳と拳が、正面から激突した。


ドゴォンッ!!


轟音とともに、双方の体が同時に弾き飛ばされる。


「……ハッ」


ブグンが、口の端を歪めて笑った。


「悪くねえな、その拳」


「そりゃどうも」


マークは肩を回しながら、痛みに顔をしかめた。骨の芯まで響くような衝撃だった。この十年、いろんな相手と殴り合ってきたが、真正面からここまで拮抗する相手は久しぶりだった。


「本気で来い。手加減されると、逆に腹立つタイプなんでな」


「言われなくても」


ブグンが再び踏み込んでくる。マークもまた、真っ向からそれを迎え撃った。


***


殴り合いは、次第に熱を帯びていった。


拳が交差するたびに、衝撃波にも似た風が周囲の瓦礫を吹き飛ばす。ビビットは少し離れた場所で、固唾を呑んでその光景を見守っていた。


「マーク……」


心配そうに呟く。だが、口を挟むことはしなかった。


――これは、マークの戦いだ。


「がんばれ、マーク……!」


小さな声で、ビビットはそう祈るように呟いた。


***


「なあ、お前」


殴り合いの合間、ブグンがふと口を開いた。


「なんで、あの氷野郎を助けた」


「……別に、深い理由はねえよ」


マークは拳を構え直しながら答えた。


「ただ、目の前で誰かがピンチなら、助ける。それだけだ」


「くだらねえ理由だな」


「お前だって似たようなもんだろ」


マークが返すと、ブグンは一瞬、意外そうな顔をした。


「兄貴のこと、大切にしてるんだろ。さっきの城壁のとこ、ちらっと見えたぜ。グレンってやつと、目配せしてたの」


その言葉に、ブグンの表情が僅かに揺れた。


「……兄貴は、関係ねえ」


「そうか。悪い、余計なこと言ったな」


***


「行くぞ」


ブグンが、再び拳を構えた。


「今度は、手加減なしだ」


「望むところだ」


二人は同時に地を蹴った。拳がぶつかり合うたびに、大地が震えた。何度も、何度も。互角の打ち合いが続く。


マークの拳に、少しずつ疲労が滲み始めた頃――


「そろそろ、終わりにするか」


ブグンが、大きく拳を振りかぶった。


「――うおおおおおおおっ!!」


渾身の一撃。マークもまた、残る全ての力を右腕に込めた。


「うおおおおおおおおおっ!!」


二つの拳が、正面から激突した。


***


ドゴォォォォォォォンッ!!!


大気が震えるほどの衝撃が、あたり一帯を吹き飛ばした。


砂煙が舞い上がる。


静寂が、その場を支配した。


やがて、砂煙が晴れていく。


そこに立っていたのは――膝をつきながらも、かろうじて拳を握りしめたままのマークだった。


ブグンは、大きく仰向けに倒れていた。ぴくりとも動かない。


「……マーク!」


ビビットが駆け寄ってくる。


「大丈夫か!?」


「……ああ、なんとかな」


肩で息をしながら、マークはブグンに歩み寄った。しゃがみこみ、その胸元に耳を寄せる。


「……息は、してる」


かすかに、上下する胸。意識はないが、まだ生きていた。


「よかった……」


ビビットが、安堵の息を漏らした。


***


「悪いな……」


マークは、動かないブグンを見下ろしながら、静かに呟いた。


「殺すつもりは、なかった」


勝った、という実感よりも先に――重たい何かが、胸の中に沈み込んでいくのを感じていた。命のやり取りの先にあるものは、いつだって重い。


「マーク、置いていくのか?」


ビビットが問う。


「……いや」


マークは少し考えてから、ブグンの体を近くの木陰に運んだ。


「誰かが、見つけてくれるだろ。……こんな状態のまま、放っておくのは寝覚めが悪い」


木陰にブグンを横たえると、マークは立ち上がり、拳を握り直した。


「行こう、ビビット」


「ああ」


王宮の奥――イズマが向かった方角を見据え、二人は歩き出した。


木陰に横たわるブグンの姿は、やがて視界から遠ざかっていった。

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